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2007年7月 1日 (日)

吉田とし という児童・青春小説家がいた。 その4

『家族』1983年の作品。

著者吉田とし晩年の大作。NHKでドラマ化されたこともある。

静岡に父母姉弟と母の祖父母との三世代住宅を建てて暮らし始めた家族の運命を描く。
会社の立場が思わしくなくなり失業、職探しに追い込まれる父。一方、母親は友人の仕事を手伝い始めたことで、外の社会に生きがいを感じ始める。
弟は、新しい環境になかなか馴染めない。
高校生のヒロインは、富士山麓での自衛隊の日米合同演習の反対運動に参加する地元の園芸センターで働く植物好き、地元の自然を愛する青年と知り合う。
だがそのような政治運動に参加する青年を父はよく思わない。
一方外の世界を知ってしまった母はもう家庭には戻れそうもなくなる・・・。
そしてヒロインは米兵に暴行されるという悲劇が・・・。

80年代、経済大国という言葉が生まれる程、日本は歴史上未曾有の繁栄を迎える。しかし、誰もが望んだ筈の社会が実現すると、日本人は新しい問題に直面する。家族形態の変化もそれだ。
この物語の家族は、新しい家族問題の縮図として描かれる、作者は単なる現実描写に留まらずこれからおこり得る問題、再生の道を模索する。

しかし、それは今日保守層が謳うような家族への回帰ではない。母親は家を出るが、弟は祖父の示唆で富士山関連の郷土研究を始め、それをきっかけに友人との交流も始まる。ヒロインも祖母の支えで母の自立と暴行で受けた心痛から立ち直る。
そして父も青年に理解を示し始める。

繁栄が母親を家事から解放し、家を出て行く姿を描く一方で、祖父母が家族の再生に重要な役割を成すのが興味深い。
核家族化の進行の一方で展開された「三世代住宅」という不動産事業のスローガンを無意味なものとしてリアルに描くのではなく、世代間の交流という人間的な理想を追求した。

さらにその背景で、作者が愛する静岡と富士山の自然が軍事演習で蝕まれていく怒りと悲しみが描かれている。

作者は最後まで、この作品の続編を構想中だったという。作者の早すぎる死が惜しまれる。例えば、母親に代表される女性の社会進出は、この後、今日まで様々な試練を強いられているのは周知のこと。富士山の自然の悪化、日米関係に至っては・・・。

それらの現実に女史の冷徹にして想像力豊かな筆力がどう立ち向かうか読みたかった。

[2008.10.17修正]

吉田とし という児童・青春小説家がいた。 その5

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コメント

こんにちは。

拙ブログにTBをいただきましてありがとうございました。吉田としさん関連で、TBをいただけることの稀少さを思います。仕事柄、広範囲に出版物について知らなくてはならないところなのですが、なかなか不勉強なところもあり、皆さんの見識や考察に、認識をあらたにしております。また、是非、参考にさせていただきたいと思います。宜しくお願いいたします。

投稿: ともお | 2008年1月11日 (金) 12時03分

ひょんなことから、子供のころに読んだ、
吉田としさんの「おにいちゃん劇場」を再読しました。
当時以上に感動しつつ、また子どもの頃と好みは基本的に変わらないな、とも再確認。

この作家さんがまだ生きていれば、
会いにいきたい、と思い、調べると、
もう20年も前に若くして亡くなられていたことを知りました。

でも、こちらのサイトや、
他にもたくさんの方が今も偲んでいらっしゃることも分かりました。

「家族」も、ネットで見つけて購入したところです。
ほかの作品も探して読んでみようと思っています。

投稿: まゆねこ | 2011年2月16日 (水) 10時49分

>まゆねこ さんへ
感動的なコメントをありがとうございます。

投稿: とべイサオ | 2011年2月16日 (水) 13時03分

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