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2008年10月17日 (金)

吉田とし という児童・青春小説家がいた。その5

吉田としはどのような作家だったのか。

★月刊誌の時代
小学一年生から六年生。中一時代から中三時代。高一時代から蛍雪時代。中一コースから高三コース。小説ジュニア。あるいは月刊少女漫画誌。テレビの普及以前、こうした少年少女向け月刊誌が活躍していた頃、そこには毎月、様々な読み物が掲載されていた。漫画誌も漫画だけではなかった。そこに、大勢の作家が、児童・青春小説を執筆していた。吉田としもその一人だった。
★多彩、多作な小説家
回想してみれば、吉田とし女史の名と作品を思い出す人は今でも決して少なくない(と信じる)。しかも思い出す作品群も少なくない。
上記、月刊誌の時代の中に、吉田としの特徴があるとすれば、その引出しの多さがある。
学年別に読者が最初から選別されているものが多い月刊誌の、どこにでも吉田としの作品が見出せた。
小学生から、高校、大学へと、性別、学年を選ばず、少年少女の姿を活写した。
その内容は、月刊誌の性格から4月から始まる一年間の物語となる。 移ろいゆく四季折々の風景、学校の授業・行事の描写、社会的背景の中で成長していく少年少女たち。それらを月に一度、確実に読者を引きつけながら、さらに翌月まで飽きさせずに興味をつなぐ。まるで月一度のイベントで一年間引っ張る舞台のような、起伏に富んだストーリーが並大抵の筆力で出来る筈はない。
★リアルとエンターテインメントの「面白さ」
吉田としの美しく凛とした気品のある文体と抑制された日常の叙述は、いわゆる文学の伝統だろう。しかしその一方で読者を「毎月」引きつける為に日常に様々な波風が立つ、事件が起きるのは、娯楽小説の技巧だ。この技巧と筆力は今日的な「エンターテインメント」小説に共通するものだ。
文学とエンターテインメント。吉田としがその両輪をつなげるのは「面白さ」にある。当たり前のことを言うようだが、文学より面白い。しかも昨今のエンターテインメント作家の先陣を切るような筆力がある。しかし吉田としの小説には、今日のケータイ小説のような煽るような過激な描写や「性の商品化」はない。リアルな日常、社会から、真摯に生と愛と性に向き合う少年少女たちの姿を描き出していく。その希望も苦悩も生き生きとした描写が読者の共感を確実に誘っていく。

★何故、過去の作家となったのか そんな素晴らしい女史の面白い小説が何故、過去のものになってしまったのか。一番の原因は、あまりにも早い死だろう。1925年生まれ。88年死去。私事だが、私の親父と同じ年であり、親父はまだ健在だ・・・。

それにこれは私の偏見かもしれないが、ごく近年まで(あるいは今も)、日本の児童文学批評は、「多作」「筆力」「面白さ」を軽蔑していたのではないか(変なことを言うようだが私自身かつて、女史のある児童書を評して「映画的な展開で読ませるが小説独自の味わいがない」という大意の文章を読んだ記憶がある)。そんな状況を尻目に後発の出版社がそれらを売り物にあっというまに児童書をベストセラーに押し上げたように私には見える。だがその時、女史はもうこの世にいなかった。

時代を駆け抜けるのが早過ぎた孤高の存在。今読み直しても、その文章は過去のものとしてしまうには惜しい瑞々しさにあふれている。

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コメント

記事の最終行のコメントに同感です。

「時代を駆け抜けるのが早過ぎた孤高の存在。今読み直しても、その文章は過去のものとしてしまうには惜しい瑞々しさにあふれている。」

そうです。
これに尽きます。

投稿: るんるん | 2012年12月21日 (金) 16時11分

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いつでも時代に追いついた感性、思春期の揺れ動く微妙な気持ちと恋心の描写、どこかゆるくてどこか笑えてどこかせつない、そんなかたまりの作品たち。どうしてこんなに人のこころがわかるんだろう? [続きを読む]

受信: 2008年10月17日 (金) 18時16分

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