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2008年11月14日 (金)

本感想:トーキョー・クロスロード(teens’ best selections 18)[20100207追記]

濱野京子。ポプラ社。[追記:第25回坪田譲二文学賞受賞]

児童小説と青春小説を交互に書き分ける作者の、後者の長編三作目。一見、改行の多さと短いセリフ・・・と思ったが、いやいや、そんなことで読み易さを狙う作者ではない。作者らしいきれいな言葉遣いと流れるような文体だ。OPから現れる「そこはかとなく」「いちごいちえ」「現実と夢のあわい」「停頓」「盂蘭盆」といった単語がなんとも言えない味わいと気品を漂わせて要所要所を引き締める。
青春小説の前作「フュージョン」では、若者たちの新しいスポーツとの出会いの鮮烈さを、疾走感そのままに描いたのに対し、本作では、一歩下がって、余裕と落ち着きがあるようだ。

山手線の各駅周辺にポイントを絞り込んで、諸々の街を巡り歩く高校生のヒロインの視点を通じて、懐かしめの街の姿を背景にして映し出される人間模様。この「高校生」にも抜かりない仕掛けがある。留年や休学で年齢の違う男女を登場させて一寸違う大人の世界に生きる姿が、主人公には眩しく映る。
今回は、帯コピーにアニメーターの新海誠の推薦文付き。新海誠といえば・・・とうんちくをかましたいところだがそれは抑えて、そのコメントは「手の届かない、誰かを見ているあなたに」うまい!新海はコピーライターの才能もあるのか?。読了後にこのコメントを改めて読んで唸った。私の駄文が蛇足に過ぎないのがよく分かった。
この物語の高校生達は、単なるすれ違いの恋物語ではない、誰もが皆、誰かを見つめているのに、どうしても手の届かない、もどかしい想いに揺れ動いている。そう、その想いの連鎖が巡り巡って、まるで山手線のように終わりなく回り続ける。そして主人公は葛藤の連鎖の果てに、最後に戻ってくる駅は・・・。
ああ、そうか!だから山手線なのか。だからそこかしこでシンパシーを感じるのか。駅で人々は出会いと別れを繰り返し、そんな人々を受け入れたり送り出したりする街が取り巻いている。
読み手は誰でも、各々シンパシーを感じる街の風景をどこかに見つけるだろう。

メインストーリーとは別に、今回も気になるフレーズが色々と。八月六日、原爆の図、ハイキング、ハングル、そして「母語」(私も未だに、本当は韓国語という言い方に抵抗があるのだ)、黒い雨、イラク派兵、最後の方では、ダメ押しに近代史。これらのフレーズから私は、作者は戦っているな、と感じた。

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コメント

いつも本をご紹介いただきありがとうございます。

>今回は、帯コピーにアニメーターの新海誠の推薦文付き。新海誠といえば・・・

ポプラ社のPR誌「asta*」2009年1月号(12/6発売)に、新海誠さんが書いてくださった、この本の紹介記事が載ります。無料の雑誌ですので、是非ゲットしてください。

投稿: きょんじゃ | 2008年11月24日 (月) 13時56分

わざわざ拙ブログにまでコメントいただき恐縮です。
あるいは、作者にとって不本意なレビューをしてしまうことがあるかもしれない,と思い、これまで義理を欠くような真似をしてまいりました。
今後も不義理を続けるかもしれません。しかし、ここに読者兼レビュアーが(迷惑であれ)確実に一人はおります。

投稿: 小笠原功雄 | 2008年11月25日 (火) 13時04分

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