【SYNODOS】在日韓国・朝鮮人の戦後史――「特別永住資格」の歴史的経緯とは/田中宏×鄭栄桓×荻上チキ http://t.co/fGz2yaSyHV
— 小笠原功雄 (@ogasawara_is) 2015, 5月 23
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【SYNODOS】在日韓国・朝鮮人の戦後史――「特別永住資格」の歴史的経緯とは/田中宏×鄭栄桓×荻上チキ http://t.co/fGz2yaSyHV
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業務連絡:次回は十二月四日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。昨日から一気に冷え込みまして私も危うく風邪をひくところでした。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第4回目。
AI「ジオ」が管理する「ハック」の中で反物質の対消滅と対生成が繰り返されていたとしたらどうなるのか。スンファは考察と計算を始めます。すると「時間の矢」の群れが揺さぶられ続け、非可逆性が破られて、可逆性の可能性が出てきました。その定量的計算をすると可逆期間は約五年。時間の矢が五年前に放出される可能性が算出されたのです。
スンファはジオのシステムの大前提「全ては人間の為に」を思い出しました。ジオは人類を五年前、戦争で反物質爆弾が使用される前の状態に戻そうとしている「意思」をもっているのではないか。
スンファはウォン・チニョン大将にあって、この件を説明し、自分にジオと対話する許可を求めます。しかし、大将は問います。人類の時間旅行が可能であり、すべて五年前に戻ると、この五年間の記憶も消える。ならば、人類の時間旅行はこれが初めてではない、何度も、あるいは無限に繰り返しているのではないか。我々連合国は勝利し続けることができるのか、少しずつ歴史は改変されていくのではないか。スンファの功績も消えてしまっていいのか、と問いを畳みかけていきます。
しかし、スンファは答えます。自分の利己的な意思で多くの他人を殺してきたことを後悔しています。戦争を回避する可能性があるなら何が何でもやりたいのです、と。果たして今度は何回目の時間旅行なのか。歴史は変えられるのか。もっとましな選択肢はあるのか、というところで続きます。
業務連絡:次回は十一月二十日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。「ディズニープラス」では十月から配信中の韓国ドラマ邦題「ジョンニョン」が大人気だとか。しかし私は名前の日本語訳に納得できない。この場合「チョンニョン」の筈です。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第3回目。
記者と物理学者の対談中継は続きます。AI(人工知性)ジオが制御するハックは、鏡映世界の反物質を我々の世界に区間を限定、つまり局所的に移動し、代わりにこちらの世界の物質を鏡映世界に転送してしまえるのです。この反物質を電荷して(※つまり電気分解)金属ではなくビームライン(※この場合はおそらく電磁気)で包み込んで「制御」してこのエネルギーを爆弾として利用し、第三次世界大戦で連合国は枢軸国に勝利したのです。しかし今、ハックに蓄積された反物質が飽和状態で、ジオはこれ以上は制御不能であることを人間に対して宣言し、反物質の保存にのみ機能を集中してしまっているのです。記者は、このまま反物質を蓄積し続けたら人類は滅亡するのか、と問うと、物理学者は黙り込んでしまいました。
ここで既にその答えを知っているスンファは映像を消してしまい、悲嘆にくれます。だが同時に疑問も浮かんできました。ジオの能力ならば過負荷防止システムの制御不能状態を感知しても人類の生死を無視して反物質の蓄積を「実験」し続ける試みを続け、人類にこの異常事態を隠し続けて人類滅亡を待つこともできた筈。なぜ、他のデータは正常値を表示し続け、反物質の蓄積量の異常だけを人類に公開したのか?。
※つまりスンファは、このジオの運行に、ジオ自身の「意思」を期待しているのです。
そこで、スンファは、閃きます。ジオの不可解な運行に何か意味があるのではないか。反物質データの蓄積のシステムを調べ直したスンファは、二つの世界の物質=反物質の等価交換の際のエネルギーが「時間の矢」の不可逆性に対して可逆性による混乱を引き起こす可能性を見出しました。これをスンファは、ジオが人類を滅亡から救うための運行をしているのではないか、と考え、今まで倦怠感にとらわれ続けていたスンファの頭脳は興奮し出したのです。
「チョンニョン」10巻完結。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。9巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)2019年から連載が開始され、この第10巻が刊行され完結した。この10巻は9巻と同時刊行で奥付によると2024年9月発行となっている。
チョンニョンのファン第一号を自称していた、劇作家の娘プヨンの回想は続く。プヨンの女子校の文芸部の先輩とプヨンは「S」の関係だったが、その先輩は、プヨンの婚約者が好きになり交際を申し込んだが、彼に断られ、その腹いせに、文芸誌のコンクール作品の受賞者名をプヨンから彼の名前に変えたのだ。失意の時のプヨンの前に現れたのがチョンニョンだった。そして、これまでのチョンニョンとプヨンのエピソードがプヨンの視点から描写され直され繰り返される。
※「S」というのは、日本では戦前の女子校にあった、先輩と後輩の女子同士の熱い友情。
※回想に入る前に、チョンニョンはプヨンには会えなかったが、プヨンの家で捨てられそうになる台本を見つけてもらっていったエピソードがあった。作家の名前はないが、これがプヨンのオリジナル劇の台本だったらしい。
その回想の中でプヨンのチョンニョンに対する思いと並行して、描かれたのがプヨンの母のこと。実はかつても母も芝居の台本を書いていたが、劇作家の夫、プヨンの父の名で発表されていた。その無念が時に母を苦しめ、普段はまともだが、時に酒におぼれて暴れたり、執筆した台本の原本を暖炉で燃やしたりしていた。
プヨンは書くのをやめていた劇の台本を誰にも内緒で再び書き始めた。だが結局プヨン自身は、あきらめて、婚約者と結婚し、普通の「大人」になることにした。そしてプヨンはチョンニョンに会わなくなった。
梅蘭国劇団は再起に向けて動き出した、先ず、公演の台本選びから始まり、候補作の中から作家不明の台本を選んだのだが、これはどうやらチョンニョンが、見つけたプヨンの台本を紛れ込ませたものらしい。
オギョンオッキョンと共に梅蘭国劇団の二大トップスターだったヘランは、芝居一筋の団長のソボクと違い、経営面も担当し、事業部と後ろ暗いことや政治家との折衝もやっていた、不正に気付いた劇団員トエンも追い出したが、それら全てが失敗すると失意で酒に溺れていた。しかし後輩達の励ましで最後に他団体との協力再開、大口の寄付も取り付けて、舞台からは引退した。
一方で、離れていた団員達も戻ってきた。
プヨンの台本の公演の主役を賭けたオーディションにチョンニョンは合格した。オーディションの結果発表の時プヨンは結婚式を蹴って駆けつけてきた。チョンニョンは再会したプヨンに自分はいつまでも女性国劇を続けるから、いつでも会いに来てくれと約束させる。
そして7年後1964年12月。女性国劇は第二次全盛期を迎えていた。チョンニョンと仲間達も今や皆、トップスターになっていた。この間、プヨンは破談、家族と共に姿を消していた。年末恒例となった女性国劇団合同公演の閉幕後、控室を訪れた女性が。顔が見えないがプヨンか?振り返って笑顔で迎えるチョンニョン、で本編完結。
「チョンニョン」9巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。8巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この9巻は奥付によると2024年9月発行となっている。
クライマックスが近づいて物語が大きく唸り出した。入団試験の演目にチョンニョンが選んだのは韓国人なら誰でも知ってる「沈清(シムチョン)」駅前の路上でチョンニョンが見せたのは高音が出ないしゃがれ声のままで慟哭するのを全身演技でカバーするものだった。その唸り声に聴衆が集まりチョンニョンは梅蘭国劇団に再入団した。
各女性国劇団の経営が傾き始めた。梅蘭国劇団のトップスター、オギョンオッキョンが退団、映画会社と契約した、研究生の一人、チュランが付いていった。事業部は、金を持ち逃げした。退団者が続出して、団長ソボク以下残った者だけで出直すことになった。
チョンニョンのファン第一号を自称していた、劇作家の娘プヨンが、チョンニョンの前から姿を消す、聞いた話では、結婚してアメリカに行くのだという。プヨンは以前チョンニョンに「女は台本を書いても自分の名を出すことはできない。男の名前にしないと」と言っていた。
プヨンの過去のエピソードが挿入される。
プヨンは、「女は男によって出来上がるものだ」と教えられて育ったが、これに反発し女子校に入ると、自分で劇の台本を書き始め、学校連合の文芸誌に応募した。作品は受賞したが、誌面に掲載された名前は、プヨンの婚約者の従兄の名前にされていた。
※ここで物語から退場したオギョンオッキョンの描き方に私は不満がある。これまでにも出てきていたが、韓国漫画にしては珍しく?感情表現が描かれていなかったのだ。何かの伏線かと思っていたのだが最後までそのままだった。彼女はアヘンをやっていたという過去も説明されただけで、女性国劇に飽きた、映画に魅せられたというのも語るだけ、そこに内心の葛藤の表現がなかったのが、不満どころか「何故だ?」とすら思った。
「チョンニョン」8巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。7巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この8巻は奥付によると2024年5月発行となっている。
女性国劇団同士の会議で、早々と合同公演は解消となり、梅蘭国劇団単独での公演となった。そして公演に向けての、梅蘭国劇団の団員達の稽古と苦悩の描写が中心として進む。
故郷、木浦の実家に戻ったチョンニョンは家の手伝いをしながら失意の日々を過ごす。そこに劇団長カン・ソボクと劇団の劇作家の娘「チョンニョンのファン第一号」を自称するプヨンが訪れる。先ず、ソボクはチョンニョンの母=今は名前を変えているが、昔はチェ・ゴンソン=と話し合う。
※ここに挿入された回想シーンが、チェ・ゴンソンが、初めてソボクとパンソリの師匠の処に来た時のエピソードなのだが、ドラマ版のプロローグシーンが、ここに基づいて作られていたことが分かった。
ここで、ソボクは、チェ・ゴンソンに、チョンニョンはあなたとは違う、あなたはパンソリの歌手としての自分が好きだった。だがチョンニョンは国劇が好きなのだ、と語る。
一方表に飛び出したチョンニョンは、外で待っていたプヨンと会った。初めは揉めた二人だが、チョンニョンは、歌えなくなった自分の不安をプヨンに吐露し出す。そして演技を始めた。チョンニョンは、母にもう一度劇団に戻ってやってみると言う。すると母は「上手くいくかはわからないが、お前がまた歌えるようになる方法があるかもしれない」と告げる。
※この後チョンニョンは直ぐには劇団に戻らず、母とどんなことを試みたのかは、まだ明かされない。
梅蘭国劇団の単独公演「馬鹿と公主」が人々の様々な思惑を交錯させながら始まった。その舞台の描写が続く。そして公演は、大成功に終わった。
一年後、1958年7月。梅蘭国劇団が入団試験を行う。案内状はチョンニョンの所にも届き、満を持したかのように上京する。試験とは極めて特別な課題で、同時刻、団員と入団希望者が各々別の場所で演技し、希望者が団員並みの見物客を集められたら合格とするものだった。
「チョンニョン」7巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。6巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この7巻は奥付によると2023年11月発行となっている。
1957年5月ソウルで「光復記念合同公演」女性国劇団五団体合同で公演する、朝鮮半島の有名な儒教説話「馬鹿のオンダルとビョンガン公主」に基づく「国劇 馬鹿と公主」のオーディションに向けて劇団員達は盛り上がる。だが練習中にオンダル役の練習をするチョンニョンの歌に相手のピョンガン役の研究生から、チョンニョンの喉は弱い。パンソリ独特の唱法に無理があると指摘された。さらに以前会った母のパンソリの師匠に又会って、教えを請うと、チョンニョンの喉は母親そっくりだ、パンソリには向かない。さらに17歳になった体では喉も出来上がってしまって練習しても直しようがない、と告げられてしまった。
負けん気の強いチョンニョンは、猛練習に励むがやり過ぎて体調が悪化、喉もつぶしてしまった。オーディションもボロボロで、絶望したチョンニョンは、黙って梅蘭国劇団を出て、帰郷してしまった。
そして、五団体が揃って合同練習が台本読みから始まったが、梅蘭国劇団のトップスターが一人姿を現さず、初日から不穏な動き。本読みも各団体の対抗意識がむき出しになって、途絶した。
さらに、合同公演とはいっても、出資とスタッフは梅蘭国劇団がほとんど持ち出している一方、国会議員の後援、他劇団の思惑も絡み関係者の興行収益の利益配分でも揉めている。そしてオーディション結果を根に持つ他団員と梅蘭国劇団の研究生の喧嘩が始まった。
「チョンニョン」6巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。5巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この6巻は奥付によると2023年3月発行となっている。
公演一日目でチョンニョンは団長の怒りを買い、当面謹慎。落ち込むチョンニョンだが何がいけなかったのかさっぱりわからない。
※歌うことしか知らない田舎者のチョンニョンは、舞台演劇は皆で作るものだということが、本当に、まだ分かっていないのだ。
そこで、友達の一人が、自分の通う女子中高等学校にチョンニョンを連れていき、合唱部に会わせる。
※チョンニョンは「合唱」さえ知らなかったのだ。
そして異なる音声と音声が一緒になって一つの合唱曲を作り出すこと、それは演劇も同じだ、ということをチョンニョンに教える。ここからやり直す為に、自分の役以外、舞台の台本を全て読み暗記し、稽古し、登場人物一人一人の気持ちを考え始め、台本読みの相手として、その友達にも手伝ってもらう。
その間も定期公演は続き、助演で活躍していた研究生の一人が過労で倒れてしまう。団長の指名した代役がビビるのを見るや、チョンニョンは自分が出る、と名乗り出る。チョンニョンの決意に賭けた団長の英断で舞台に上がったチョンニョンは、今度は劇の中の一人として見事に演じきった。そして定期公演が終わると、そのまま地方巡回公演にも出演が決まった。その時「チョンニョンのファン第一号」を自認する、チョンニョンを今迄助けてくれた友達が、実は、この女性国劇団の劇作家の娘だと知ったのだった。
その次は、1957年5月ソウルで「光復記念合同公演」女性国劇団五団体合同で公演する、朝鮮半島の有名な儒教説話「馬鹿のオンダルとビョンガン公主」に基づく「国劇 馬鹿と公主」のオーディションに向けて劇団員達は盛り上がる。
「チョンニョン」5巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。4巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この5巻は奥付によると2022年10月発行となっている。
劇団の経理帳簿を調べていた娘(※彼女も劇団員の実力者で劇団創設時からのメンバーだが、今回の劇では役がもらえなかった)は、劇団事業部が、不正な支出で金塊を入手し、なにやら胡散臭い連中と取引していることを掴んだ。
この件を劇団経営層に相談しようとしていたところ、彼女の前に立ち塞がったのは、経営には無関心の筈の劇団長だった。
団長は、彼女が他の女性国劇団と会っていて、金塊を入手、隠していたと思い込んでた。実は劇団トップスターの一人(団長、娘の母らと共に劇団創設メンバーで皆、妓生(キーセン)出身)がこの不正に噛んでいて、彼女は陥れられたのだ。即刻団長から退団を命じられた。
そして劇団定期公演「自鳴鼓(チャミョンゴ)」が始まった。各人、練習とキャリアと才能の限りを尽くして順調に芝居が進行し、客席ではチョンニョンの友達も見守る中で「兵卒1」役のチョンニョンがまたしてもやってしまった。
憔悴しきった兵士の体で舞台に現れしかも、勝手に「軍人哀歌」を唄い出して、観客の注目を一気に浴びてしまった。当然の如く、公演一日目でチョンニョンは団長の怒りを買い、当面謹慎。落ち込むチョンニョンだが何がいけなかったのかさっぱりわからない。
※歌うことしか知らない田舎者のチョンニョンは、舞台演劇は皆で作るものだということが、本当に、まだ分かっていないのだ。
そこで、友達の一人が、おそらくその点を、チョンニョンに教えるべく動き出す、というところで続く。
「チョンニョン」4巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。3巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この4巻は奥付によると2021年10月発行となっている。
一度はテレビに出たチョンニョンだが、やはり女性国劇がやりたくて、劇団に戻る。団員、研究生達は各々、劇団定期公演、創作劇「自鳴鼓(チャミョンゴ)」オーディションに向けて練習に励んでいる。
そして、オーディションは行われた結果、主演二人は劇団のトップスター二人に決まったが、助演の二人は研究生の二人に決まった。チョンニョンも端役だが台詞が一言ある「兵卒1」に決まった。
皆で劇の稽古が始まる。ここで、チョンニョンはこのたった一言の兵卒をどう演じるか全く見当がつかなくて、何かヒントをつかむために「軍人宴(군인 잔치)」に向かう。※正確な訳語が見つからなかったので仮に訳したが1950年代、キリスト教会などで、市民が兵士に食事をもてなしていたらしい。ここで兵士達をもてなす人々の話や「軍人哀歌(군인 설움)」を聴いて何かをつかんだ。
助演に抜擢された研究生二人も協力して稽古して役作りを進めている。
一方、劇団の経理帳簿を調べていた娘(※彼女も劇団員の実力者で劇団創設時からのメンバーだが、今回の劇では役がもらえなかった)は、劇団事業部が、不正な支出で金塊を入手し、なにやら胡散臭い連中と取引していることを掴んだ。
この件を劇団経営層に相談しようとしていたところ、彼女の前に立ち塞がったのは、経営には無関心の筈の劇団長だった、というところで続く。
「チョンニョン」3巻。原作ソ・イレ(서이레)。漫画ナ・モン(나몬)。文学街(문학동네)刊。2巻の記事はこちら。今年2024年10月からディズニープラスで配信開始された韓国ドラマ「ジョンニョン」の原作ウェブトゥーン(Webtoon:韓国のインターネット漫画)20192020年から連載が開始され、先に第10巻が刊行され完結した。この3巻は奥付によると2021年6月発行となっているが、本の帯に既に「名作の誕生!ドラマ化決定」と記されている。他にも「ウェブトゥーン初。2020両性平等文化コンテンツ賞受賞」「韓国漫画映像振興院2020優秀漫画図書選定」「2021青少年ブックスタート図書選定」とも記されている。
この巻では劇団研究生公演を終えて、正式に研究生として認められたチョンニョン。次に劇団は定期公演、創作劇「自鳴鼓(チャミョンゴ)」は劇団内で役者の現状の序列を問わずオーディションで行うことになり、皆が練習に励む中、チョンニョンは、研究生公演では気付かなかった「様々な役を演じ分ける」ことに悩むことから始まり、生活費を稼ぐために働いている茶房で急遽代役で、歌を唄ったところ、これを聴いていたパンソリの名匠が、チョンニョンの母親が、戦前、彼女の弟子で「天才」と言われたが戦後、忽然と姿を消した歌手「채공선(チェ・ゴンソン)」であると見抜いた。
※ディズニープラスのドラマ版では、このチェ・ゴンソンのオリジナルエピソードが作られてプロローグとして始まっているようだ。
その場で、チョンニョンは、いきなり記者達の注目を浴び、当時黎明期のテレビ局のスタッフまで「必ず稼がせてやる」とスカウトしてきた。その場をやり過ごしたチョンニョンだが、翌日には、劇団に、茶房で唄ったことがバレ、団長の怒りを買い、いきなり退団を言い渡された。困ったチョンニョンは、テレビ局を訪ね、歌謡曲の歌手になる契約を交わす。即、レッスンもいい待遇も受けるのだが・・・。
一方、劇団の方では、役者で、事務も手伝っている娘が、経理帳簿を調べ直しているうちに、その杜撰さと同時に不明な支出があることを見つけて密かに調査を続けている。
早々とテレビカメラの前に立ったチョンニョンだが、直立し歌うことだけに集中し、踊りも演技もつけられないことに不自由を感じるのだった、というところまで。
「RURE(루어)」41巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。40巻の記事はこちら。本の帯カバーは「聖所(성소)」(篇)。40巻の続きでミュールゲンは「深淵」に転送することに成功した。※40巻の黒い翅族の実験体とは、この深淵に先に転送した者達の肉体らしい。精神は「深淵」に行ったのだが、テレパシーのような交信に成功していなかったようだ。つまり「深淵」の黒い翅族の内「聖所」にいるのは「深淵」が作り出した複製ではなく、ファイル王国の黒い翅族らしい。
ミュールゲンは、ファイル王国の黒い翅族の呪術師と交信も可能だった。
一方「聖所」を守護する黒い翅族を虐殺しながら「中心」へと進むシン・ハルの姿のタマル(傭兵時代、ハルとミルが出会った頃の仮名がクヤ)を追う、ハベク=ハル、ファイル王国のシン・ミル、「深淵」のシン・ミル、少女姿の精霊イクサイクは、タマル(クヤ)に追いついた。
「クヤ!」とシン・ハル姿のタマル(クヤ)に呼びかけるハベク=ハル。ここでタマルが立ち止まったので、黒い翅族は殺戮者の姿をようやく目視でき、その姿がシン・ハルだったので驚愕し「ルキア(※ファイル王国の大精霊の眷属)が何故こんなことを、何が望みだ!」と問うと「聖所」の「中心」を破壊すると答える。
シン・ミルの方は「主君!」と呼びかける。
だがハルの姿のタマルはファイル王国のシン・ミルに対し、ハベク=ハルのことを「(シン・ハルではなく)ハベクそのもの、ハルの影だ」と言い切る。
※ここからまたタマルとハルが次々と転換する虚構の場面での対話が続いて、読者を翻弄する。
そして場面が戻り、ハルの姿のタマルは「印章が認めたハルだろうと、ハルではない」この「深淵」のハベク=ハルは「中心」に閉じ込められた本当のハルを連れ戻す扉の「鍵」なのだ、と断言する。そして尚も「中心」に進むべく黒い翅族を虐殺するタマルをシン・ミルは止める「チャ・クン・タマルのルキアとして主君の過ちを看過できない。常に対話で道を導いてきたあなたらしくない」。
それでもハルを取り戻すために「聖所」の「中心」に向かうことしか眼中にないタマル。この状況を見た、黒い翅族はハルの姿のタマルに対して「ハル様を『中心』にご案内します」と跪いて、ようやくタマルの殺戮を止めた。
そして「中心」へと向かう一行だが、ハベク=ハルは胸中穏やかではない。タマルは自分をハルと認めてはくれない。それにハル自身も自分は自覚がないだけで本当にこの「深淵」のハベク=鍵に過ぎないのではないかと思い始めた。ハル自身が黒い翅族と分かった時点で、もうタマルの傍にいられないと決心した身だ。このまま「鍵」としてタマルの役に立って必要なら死ぬつもりだ、と改めて決意するのだった。
ついに「聖所」の「中心」に着いた。見た目は大きな墓にしか見えないと評する精霊イクサイク。それに答える「深淵」の「シン・ミル」は「あれ(※聖所の中心の建物)が本当にハルなら、ハベクの指先がふれるだけでも本当の姿を取り戻す筈だ。『深淵』が壊れるかもしれないが、自分もどうすれば身を守れるかわからない」とあっさりと言い切る。
だがそこで突然、ミュールゲンが現れ、ハベク=ハルの胸を、黒い翅を矢にして貫き、さらに翅を自在に操りハルを拘束した。そしてファイル王国の配下の黒い翅族の呪術師に呼びかける「私を戻せ!」
この時、瀕死のハベク=ハルの中からハルが目覚めた、「深淵」の「シン・ミル」の身体にも何かが始まった(※深淵のシン・ミルは元々ハルの印章の一部)。
さらに「本当にこのまま消えてしまってもいいのか?」とハルに呼びかける、小人の姿で、ミュールゲンと同じ印章を額に表した何者かが現れた。そして「深淵」が崩壊した(?)。※この小人が「深淵」を作った「空虚」なのかもしれない。
戻ってきたミュールゲンが「捕まえた。タマル遂にお前を捕まえたぞ」と快哉を挙げた。※ややこしいが事情を知らないミュールゲンは外見はタマル姿のハベク=ハルをタマルと間違えたのだ。だが、その人物の姿は?
またいきなり場面が変わり、やはりファイル王国に戻ってきて目覚めたタマル。そこにやはり戻ってきたシン・ミルが「ハベク、ハベクは?」と駆け込んでくると、タマルの姿がミュールゲンだったので、驚愕する。だが、その脇に倒れていたのはハルだった。
(また場面転換)一方本物のミュールゲンの方は自分が連れてきた者を見て「お前は誰だ?」額にミュールゲンと同じ印章があるが?。実験体には「深淵」から彼らの精神が戻ってきていた。そしてその男?は名乗る「我が名はハベク。天空城の女王ソネッティ―の嫡子にして深淵の王だ。大司祭ミュールゲン、我が民と、深淵を廻る、そなた達の苦労を称える」
※これは単純に「深淵」の鍵としてのハベクではなくてファイル王国の建国以前の、男ルアーであるハベクが現れたのか?、だが男ルアーであるハベクは、翅族のソネッティの子ではなく、夫であった、しかもハベクは生きたまま封印されている筈。
※さらに「空虚」はかつてシン・ハルに、ソネッティの子だと名乗っていた。ということはミュールゲンが捕えたハルに語りかけた小人がもし「空虚」なら、その時、何らかの方法で身体を手に入れたのか。
※なぜミュールゲンがさらった筈のハルが、タマルとミルの前に現れたのか。色々まだ不明。
モノローグは挿入される「今、真正なる主人が来た」
ここからは台詞なし絵のみで、戻ってきたタマルとシン・ミルが見守る前で、シン・ハルが目を覚ました。三人の帰還を王城の臣下達が喜ぶ(精霊イクサイクも人間の姿から精霊の姿になって戻っていた)。
※私が記述すると、わかりにくくて長ったらしいが40巻の込み入った解説的内容に比べると一気に展開し、詳しいことはまだ説明されていないが「深淵」をめぐる章が収束したのだ。
※韓国のインターネットマンガ「Webtoon(ウェブトゥーン)」全盛期の中で今だ紙媒体の韓国純情漫画雑誌「PARTY」に連載され続けている、この長期連載作品が、韓国漫画業界でどのような位置を占めているのか。今だに私にはよく分からないが、今後もその動向に(優れたSFファンタジー漫画としての内容にも)目が離せない。
業務連絡:次回は十一月六日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。当会の前回の翌日木曜日にハン・ガン氏ノーベル文学賞受賞。日本で同氏の作品をベストセラーにしたクオン出版社の金承福氏と翻訳の斎藤真理子氏の功績は大きい。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第2回目。
スンファはジオに問いました「あなたはこの計画をどう思う」若干の遅延時間の後ジオは答えました「人間ではない自分に『あなた』という人称代名詞は不適切。自分には大前提に違反する可能性がある価値判断を論じることは許されていない」
スンファは、ジオに人間並みの思考や感情を示してくれることを期待していたのでした。スンファが考案した反物質爆弾で第三次世界大戦は連合国側の勝利に終わり、世界は、人口の三割を失い、その被害者数は枢軸国側に偏りました。そして彼女は大尉から中佐に昇進し、大戦の功労者として認められ、認証システムの受け入れを打診されました。それは、連合国側の高位人物は電子式認証システムを仕込んだチョーカーを首に装着することです。このシステムを受けた者の生命が脅かされると、月のジオに電信され、地球に向けて反物質爆弾を投下する仕組みです。つまり連合国側の高位者が暗殺やクーデターで危うくなれば、地球そのものが滅亡する、故に彼らの地位は脅かされないのです。
しかし、それでも「共倒れ」を怖れない抵抗者が現れる可能性はあり得ますのでスンファは受諾しませんでした。
場面は変わり、テレビで物理学者がジオとハックの核融合システムと第三次世界の反物質爆弾の解説をし、科学には素人の記者が聴き手となる番組をスンファが観ている場面となります。※つまり作者が読者に解説する叙述上の構成です。
ジオという優れた人工知能システムがハックという人類史上最大の核融合システムをメンテナンスすることを可能にし、その強大な出力のエネルギーは、量子力学的な核反応のみならず、我々の宇宙における物質と反物質の存在比率の偏りの謎を解決した。我々の宇宙とは、物質と反物質の構成比が真逆の世界=鏡映世界が存在することを証明し、さらに、その世界に干渉し、空間を限定してあちらの世界の物質をこちらの世界に移動させる。移動してきた鏡映世界の物質=我々の世界にとっての反物質であり、相互に対生成と対消滅を繰り返し、核爆弾とは比較にならない破壊を限定的な空間=枢軸国側に起こしたのです。これが後に「パーフェクトゼロ」と呼ばれるところとなったのです。
最後に物理学者は解説します。月にジオとハックを建設したのは規模の大きさ故でした、本来の目的は、世界最大規模の粒子加速器という研究施設でした。さらに月には政治的な障壁はなく中立的な環境の筈だったからでした。
しかしこれを観ていたスンファは、苦悩します。偶々連合国側にジオの使用優先権があったのです。中立的だなんてとんでもない。地域が国境から自由だろうと、科学は自由になれなかった場合だったのに。
※という訳で「とりあえず」反物質爆弾の仕組みが解説された処で今回はここまで、次回へと続きます。
業務連絡:次回は十月二十三日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。一気に気温が下がり一日雨でした。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第1回目。
プロローグは、ウォン・チンヒョン大将とチャ・スンファ中佐の対話から始まります。ウォン大将はスンファに粒子物理学博士としての意見を求めます。スンファは「地球は『ジオ』によって消滅します。痕跡すら残りません」
場面は変わってジオとは『GIOH』=「ヒッグス加速器の巨大インターフェースとオペレーションシステム」地球の衛星「月」の半分を覆う粒子加速器とそこにエネルギーを供給するための核融合施設を合わせた建造物もさしますが。施設の一切をコントロールする超人工知能を「ジオ」と名付けられています。
しかし、第三次世界大戦が勃発すると、将来を嘱望されていた若き粒子物理学者スンファも、連合国側科学者軍人の募集に志願しました。しかし、そこで求められたのはジオの能力を駆使して「鏡映世界」との「対称性」(※=『パリティ』とも言う)を破り「向こうの世界」の「物質」=こちらの世界では反物質=をこちらに移動させて、敵地限定で「対消滅」させる「反物質爆弾」の開発でした。
さらに場面は現代に戻り、ソウルの「国立ソウル顕忠院」での戦没者軍人追悼式に参席するスンファ。彼女は「国民の英雄」として祭り上げられて注目の的です。だが、今や「ジオ」が地球を破滅に導こうとしている事実を知ったスンファは、自分の犯した罪の意識に苛まれ続けています。
今スンファが物思いに耽るのは「ジオは自意識が存在しなかったか?」という期待でした。かつてスンファはジオに問いました「あなたはこの計画をどう思う」若干の遅延時間の後ジオは答えました「人間ではない自分に『あなた』という人称代名詞は不適切。自分には大前提に違反する可能性がある価値判断を論じることは許されていない」
※というところで本日はこれまで、まだ「反物質爆弾」の原理も、今「ジオ」がどうなっていて地球を消滅させようとしているのか等、一切説明されていません。本編はこのジオをめぐる量子物理学的解説とスンファの韜晦の情緒的な描写がせめぎ合うような文章が続きますので、なかなか難物です。
こんなことあまり言う人いないみたいだから、私が書いておくけど、二千年代、日本に一大韓流ドラマブーム、ペ・ヨンジュン「ヨン様」を生み出した「冬のソナタ」というメロドラマ。それ以前の韓国・朝鮮語関係者学習者、在日韓国朝鮮人がどう思おうと、彼らの長年の努力を一瞬で凌駕する日韓ポップカルチャーの相互交流を促した。ハッキリ言って、彼らの中には内心忸怩たるものがあった人もいた筈だ。
という訳で、私には漫画「ゴールデンカムイ」がもたらしたものも同様に見えるのだ。「アイヌ」の描き方には不満を漏らすアイヌも少なくない。それでも「アイヌ」という日本の先住少数民族の存在の再認識が一気に爆発的に広まったことを否定できる人はいないだろう。
業務連絡:次回は十月九日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。ようやく涼しくなりました。次は台風の心配か。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます、その第4回目。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でデモ騒ぎを起こした女性、自分が勤めるCERNのホイッパー・キャリー博士とそっくりな人を探る「キル・サンウ」は急遽空路でアイルランドのダブリンに向かい、ロレインに対面します。しかし、ホイッパーのことを話し始めた途端、ロレインの態度は拒絶的になりました。
それでもロレインは自分の理論については話してくれます。しかしサンウがあなたの理論の数値をCERNのアレックが証明したと話してもあまりうれしそうではありません。既に自分の「飾った宇宙」の中に生きていれば、リアルな宇宙よりもそちらが大切だ。科学者はそういうものだと語るとロレインは、そういう「自分の飾った宇宙」を脅かす存在がいたらそいつには何をするかわからない、だからこれ以上関わってはいけないと警告してサンウを追い立てました。
しかし、サンウが外へ出ると、既にそこにはホイッパー・キャリー博士が待っていました。食事にさそったホイッパーにサンウがついていくと、レストランでホイッパーは真相を語りだします。キャリーとは、ホイッパー、メルセンヌ、そして「両者が重複したホイッパー/メルセンヌ」が存在している。ホイッパーもメルセンヌもアインシュタインの信奉者、つまり決定論者です。ホイッパーはこれを真実として人がこれを知り受け止めなければならない、と考えてノーベル賞授賞式で騒動を起こした。これに対してメルセンヌは、決定論は「個人が何の罪を犯そうと、それはあらかじめ決定されていたことだから罪悪感を持つ必要がない」と人は考えてしまうから、これを知られてはならない。そのためには量子力学の不確実性が認識される方がいい、と考えている、と。
そして「キャリー」は問うのです。今、ジュネーブではアレックと、ホイッパーとメルセンヌのいずれかが食事をしている。私がホイッパーかメルセンヌか分かるか?、ホイッパーなら大した問題ではない、だがメルセンヌなら、秘密に気付いた相手を殺す、と。
どちらのキャリーか分かった途端に、アレックかサンウのどちらかが殺される。サンウはこれは量子レベルの話ではない、人間の世界でそんなことが起きる筈がない、と思いつつも恐怖で一度は目を閉じます。しかし、目を開けた時に気付いてしまいました。利き腕から目の前のキャリーがメルセンヌであることを。彼女の持つ食事用のナイフが妙に鋭いことを。
※量子レベルの理論を、人間個体レベルのスケールにダイナミックに「大風呂敷」を広げると、こういう話になる、という一例でした。
では、次回からは、また新しいテキストで。
「회랑식 중정(回廊式中庭)」7巻。김연주(キム・ヨンジュ)。大元CI社。6巻の記事はこちら。
6巻で、学校に行くのを兄チェヒ(大旦那様)に止められた妹セヒ嬢が夜、読書する使用人ユンを相手に、なにやらいたずらっぽく?策を練る。兄に隠れて着替えて学校へ通う「拠点」が必要ね。そんなこと直ぐにバレると相手にしないユンに、セヒは、あなた(=ユン)がチェヒの目を惹きつければいいのよ、とそそのかす。
※この件、セヒがどこ迄本気なのか読者にもよくわからない。
だが、セヒは付け加える「私はあなたと目を合わせるつもりはないわ」と。だが、ユンは「ところで目を合わせる練習をしましょうか。今度は唇を合わせる練習をしてみますか」と誘う。
チェヒが、館からミソクに車を出し、ユンに随行させて送らせる。どうやら、高級料理店で賓客(後のチェヒへの、ユンの問いからは、また日本人の官憲「佐藤」かもしれないが、ユンは直接見てはいないし、相手は、はっきり出ていない)の接待に同席させるらしい。
外で待つユンが呼び出された時にはミソクも客もいない、チェヒだけ。
そこで酒を飲まされながら、拝金主義だの新女性だのと話しかけながらセヒについて問う。カマをかけてきているようだ。しかしユンは、はぐらかすかのように?
「ミソク嬢は大旦那様を狙っていました。大旦那様の目に入りたがっています」と言い出す。そして酒に酔って、そのまま寝込んでしまった。
あくる日、すっかり真昼になってやっと館で目を覚ましたユンはミソクの家を知ろうとし始める、意外にも誰も知らない
(※読者から見れば、それでよく雇用したものだ?)そこで、毎週レヒ(チェヒとセヒの弟、若旦那様)がミソクと会って2ウォン払うことを聞いて、その時自分を同行させてくれと頼むのだった。
チェヒがスガン君(セヒの婚約者候補?)を連れてきて、セヒにお茶の相手をさせた。その間にチェヒはまたユンを長々と問い詰める、昨日の会話の内容を何も覚えていないのか。セヒと何か関係しているのか。
ユンは館を抜け出して街を彷徨う。様子を不審に思って追ってきたセヒがユンを捕まえた。ユンはまたセヒに「やってみてはダメですか。唇、あわせる練習」そして今度は二人は本当にキスをする。だが、この場面を帰宅中のスガン君が車中から目撃していた。
帰宅後の晩、独りになったセヒは激しく狼狽する。そしてなぜか、また、亡くなった義姉チョンアのことを思い出す。
雪の降る夜、中庭に面した回廊で制服姿で独り踊るチョンア。
靴も履かずに雪の積もる中庭に出て踊りながらセヒに問う「セヒ、私の名前知ってる、そう、チョンアよ」
※ほとんど説明抜きなので唐突に思える言動の連続なので、何とも言えないミステリアスな雰囲気に読者も翻弄される。さらに、途中にモノローグが意味ありげに挿入されている。
※これは一人称で「己(つちのと)未(ひつじ)年」と韓国では呼ばれる1919年の、3月29日、三・一独立運動に呼応した「水原」の妓生「金香花(キム・ヒャンファ)」が妓生三十余名を率いた集会を目撃した女工が、その場で共鳴し、集会に参加し「大韓独立万歳」を共に叫んだ感動、高揚感を表現したものだった 。
※作者後記では『己未年3月29日。水原の妓生キム・ヒャンファの主導の下、水原の妓生組合所属妓生30余名が健康診断を受けに行く慈恵病院の前で独立万歳を叫びました。そこは水原の中心街で植民統治機構が集まっていました。気概漲(みなぎ)るデモで妓生達は逮捕され、首謀者であるキム・ヒャンファは拘束され、6ヶ月の獄中生活を送りました。彼女の齢22歳の時のことであり、以後の行跡は不明で、2009年になってやっとその功績が認められ、大統領表彰を受けました』
※キム・ヒャンファの、その後の生涯、その生死は、現在に至るまで不明なのだそうだ。
業務連絡:次回は九月二十五日(水)午後一時半からです。まだまだ暑いです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます、その第3回目。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でデモ騒ぎを起こした女性、自分が勤めるCERNのホイッパー・キャリー博士とそっくりな人を探る「キル・サンウ」に同僚のアレックは一枚のポストイットに書かれたメモをサンウに渡します。そこには彼女の名前は「メルセンヌ・キャリー」アイルランド人とありました。ホイッパー博士と同じ姓だと分かった以上、二人はどんな事情があるにせよ、姉妹に違いない、と確信したサンウですが、ホイッパーに問い詰めても、否定され続けます。その一方でホイッパーは自分の研究については熱心に話します。自分の研究は量子力学をコンピューターシステムの暗号化に応用することだ、そこに「素数」計算が関係してくるのだ、と。
さらに彼女は語りだす。我々の生きる宇宙に不可欠なものは、無限の連続は存在しないことなのだ、と言い、古代ギリシャのツェノンのパラドックス「アキレスは永遠に亀に追いつけない」を引用し、この世界に「無限」は存在しない、ミクロ構造を突き詰めれば最小限の単位「プランク」定数が存在する。結論としてこの世界は有限なのだ。
一方アレックは、謎の周波数について調査を続け、サンウが見たメルセンヌ・キャリーのプラカードのもう一つの数値が謎の周波数であることを見つけ出し、「ノイズではない」ある物理的現象である、それが何かを実証するのだと意気込んでサンウに語りました。
ここで作者の解説が入ります。数学に「メルセンヌ素数」というものがあり、これが物理学とは文字通り桁違いな数値を扱うのだと。
そして、突然ホイッパー博士は姿を消しました。手がかりを無くしたかに見えたサンウは、ホイッパーがアイルランド語で「完全」を指す言葉であり、「メルセンヌ素数」は数学の「完全数」と対で出現すると知ると、ますます二人の関係を確信し、さらに、二人にこの名を付けた母親「ロレイン・キャリー」がアイルランドのベルリン大学トリニティカレッジの現職教授であり、彼女の三十年前の博士論文が「モワレ現象(※干渉縞)」に関するものであることを突きとめました。モワレ現象とは極めて短い周波数の異なる音が重なると大きな音に聴こえる、しかし短過ぎて人間には連続した音に聴こえることです。
サンウは、急遽空路で当地に向かい、ロレインに対面します。しかし、ホイッパーのことを話し始めた途端、ロレインの態度は拒絶的になりました。というところで次回へと続きます。
「티 나는 사랑(=顔に出る恋)」4巻。조민영(チョ・ミニョン)作。鶴山文化社(학산문화사)。3巻の記事はこちら。4巻ではヒロインの홍사애(ホン・サエ)の過去がさらに積み重なってきた。生まれた時から四つの病名を抱え、三度の手術を受けた。その為にサエの母親は心労でサエに対する精神を患っていた。サエが、ナムチュとチエの弟妹と同居しているのも、サエの体だけでなく、この母親からサエを遠ざける為でもあるらしい。サエは、過去を忘れない為に大人になってから、胸の手術のきれいな傷跡の隣に、わざと縫いあとのようなタトゥーを入れている。※その一方で、サエがナムチュに言った何かを忘れてしまっている。これがナムチュをヤキモキさせている。
サエの務める大手百貨店のVIP顧客向けの販促サービスセールが始まった。そこに某専務夫人が来たのだが、この人が札付きの厄介者らしい。そして偶々サエに絡んで、彼女がサンプルの化粧と衣装を身に付けるモデルをする羽目になった。これが胸の空いている衣装で、しかも、この百貨店にうかつにもチエがサエの母を誘って連れてきてしまっていて、サエと鉢合わせしてしまう。サエの胸の傷を見てしまった母はうろたえて、介抱される。このサエの母と難癖をつけた専務夫人には、シン課長が対応してくれた。
ナムチュの誕生日が来る。ナムチュは誕生日をナムチュの友達の店でサエと二人で祝おうと誘う。サエは嬉しくて色々と準備をして楽しみにしていたが、当日に、サエの仕事のライバル、VIP顧客対応のパク・ジェナが病院内で仕事中のナムチュに誘いをかけてきた。最初は相手にしないナムチュだったが、ここにまたしても偶々、通院してきたサエの母親が現れる。ジェナをナムチュの恋人と思い込んだ彼女は、ナムチュはサエと距離を置いた方が、サエの為にもいいかもしれない、などと言い出して、ナムチュも、ジェナを彼女として連れていけば、動揺したサエが(※読者にとってはまだよくわからない何かを)思い出すかもしれない、と考え直して、ジェナを帯同してしまう。
しかし、これを見たサエはショックを受けて、立ち去ってしまう。そして馴染の店でやけ酒とやけ食いを始めたサエの前に現れたのは、またしてもシン課長だった。さらに店を出た二人は帰途中の公園で、やはり公園で酔いを醒ましていたナムチュに、積極的なジェナがキスをしているところを見てしまった。※こういうアクシデントの連続を畳み込むのは、やはり韓国ドラマならではだ。
翌朝、サエはナムチュに、シン課長と付き合う、と宣言してしまう。
※この巻は、既に去年の暮れに刊行されていたのだが、いままで私が見逃がしていた。
よくあるラブコメ展開、だが、読者から見れば、サエがナムチュだろうがシン課長だろうが、本気で恋をしたら、また顔に出てしまうのではないか、それをどう克服するのか。母親の事も含め、サエの心がどうなっていくのか今後も注目だ。
『いつ、だれと出会うかは偶然のたまものだ。』プロローグのフレーズに、出会いのもたらす幸も不幸も脳裡に呼び起こされる。そこに必然はない。功罪もない。それが生きていくということだ、だが人は、出会いの偶然を必然に、意義あるものに、きっと輝かせられる。多感な年頃の少女達に作者、濱野京子からのメッセージを感じる。母と娘二人暮らしという十五歳の少女三人の友達の物語が、各々の一人称語りで、文字通り、くるくると視点を入れ替えて語られる。その母子関係も三人三様だ。一筋縄ではいかない。だが個々のエピソードは日常的で特別なことではない筈だ。しかし、少女達はそこに小さな違和感を見出していく。それは見過ごしがちな女性の生き辛さだ。だが友達と母と共に、そんな辛さもきっと乗り越えていける、そんな現実と願いが続いていく。
※母と娘の二人暮らしという、設定に、私達夫婦共に人生最大の影響を受けた漫画家、藤子不二雄の藤本弘、安孫子素雄両先生が母親だけの家庭だったという事実を想起した。
業務連絡:次回は九月十一日(水)午後一時半からです。先週は甲子園で京都国際高校が話題を集め。韓国映画「ソウルの春」が封切り。深夜にはパリパラリンピックが始まります。
では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます、その第2回目。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でデモ騒ぎを起こした女性が、自分が勤めるCERNのホイッパー・キャリー博士とそっくりだったことに気づいた「キル・サンウ」類まれな、見真似と微細な数値も見定める記憶力を有している彼は、騒ぎを起こした女性が掲げていたプラカードに記された「神はサイコロ遊びをしない」という言葉と、謎の2つの数値を記憶します。
後日職場の友人アレックが、粒子加速器の測定値にノイズが混じっている、とキル・サンウにボヤきます。彼が提示したグラフと数値データを見たサンウは、直ぐに、妙な数値の周波数を見極めました。しかも、その数値は、あのプラカードに記されていた2つの数値のうちの一つでした。授賞式の騒ぎとプラカードのことをサンウから聞いたアレックは、何も知らないサンウにアインシュタインと量子力学の「量子もつれ」の問題について解説します。
ここから本作前半のハイライト、7節に渡って「神はサイコロ遊びをしない」を巡る量子力学の量子もつれの解説が本編を離れて作者から読者へ直接、解説が始まります。※私は、本文を訳すより、日本語の科学解説を読むのに時間を要しました。ジョン・スチュワート・ベルの「ベルの不等式」、ニールス・ボーア、アスペ、クラウザー、ツァイリンガー、の量子力学者らの名前が出て、解説が終わり本編に戻ります。
謎の周波数について調査したアレックは、その結果をサンウに話し出します。ノイズの発生したのはCERNだけではない、アメリカのLIGO、プエルトリコのアレシボの電波望遠鏡、日本のニュートリノ検出器カミオカンデ、さらに火星探査機パーサヴィアランスでも同じ周波数のノイズが測定されたというのでした。アレックの関心はもはやそちらの現象で、サンウの関心はあくまで女性の方です。しかし最後にアレックは一枚のポストイットに書かれたメモをサンウに渡します。というところで次回へと続きます。
業務連絡:次回は八月二十八日(水)午後一時半からです。危険な暑さは続きますが、都心では日中ににわか雨が降ったようです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその五回目。クライマックスです。
AI議員アンドロイドと対面したヘミンは、ようやく、自分はただ、あなたが書いた本の続きを読みたいだけです。と本を取り出して目的を打ち明けました。アンドロイドとはいえ、驚いた?AI議員は、今の議員個体に代替する前に書いたもので、続きは存在しないと話します。
落胆したヘミンですが、それでも、次にどうするはずだったのか話してくださいと頼みます。
するとAI議員は季節を失った人々が季節を取り戻していくかを語るのでした。話が終わった処に人間の暴徒達は押し掛け、AI議員は破壊されてしまいます。ヘミンは、警備アンドロイドの瓦礫と負傷した人々の間を一人歩いて空港に戻り、帰航します。
そして安楽死センターとAIを破壊する電磁気パルスは地球全土で発動し、人類は週末を迎えました。
そして、次のテキストは、今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でちょっとしたハプニングが起きました。その年は量子力学の実験による証明をした3人の物理学者に授与されたのですが、会場の参席者の中からピケ(※日本のピケを張る=バリケードをつくる、という意味とは異なりスローガンを書いたプラカードを指すらしい)を掲げた女性がいて、直ぐに警備に拘束されたのですがそのピケに書かれていたのはドイツ語の「神はサイコロ遊びをしない」アインシュタインが量子力学を拒絶した時の有名な台詞と、その下に謎の数字が二種類書かれていたのです。
この模様を放送していたモニターを何気なく眺めていた、CERN(欧州原子核研究機構)の各種計測装置のメンテナンス業務従事者に過ぎない、しかし、卓越した記憶力と「見真似」の能力を持つ「キル・サンウ」は、その数字と文言ではなくて、拘束された女性が、当研究所の研究者ホイッパー・キャリー博士とそっくりだったことに驚いたのでした。
後日、何気ない風を装って、キャリー博士の研究室を訪ねたサンウは、スウェーデンに行ったか、授賞式の騒動を知らないか尋ねてみるのですが、何も関係ない、知らない様子でした。他人の空似だったか、とそれっきりで終わる筈でしたが。後日、研究者の友人、アレック・ホフマンが粒子加速器の計測値データに奇妙なノイズが混じっている、とぼやく相手をした時のことです。
というところで次回へと続きます。ここからいよいよ量子力学の理論を巡る、奇妙な物語が始まります。
「대답하세요! 프라임 미니스터(お答えください!プライムミニスター=総理)」13巻。(イム・チュヨン)。大元CI。12巻の記事はこちら。
※今回も繰り返し前の記事を再掲しておくが、何が「今の日本人にお薦め」か?今の醜悪と無関心、倦怠感に満ち、知性の劣化した日本政治の現実と違って、この漫画の政局ドラマは理知的でリアルながら熱い、LGBTを初めとしたポリティカルコレクトも理想的に描かれ、しかも愛憎のドラマも美しく、全てが活気に満ちている。
前巻からの続き、トーマスの母、ジャーナリスト故エリン・カーディナルの写真展でノエルは一枚の写真に瓦礫の中でピアノを弾く母を見た。ノエルがトーマスに語る回想では、ノエルの母、オペラ歌手でスイス人のレオノーラは、公演旅行中に爆弾が投下された被災地に赴き、その後の人生を変える程の影響を受けたという。さらに回想は遡り、高校生時代、レオノーラはイギリスで、やはり高校生だったエリンと出会い親友となり、ドイツの音楽学校に行くのをやめてイギリスで音楽の勉強をしたというのだ。そのエリンがトーマス・カーディナルの母だったことに、ノエルは自分とトーマスの関係に運命的なものを感じてしまうのだった。
しかしノエルは、トーマスとその母エリンの関係に疑問を感じ、実家の財産管理を一手に引き受けている在米の妹エルウィン・ノエル(※4巻に登場)に調査を依頼する。公式のエリンの物故年によると、その時トーマスは生まれたばかりの筈で彼女の死を見たとは思えない。そこにエリンの死因について秘密があると考えているのだ。
クリスマスの季節が近づき、議会も休会になる。政治家達はこの時期を利用してイメージアップの為に各々ボランティア活動などを始める。という訳でノエルとトーマスは組んで、子供達向けの演劇活動に精を出すシーンがしばし展開する。題目は子供向けにアレンジしたロビンフッド。その帰途でトーマスは、ノエルに、登場人物の死別の場面になぞらえて語る
「私は母の死を見たことがトラウマになっている。君を愛している以上、忍耐心で君を許さねばならないこともあるはずだ。だけど死なないで。私の前で死ぬこと、それだけは許せない。」
エルウィン・ノエルからトーマスと母の死因に関する報告がノエルに入った。この事実をいかにしてトーマスに伝えるか、秘書のメリス・リューは、婚約者であるノエルが伝えるべき、恋愛とは邪悪なドラゴンから愛するものを救う為に心身をどれだけ犠牲にしてでも戦うものだ、それが嫌なら恋愛するな、という何とも妙な例えで説得する。
ノエルは、トーマスに伝えた、エリンは、重度の産後憂鬱症による、薬物の過剰服用で死んでいた。それをトーマスは祖母から「事故で死んだ」とだけ聞かされ思い込まされていた。今ようやくトーマスは自分で閉じ込めていた過去から自分を解放したのだ。
ノエルとトーマスはクリスマスを南国のプライベート島で二人っきりで過ごすことにする。ここからは、二人きりで激しく口論したり、別行動になったり、政治討論を徹底的に交わして、仲直りして、またベッドを共にし激しく愛し合う、ようするにイチャつきシーンが続く。
そして新年を迎え、議会が再開される。女王が議会解散宣言文にサインし、議会は解散、全ての議員は資格停止、ウエストミンスター寺院は沈黙に覆われ、総裁選挙の熱いレースが始まる。
ここで、7巻に登場した、メディア業界の魔王と呼ばれるアーサー・ケーンが、さらに初登場その長女アテリア・シンプソンと共に再登場した。アメリカのニクソンとケネディ以降、メディアが合法的に選挙の行方を左右していたのに、今のベンジャミン・ノエルとトーマス・カーディナルの二党首は、その従来メディアを必要としない程、世間に注目と人気を集めている。この動きにアーサー・ケーンとそのスタッフ達は自分達のメディアグループの将来に危機感を持っていて、この二人の内、特にノエルを何とかして、自分達のグループに引き入れられないか、と思案していた。
そして前首相ヘレンの秘書で、ノエルに請われてスタッフに招聘されたベアトリクスにアーサー・ケーンから会見の申し入れがあった。だがこれを聞いたノエルは、どうせ目当ては自分だろうと、自らアーサー・ケーンに会いに行く。
一方ベアトリクスは、以前にノエルにスキャンダルを仕掛けた女性記者と会う。そして依頼する「あなたに頼むしかない。トーマス・カーディナルを守って」というところで続く。
※作者後記によると15巻で完結の予定だそうだ。
※メリス・リューが、ノエルを説得する場面にちなんで、韓国の新造語「누칼협」を紹介した。これは「だれがお前を刃物で(そうしろと)脅したというのか」という意味の文章をさらに略したもので「自己責任でやること、やったことだろ」というきつい言い方だ。
業務連絡:次回は八月十四日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその四回目。
人類の終末という事態の渦中で、ヘミンは、これが最後、と思って読んだ小説は、結末を読めない。こんな皮肉な事態の中で、さてヘミンはどう行動するか?
ヘミンにわかるのは、この本の著者が創作アンドロイドであり、その個体認識番号だけです。そこにバチカンのサン・ピエトロ大聖堂からAI議員が、2257年11月4日から窒素基盤安楽死センターを起動(※窒素というのは、人類も、地球の大気も構成する元素です)、続いて宇宙ステーションも稼働停止、墜落させて、電磁気パルスを発生させて、集積回路基盤生命体の活動を止める、と宣言しました。※電磁気パルスを電気通信ネットワークに流してショートさせる。つまり人間だけでなく、機械も活動を停止する、ということです)。
だがヘミンが注視したのは、そのAI議員アンドロイドの個体認識番号は、この小説の作者のそれと同じだったのです。
この状況でヘミンは、この本だけを携えて、バチカン行きの旅客機に飛び乗りました。父母からの電話ではバチカンでは、人間が抵抗軍を作って、AI議会に暴動を起こしている、と聞きました。
バチカンに降り立ったヘミンが見たのは、人間達がサン・ピエトロ大聖堂とそれを守るアンドロイド達に暴動を仕掛けている光景でした。
逃げる隙も、言い訳する間もなく、ヘミンは人々に巻き込まれ、押され引かれて、遂には行軍の先頭となり、最後の一人となって、大聖堂の中まで入ってしまいました。そこの祭壇に一人待っていたAI議員アンドロイドは、まさしく、ヘミンが探した小説の著者の個体認識番号の持ち主でした。落ち着いた態度で彼は、ヘミンに、話でも攻撃でも何でもお受けしますと話しかけます。言い訳を始めるヘミン、というところで次回へと続きます。
※今回で一気に最後まで読了するつもりでしたが、今朝のNHK朝ドラ「虎に翼」に興奮した私が、その話を夢中でしていたので時間が無くなりました。
「エルスカル(ELSKAR=엘스카르)」第7巻。우나영(ウ・ナヨン)作。鶴山文化社。第6巻の記事はこちら。「バ・エルスカル・アメジスタ、それが約束の宝石。王冠に装飾された宝石=バエル。約束の宝石は敵に。それを開くキーはこちらにあるのです。勝った方が全てを得るのです」。
※訳訂正、ドロイ伯爵と訳していたが以降、公爵に訂正。ノクシド公爵は侯爵に訂正。
密かにビオラを助けていることが露見し王命により紛争地帯に派遣されることになった第二王子。これが最期と覚悟した王子は密かにビオラを呼び出し「変わらないでください。ビオラ」と伝える。そして第二王子は寂しく旅立っていった。
新しい後宮の懐妊祝いのパーティーが開かれた。ドロイ公爵と、ビオラも婚約者ベール嬢として参席した。だが参席者達の注目はこのベール嬢=ビオラに集中していた。ビオラが誰かにそっくりだと噂しあっているのだ。
そしてノクシド侯爵も参席。ドロイ公爵の読みでは、皇帝とノクシド侯爵の二人の独裁が増長している。この度の後宮は、ノクシド侯爵の息がかかった者。ならば狙いはやはりビオラか。
会場でビオラは、以前出くわした、ランゲ族狩りのリーダーでエルスカルを食べて超人的な戦闘力を発揮していた男と出会ってしまう。ノクシド侯爵の息子ハプロン(※前巻までハフロンと記述していたが今後訂正する)だ。お互いにランゲ族の気運を感じ合った二人。※ハプロンはビオラの感じた通りランゲ族なのか、単にエルスカルを食べているが故なのか、まだ判明しない。またハプロンはノクシド侯爵直々の指揮で動いているが、正式な嫡男ではなさそうだ。むしろ内密の息子のようだ。
だがこれで、ノクシド侯爵側にビオラ「約束の子」の存在が明らかになってしまったことはドロイ公爵にも理解できた。
一方ランゲ族のリーダー、マハ達も、ランゲ族の潜伏に頭を悩ませていた。「人間」の協力が必要だ。ドロイ公爵が信用できるのか、会見することにした。さらに北方のランゲ族との共闘も必要だ。そちらには「約束の子」ビオラが向かうことになった。
北方のランゲ族の潜伏地は、予想を超えた大規模な「地下の村」だった。そしてリーダー「マペ」に出会い、今までただの伝説に過ぎないと思っていた「約束の子」が現れたことで、マペは共闘を約束する。
マハ達と会見したドロイ公爵は淡々と、あっさりと、ドロイ公爵の領地にランゲ族が移住することを受け入れた。だがマハにはまだ疑念があった。
ドロイ公爵のような権力のある「人間」がなぜランゲ族に協力するのか。ドロイ公爵の侍女でランゲ族であるセレットに尋ねるが、「閣下は約束を守る、責任を果たすお方です」とそっけない。マハ達から見ると同じランゲ族でも「人間」と長くいるとああなるのかな、と違和感を覚えた。
皇帝が宴を開いた。皇族関係者も多数参席する大きな宴だ。ドロイ公爵とビオラも参席する。社交界の№1レディ、レジーナ・フィオレも現れ、皇帝派の流す噂には注意するように警告した。
だがここで今度は皇帝がビオラ奪取を強行した。独りで休息中をエルスカルを身に着けた男に襲わせたのだ(エルスカルの宝石を持つ相手にはビオラの力は通じない)。
ビオラの不在に気付いたドロイ公爵に第二王子の臣下が接触してきた。第二王子が密かに命じたビオラへの「最後の」助力だ。そこで提案されたのは、ビオラを救出する際にひと騒動起こして、人々に、皇帝とドロイ公爵が、婚約者ベール嬢(ビオラ)を巡って諍いを起こしていると思わせるのだ。つまり皇帝派とドロイ公爵の対立を公然のものとするのだ。力関係では圧倒的に不利だが、そうなれば「大義名分はドロイ公爵の方にある」と。
腹を括ったドロイ公爵は、これを実行し、ビオラを奪還。直ちにドロイ公爵の領地に帰還、さらに、王宮への魔石の供給の制限を実行した。
ランゲ族のマハ達との連絡係をしていた侍女セレットもこれに続いて領地に帰還。しかし、ビオラに対する態度は何故かそっけなかった。
※一方ランゲ族の南方のリーダーの青年カルトが新たに登場。何らかの事情で妻に先立たれていることは描かれている。このカルトはマハ達と、仲間だが異なる動きをしていた。彼のグループの仕事は「巡察者」であり、もともと戦闘力があり、すでに貴族達とも接触、何らかの協力関係もあった。マハ達がドロイ公爵と接触したと聞いて「人間一人に全て命運をかけるわけにはいかない。それに、自分たちの能力をもっと高く買ってもらおう」と思惑を巡らせていた。
ハプロン率いる狩人がマハ達を発見、エルスカルを食べながら超能力を発揮して襲い掛かり、苦戦しているマハ達の窮地を救ったカルトは「巡察者」にだけに伝わる記録「エルスカルの呪い」を語る「人間の欲に気を付けろ。奴らの欲を見張れ。奴らの欲が心臓に達したら黒い呪いは一つにしろ。深く不吉な呪いは、隠されるものなく探し出し、罪を深めよ」
ランゲ族は人間と関係を断ったので、具体的なことは全くわからない、ただ人間に注意する為、人間に対する好奇心を消すために言及を禁じ、古い記録を引っ張り出した巡察者しか知らないことだ、と。
そしてカルトもドロイ公爵と会見する。南方のランゲ族は、他地域の純粋なランゲ族とは違う、人間社会の中で生きてきた、勢力も他地方のランゲ族よりも強くて大きい「例えば、南側の貴族勢力の一部を動かしている」
※この後具体的にドロイ公爵とカルトがどんな話し合いをしたのかはまだ描かれていない。次にビオラとも「あなたにすぐ話したいことがある」というシーンだけ。ただビオラは北方のランゲ族のリーダー「マペ」と南方のランゲ族のリーダー「カルト」を思い浮かべて「いつか私も選ばねばならない」と物思いに耽る姿が。
ドロイ公爵領に、逃れてきたランゲ族が集まり、もうすぐ北のマペと南のカルト側のランゲが協力に来る。
ラストは、出立前のカルトが貴族夫婦?に挨拶している場面、夫人の方がカルトに思い入れしているようだが、夫の方は「カルトは自分の妻を今も愛しているんだよ」と冷静。カルトが言っていた、南側の貴族勢力らしいが、どんな密約をしているのか?
業務連絡:次回は七月三十一日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその三回目。
建築設計デザイナーのヘミンが目覚めると朝のニュースで、世界AI議員議会は、11月4日を起点として「人類の終末手続き」を開始すると決定した、と発表した、と伝えるのです。突然の事態に、ただ当惑して、市庁舎の建築部の事務所を訪れたヘミン、と言う件からです。
事務室でAIアンドロイドの担当者は、しかし、そこでもまた詳しい事態は知らされていないという事で、何もわかりませんでした。失意のヘミンは、市庁を出ますが、そこでも、いつもの日常と変わりない光景が続き、ヘミンは、暇な一日を持て余しながら過ごします。
あくる日、ヘミンは、出勤しますが、上司によるとやはり詳細な情報は来ていない、現行業務を遂行する要請しかありませんでした。
勤務時間終了後、警備アンドロイドが自殺未遂を図ったフレディの席を片付けるために集めた荷物を見かけたヘミンは、そこに一冊の本を見つけます。それは「今時」では珍しい、革張り装幀の「紙の本」でした。
ヘミンはその本を持ち帰ります。その後の、一日中、ヘミンは本を読み続けました。百年前の流行小説でした。
季節が「冬」しかない世界で、「神の声」が聞こえる「振り」をして神官になった少女は、夏、秋のある世界へ向かう途中、船が難破して「季節のない」世界に漂着します。その世界の人々は季節のない世界への恨みを「神官」である少女に向け、彼女を害そうとするので、少女は逃亡、洞窟中に逃げ込みます。そこで少女は謎の声を聞きます。
というところで、本の最後の章は終わり、その続きがありません。ヘミンは呆然とするのです。
※マクロな世界では人類の終末という事態の渦中で、ヘミンは、これが最後、と思って読んだ小説は、結末を読めない。こんな皮肉な事態の中で、さてヘミンはどう行動するか?というところで次回へと続きます。
「RURE(루어)」40巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。39巻の記事はこちら。本の帯カバーは「トヨン(도영)」(篇)となった。
39巻で、この世界ではハルと恋人同士の設定のハベク=ハルに、ミルは冷静に説いて聞かせる「『果ての島』(ハルとミルの故郷)こそ『聖所』だ。まさしく未完成の天空城のようだった島。あの人もそこにいる筈だ」と。
さらにミルはハベクを攻める「この土地の名前は何だ」ハベクは答えられず、うろたえる。そこでミルはさらに続ける「地名すらつけられない程、虚弱な世界だ」「設定値があるのは、強制的なルールがなければ直ぐ崩れてしまう世界だからだ」「居住する生命体も他の世界のコピーしかできない」「どうにかタマル様まで飲み込んだが消化不良のようだな」「最初からおかしいと思っていた。この深淵は、空虚とタマル様が作ったと聞いたが、設定値が一番高いハベク。深淵の皆が好きなハベク。[ミル]さえ優しくしてくれるハベク。そしてタマル様を嫌いになったシン・ハル。これが傑作だ。恋は盲目、になったタマル様は騙せても、私は直ぐ気付いた」「空虚が嘘をついた」「シン・ハルがタマルを嫌いに?話にならん。ハルは一番大切なものを絶対に手放さないのだ」「お前(ハベク=ハルのかけら=つまり空虚)は深淵ですら、一度もタマル様を手放したことがない」「否、もしやタマル様を繋ぎ止める為に深淵を作ったのか?シン・ハル?」
※拙文でお分かりだろうか?。つまりまた、ここまでのドラマ展開を「空虚」のウソとしてひっくり返したのだ。それを見破ったミルが、ハベクの中の空虚、というハルのかけら、を問い詰めているのだ。
そこで、ここに、この世界=深淵の[シン・ミル]が現れた。彼女に向ってシン・ミルが言う「タマルがお前に気をつけろと言っていたな。ルアーが、ルアーの印章に気を付けろ、とはな」
※つまり、この深淵の傷だらけの[シン・ミル]をシン・ミルが見ると直ぐ、32巻でシン・ハルから取り込めなかった印章の精霊だったとミルには分かったのだ。
だが[シン・ミル]は「今はハベクのもの(者)だ。印章と呼ぶな、この世界のシン・ミルは私なのだ」と。
これを聞いたシン・ミルはせせら笑うが、[シン・ミル]は続けて言う「ルアーはただ流れゆく群集体。数え切れぬ次元、計りようのない時間を積み重ねてもルアーは変わらない。種としての限界に達していると思っていた。ところが今私達([ミル]とハベク)は天敵であり、抗えぬ相克だったのに、二人が出会い全く新しいものが生まれたのだ」「見ろ、お前にも驚異だろう?」
※これもややこしいが[シン・ミル]=精霊ルアーと、ハベク=ハル=翅族は、始祖の時代からの合い入れない関係=天敵。その二人がこの世界=深淵で愛し合っているではないか、と勝ち誇っている。
それでもシン・ミルはひるまず「それはただの雑種(混種)だ」と言い放ち「宿主に寄生するハリガネムシ。寄生虫をルアーと認識するなど、印章。お前は汚染された。治療を受けよ」と印章=[シン・ミル]を取り込もうとするが、[ミル]はこれを拒絶。
怒るシン・ミル「何故だ、お前の真の主人は私だぞ」と叫ぶ。だが[シン・ミル]は冷静に答える「忘れたのか、私をシン・ハルに送ったのはお前だぞ、忘れてしまったのか。目覚めるまで時間がかかったからな。先代ルアーだったシン・ミョンファ(=大国ワン・ウィライの大神女)は姉妹であるシン・ミョンジを救う為に翅族ソネッティの子と契約した。それが始まりだ」と。
※またしても、新たなる謎の話が始まったらしい。
シン・ミョンファの妹、シン・ミョンジは回復不可能だった。ミョンファはミョンジを救うため、自分のルアーの体、ルアーの印章、ミョンファとミョンジの隔離の三つを行った、そうして二人の故郷「果ての島」へミョンジを送った。そうすれば平凡な女として生きられるはずだった。だが生き残ったのはミョンジだけではなかった、ミョンジの中に黒い翅の神を作り出す翅族の実験の成果が残っていたのだ。ミョンジは妊娠した時、腹の中の子に、その力を宿しているのを悟った。しかし、ミョンファがミョンジにしたようにルアーの力をこの子に与えれば、子供は助かる。ミョンジ自身は狂人として余生を送るかもしれないが。これは避け得ないこと。避けられないことを指す言葉「日中逃影」にちなみ、この子の名前を「トヨン(도영= 逃影)」と名付けた。
生まれ成長したトヨンは女の子で、ルアーの力も記憶も封印されていたが、自分に対する何か尊大なものを感じてはいた。その為に、世間的には孤立、不良扱いを受けていた。当時の島の女性家長は死産、夫も早死が続く中、新たな婿に手を出して妊娠した。愚行だが、自分が直系の何者かであることを証明したかった。そして胎内のルアーと黒い翅族の双子の内、語りかけてくる黒い翅族を感じた。その邪悪な誘いに応じて、トヨンは初めてルアーの力を発現し、ルアーの精霊を分離し、黒い翅族に送ったのだ。
だが、双子が生まれるとルアーの力も継承され、トヨンはルアーの全てを失った。黒い翅族であるシン・ハルの存在は完全に忘れ、シン・ミルには「お前の所為で全てを失った」と突き放した。
ミルは、ハルに問う、母について話し合えるのはもうお前しかいない、私はどうすればいいのか。だがハルにも答えはない。
ミルは続けて問う、印章達が自分で決めろと言った。お前=ハベク=ハルがルアーか否か自分で判断しろと。お前はどう思う。
ハベク=ハルは答える「私はハベクだ。そうでなければクヤ(タマル)のわきには立てない。今でも生々しく思い出す。彼を本気で殺そうとした、傷つければ嬉しかった。ルアーだろうと翅だろうと何の役に立つの?空虚とソネッティの子が追い続けてくるから又クヤを傷つけるわ、私がハベクでなければ。」※32巻の記事参照。
この答えにミルは怒る。「勝手なことを言うな。お前の所為でタマルは偽りの世界の養分になっている。ではファイルはどうなる。ワン・ウィライ王国が来る。皇帝と大神女が大軍を率いてやってくる。お前の恋愛ごっこの所為で何百万の民草が危険なのだぞ」
ミルは立派なファイルの「王のルキア(=大精霊の眷属)」になったのだ、と気づいたハルは答える「あなたの言うとおりにするわ」
そして、この深淵で暮らしてきたハル(外見はハベク)は、ファイルのシン・ミル、この世界のミル、精霊イクサイクを率いて「聖所」へと導く「天路(하늘길)」を行く。そこは、無数の空間がつながっている。定められた順序通りに通らなければ、迷路となり触手に取って食われる。
場面は変わり、先に「聖所」に侵入したハルの姿のタマルは、黒い翅族を次々と虐殺しながら血まみれで宮殿内を進み続ける。
更に場面は転換。舞台が深淵の中の世界から、元のファイル王国に戻った。
どこかに潜み、翅族を人体実験してルアーを人造しようとするミュールゲンとその配下達は、実験体が次々と苦しみ絶叫しながら死んでいく状況に直面していた。
そこには「深淵」の本体である球体が空間を揺るがす渦の中に存在していた。そこはミュールゲンとその配下達にも理解しがたい場所だった。球体の中は「ルディムナー」と同じ一つの「世界」なのだと推測するしかなかった。
この非常事態に対処するために、直感的にミュールゲンは自ら、深淵の球体の中に向かうと宣言するのだった。
ミュールゲンは言う「あの中で死ぬと言っても本当に死ぬわけではない。それに気になるではないか。『空虚』が作り出したあの世界も」※「あの世界」とは、深淵の球体の渦の周囲に描かれている、地球を模した世界のこと。それがハル=タマル、ハベク=ハル達がいる「深淵」の中の、地球の街を模した世界と同一なのかは、まだ不明。
※この巻も伏線の回収と新しい設定解説が描き込まれて、読みこなすのに苦労した。が、新たにまた物語が動き出したようだ。
業務連絡:次回は七月十七日(水)午後一時半からです。東京は熱中症警戒警報、蒸し暑い。相変わらず目が回りそうでした。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその二回目。
プロローグで、世界各国がAI(人工知能)による政治、AI議員によって統治が行われる世界のもの語りが始まります。いよいよ本編が始まりました。
建築設計デザイナーのヘミンが目覚めると朝のニュースで、世界AI議員議会は、11月4日を起点として「人類の終末手続き」を開始すると決定した、と発表した、と伝えるのです。突然の事態に、ただ当惑して、出勤路に出たヘミンですが、外は平穏。いつもと同じ露店の煙草売りの老人、修理費を乞うアンドロイド労働者らの姿。会社に入れば、いつもと同じ警備アンドロイドがあいさつを寄こします。事務室に入ると、同僚のエリスンがやはり同僚のフレディが飛び降り自殺を図ったが、外の掃除アンドロイドが助けてくれて入院したが命は無事だ、と教えてくれます。
そして社長が職員の前に現れ、「人類の終末」について、いずれ当局が詳しい話を伝えてくるだろう、それまで冷静に仕事に従事してくれ、とだけ話がありました。
今ヘミンの勤務は、一日二時間、週三日のみ。※AI議員達による治政で、人類は相当安楽に暮らし、肉体労働や雑用はアンドロイドがやってくれていることが垣間見えます。
ヘミンがしているプロジェクトは、市庁の建築部が発注した、地上6階、地下6階という共同墓地ビルの設計デザインですが、これが人類の終着地点、自分も生きてビルが完成した姿を観られないのでは、と思うと仕事に身が入りません。※既に人類の墓地は土地不足であることが窺えます。
勤務時間は仕事が未完のまま終わりエリスンや同僚に飲みに行こうと誘われますが、ヘミンは断り、市庁舎へと向かいます、アポなしでの訪問だと庁舎内のアンドロイドに建築部への案内を請うと、殺風景な室内に連れていかれます。その隅には気の置けないコーナーがありました。というところで今回はここまで。次回へと続きます。
※今時の韓国小説の文章は、彼彼女の区別なく「그」ですので、男女の区別が明確にできませんので、個人名で訳しました。
※「人類の終末」とはいかなるものか、具体的な説明が描かれないまま話が進行していますので、登場人物も私達読者もじれったい、もどかしい思いをしながら読み進んでいかざるを得ないのです。これもSFならではの叙述テクニックです。
「RURE(루어)」39巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。38巻の記事はこちら。本の帯カバーには引き続き「深淵(심연)」とある。
※38巻でまたしても読み違いをしていた「ハベクがタマルとなり、ハルはハル、そしてミル」と読み解いていたがまるで違う。ハベクはこの深淵の「設定」の一人であり、見た目のハルはあくまでハルのかけらを取り込んだタマルのままだった。※だからハルの描かれ方は常に表情が冷笑的で、本来のハルの感情豊かさがなかった。38巻で描かれたように深淵の中で空虚とタマルは深淵の核心部を巡って見えない戦いを続けているのだ。
ミル、ハル=タマル、ハベクの三人三様の旅が始まった?と思ったら場所としては「深淵」世界の同じ街の中にいるらしい。先ずミルが知るのは地球とルディムナーの世界が川を隔てて共存し、今はルディムナー側にいること、古代種族も現存種族も併存している、神=「空虚」の眷属として翅族が食物連鎖の最上級層に位置し「夜様」として恐れられている、
一方ハル=タマルはこの状況を考察する。創造主の最初の子の死体から生まれた魔獣と、二番目の子、大精霊の眷属ルキアは本能的に敵対する。古の神々と魔獣に対抗するため「空虚」は古の神々に背教者として嫌悪された翅族を眷属として再現し、「空虚」は大精霊の按配に従い多くのルキアを飲み込んできた。だがハルはルキアを食べることをを拒んできた。だから「空虚」は、今のハルを飲み込んでも力が不十分ではないのか?
「空虚」は「完全な神体」を取り戻したい。深淵を前哨基地であり、最初の神に奪われた身体と二番目の神に奪われた精神を取り戻し完全な神に戻るための橋頭堡。であると考察したところでハル=タマルは、ハルのかつての部下の一人渓谷の翅族スマッテイーと出会う。彼等はミュールゲンと翅の神の力で翅を取り戻し、ここの「聖所」に連れてこられたと言うのだ。聖所というならこの深淵の核心部かもしれない。ハル=タマルはあくまでハルとして案内を請うのだった。
ミルの方はチャキと出会う。だが会話内容から彼はあくまでこちらの世界のチャキであり、こちらの世界のミルだと思って対話しているのを悟る。
そしてハベクは、前巻で精霊(幻獣)イクサイクが出会った、こちらの世界のミルと出会う。※またややこしくなるがハベクは、こちらの世界の「設定」の一人なのでこのミルが、ハベクにとっての本物のミルということになる。
こちらの世界のミルは何か思うところがあってハベクを拘束するのだが、気が変わって彼を追い出しイクサイクも出るように促す。※こちらのミルにも何か深い闇=設定らしきものがあるらしい。
イクサイクとハベクが出た所で、ミルとチャキが出くわす。するとハベクが激しく動揺し始めた。それを見たミルは何かを直感したのかハベクに問う「果ての島(ハルとミルの故郷)を知っているか。どこにある?」
するとハベクは空を指さす。そこにはぼんやりと「天空城」が雲間から現れていた!。
ハベクの姿も変容し始める。周辺に怪異が生じ、イクサイクは激しく恐怖し、ミルはハベクに呼びかける「ハベクしっかりしろ!、タマルさましっかりして!」と。それでも反応がないので最後の頼みで「起きろ、シン・ハル!」と。
すると、ハベク=姿は変容した長髪のタマルだったが、目を覚ました。怪異は収まる。ミルはつぶやく「私を騙したな、彼奴はまた私を騙した」※ハル=タマルの言っていたように、ハベクは「設定値」の高い「設定」の一人、どころではない、その中にいたのは「ハルのかけら」だったということだ。ハベク本人にはその自覚は無いようだが。
この時、スマッティーに案内されていたハル=タマルは翅族の「聖所」宮殿?らしき場所で、冷酷にもスマッティーを殺害し「通行証」を奪ったところだが突然血を吐いた。この症状は「設定」外の名を呼ばれた時に生じるもので、同時に大きく「設定値」が揺らいだような感じがした。
それでもハル=タマルはスマッティーに変装して「聖所」に侵入する。
目覚めたハベクは、本人に自覚はなくてもまるで屈託なく昔通りの朗らかなハルだった。この不条理な「敵地」ですらも人々は何故かハベク=ハルに親切だった。ここでハベク=ハルはこちらの世界のミル=※ここから原作で[ミル]と表現され始めた=に助けを求めよう、と提案したがミルは拒絶「あなたの知る[シン・ミル]は[シン・ハル]と本当に仲良かった?あなたが良いと思っても、ここで一番信じられないのは[シン・ミル]だ」。シン・ミルのモノローグ「私は目的の為なら手段を選ばない。[シン・ミル]も同じだろう。」
この時、ハベク=ハル、ミル、イクサイクがいる店内でテレビから速報が流れる。翅族の聖所でスマッティーが殺された件で、容疑者は「シン・ハル」変装したハル=タマルの姿も映され、手配されていた。
この世界ではハルと恋人同士の設定のハベク=ハルは、当然いきり立つが「聖所」が何かもわからない。そこでミルは冷静に説いて聞かせる「『果ての島』(ハルとミルの故郷)こそ『聖所』だ。まさしく未完成の天空城のようだった島。あの人もそこにいる筈だ」と。
※ここで、同時発売の40巻に続く。しかしこの「深淵」篇、SFにある、人間の内面を探求する内宇宙(インナースペース)や、エイリアンが特定の地球人のイメージを具現化再現してみせる世界に加え、今時ならネットの仮想世界、メタバースのキャラクターと本物のギャップ、を複雑に組み合わせた感じで、一段と読み解くのに苦労する。今回も間違っていたが、今後も苦労しそうだ。
業務連絡:次回は七月三日(水)午後一時半からです。昨日は大雨で梅雨入りかと思ったら、今日は暑い事。目が回りそうでした。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
先ずは、이산화(イ・サナ)の短編集「전혀 다른 열두 세계(全く異なる12の世界)」から「그땐 평화가 행성들을 인도하고(その時は平和が惑星達を導いて)」を読む2回目。子供達の代表、セソンのいうところでは、彼らは皆、お互いの意志を対話せずとも理解しあえるというのです。つまり彼らの能力は共感力、テレパシーと分かった処から、締めは、政府高官秘書ヒョンフクは衝撃を受けつつもそれが事実でも感情に振り回されるだけだと反論を試みますが、しかしセソンはぶれません。私達は学習します。それに我々は大人になるし、次々と我々のような子が生まれる。世界はいずれ我々の手に入るのですと。ヒョンフクは、彼らの話を否定できません、新しい人類の出現にただ恐怖に震えるしかない。敗北者の精神にセソンは「信じてください。世界はもっと良くなるのです。我ら皆に」
そして、本編より面白い?作者自身による解説。タイトルはニューエイジ思想の流行った時代のミュージカル「ヘアー」の劇中歌の歌詞。設定は、ジョン・カーペンターのリメイクSF映画「呪われた都市(※邦題「光る眼」)、そのオリジナル映画の原作ジョン・ウィンダムの古典的SF小説※日本での翻訳題は「呪われた村」。ついでながら、このリメイク版は日本での公開時私も観ましたが、カーペンターの映画にしては地味な作品でした。
さらに、作者個人は、映画館ではなく自宅で観た初めての恐怖映画で子供心に強烈な印象を受けた。そしてあらゆる創作物で「世代間対立」は旧世代にとって新世代への「恐怖」として描かれている、という解説。そこから我々の世代よりはるかに「人間性」を持った存在が誕生したらどう反応するか、が発想の基だったと。以上です。
そして続いての新作は昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読んでいきます。
プロローグは、中国が新疆ウイグル自治区を新疆省として再編される際、社会統制用AI「新疆ネットワーク」を導入すると、たちまち数万名の中国人を「作り出した」。自律走行車両と調理用アンドロイドに先ず公民IDナンバーを付与。彼らは経済活動と納税義務を果たした。「タンパク質基盤の中国人」と異なり彼らは五十%以上の所得税率を適用され、社会保険からは除外された。
その後、新疆ネットワークは数百万名の集積回路を内蔵した中国人を誕生させて、経済活動に導入。彼らの役割は、低所得層よりさらに劣悪な環境の低所得層になることでした。
ついに新疆ネットワークは終身政権を確定し、全国人民代表大会で全たんぱく質基盤中国人の中産層化を宣言。西欧諸地域も類似した政策を導入し、某国から独立。一世紀以内には、国連は各国を統治するAI議員議会に代替されました。
※一気に畳みかけるようにマクロな話は終わり。次回からはミクロなドラマ本編が始まります。
業務連絡:次回は六月十九日(水)午後一時半からです。大雨続きの後、いきなり快晴、気温が一気に上昇。体調維持に気をつけないと。
さて、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
今回から이산화(イ・サナ)の短編集「전혀 다른 열두 세계(全く異なる12の世界)」を読む2回目。
今回は「토끼 굴(ウサギ穴)」のネーミングとエピソードの数々を作者自ら詳しく解説した文章。続いて、
同短編集の二作目「그땐 평화가 행성들을 인도하고(その時は平和が惑星達を導いて)」を読みます。
「ウサギ穴」とはルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」の冒頭、懐中時計を持った白兎を追ったアリスが落ちていく穴の事、で始まり「先カンブリア代」のウサギとは、作者の創作。その他も、欧米の疑似科学ネタ、再検証されなかった深海探査の発見魚類や関係者の名前からネーミングをとった、と。
それがいずれも、さすがの私も、知らなかったトピックばかりでした。
このように、作者自身の解説が面白いので、テキストとして同書からもう一作読むことにしました。
そこで第二話「その時は平和が惑星達を導いて」政府高官が、十代の子供達の政治的要求事案の請願を受けている場面から始まります。
かつて地球に落ちてきた彗星の影響だったのか?その後、生まれた子供達は世界中で、優しく、行動力があり、団結して理想的政治を要求する政治運動を展開しだしました。
そんな世界の、韓国での一場面。政府高官の秘書官と思しき「ヒョンフク」は、子供達の代表である「セソン」に、
『立派な事案だが、各方面に合意を形成する必要がある』とお決まりの回答をしたところ、
セソンは『我々は、合意形成に時間がかからないのが、今のあなた方、大人との違いです』と明言します。
セソンのいうところでは、彼らは皆、お互いの意志を対話せずとも理解しあえるというのです。つまり彼らの能力は共感力、それは一体?というところで時間切れ、続きです。
業務連絡:次回は六月五日(水)午後一時半からです。暑くなりますと、屋内施設の冷房が寒くなるほどできついです。さて、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。今回から이산화(イ・サナ)の短編集「전혀 다른 열두 세계(全く異なる12の世界)」を読みます。今回は「토끼 굴(ウサギ穴)」です。
海洋研究船「ロリナ」からのコントロールルームで、深海を探査する無人探査艇「エディス」から送られてくる映像を観測している、生物学者メル。メルには他の人々には見えない、未知の海洋生物が見えるのです。その能力故に、メルは、指導教授だったアザコフ博士の言葉を回想します。過去の、火星、深海、いずれにおいても数多の学者たちが発見しながら、その後、確認されることがなかった、現象、生物の数々の事。それらを博士は、かつて生物学者ジョン・ホールデンが、進化論を覆す発見があるとしたらそれは「先カンブリア時代の地層のウサギの化石」であると表現したことになぞらえました。ウサギ穴からたった一度飛び出してきたのを目撃されながら、二度と確認されなかった存在。
メルがさらに問うた時、博士は、発見は「知」の始まりに過ぎない、その後、他者の検証を経なければ「真の知」にはならない、だがそれだけではなくて、人間は、己の脳の限界を超えた存在を発見した時、精神の安定の為に、直ぐに忘れ去ってしまうのかもしれない。それが「ウサギ穴」だと。
今「エディス」から送信されている映像にもメルしか認識できない深海生物もいれば、皆にも見えて新発見に湧きかえる人々の歓呼もあります。メルの頭の中では今、人類が次の準備を迎える時まで、新しい「ウサギ穴」の中に入っていく覚悟ができるまで、何かが再び眠りに落ちていくことを感じているのでした。
※ストーリはシンプルなのですが、作中には、確認されなかった数々の発見の中から特に深海生物に関する事例とその名が虚実ないまぜで、いくつも出てくるので読者は(多分)目を白黒させられ、さらに、さらりと「メルたちは本当に我々と同じ人類なのか?」と疑問に思わせる描写もあって、煙に巻かれた気分になるのです。
※そこで本書の巻末に作者後記で、本書が「高校の読書評説」という雑誌に月一で12回発表された短編連作であり、通常のSFアンソロジーと違ってSFファンではない、一般読者にいかにして興味を持たせるアイディアにするか、といった執筆動機がつづられています。
※その次には本作「ウサギ穴」のネーミングとエピソードの数々を作者自ら詳しく解説した文章があるのですが、ここで時間切れ、続きはまた次回で。
業務連絡:次回は五月二十二日(水)午後一時半からです。今日も降ったり止んだり、気象寒暖の変化の激しい事。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。
前々回よりのテキスト「판소리 에스에프 다섯 마당(パンソリSF五話)」というSF小説アンソロジーより一篇、곽재식(カク・ジェシク)「춘향가를 가장 재미있게 듣는 법(春香歌を一番面白く聴く方法)」を読む第三回目です。
没入鑑賞プログラムについて「私」はさらに取材、推測を続けます。没入鑑賞プログラムで常に初めて見聞きした時の感動を味わえる、しかも本人の性格も良くなる?本当にそんなに上手くいくのか、と問うイ次長に「私」推測を答え続けていきます。
「春香歌」は特に他のパンソリとは違う、幻想的非現実的な奇跡はありません。地方官吏の不正を風刺したリアルな物語です。だから記憶を消して聴けば、他のパンソリよりも現実的な「良い」感動だけを受けられるのです。
しかし、驚くべき短所が没入鑑賞にある。実際の人間の脳で、記憶除去手術のモデルが必要なのです。その効果、副作用を確認した後で学生たちに手術をする。そのモデルとなった「春香歌」の研究をしている大学院生は、手術は成功したものの、院生の脳には「春香歌」の関連記憶が当然脳の記憶部位を多数占めているので、術後の彼には院生時代の学習記憶が残っていないという事態が起きていたのです。不快な、負の感情も除去されてはいますが。
これらの取材と推測には決定的な証拠はありませんが、大衆にセンセーショナルな話題性は十分ある、というイ次長の判断で番組の作成に「私」が入るところで、完結しました。では、次回からはまた新しい作品です。
業務連絡:次回は五月八日(水)午後一時半からです。今日は霧雨、気象寒暖の変化の激しい事。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。
前回よりのテキスト「판소리 에스에프 다섯 마당(パンソリSF五話)」というSF小説アンソロジーより一篇、곽재식(カク・ジェシク)「춘향가를 가장 재미있게 듣는 법(春香歌を一番面白く聴く方法)」を読む第二回目です。
『公教育からパンソリの代表的な一曲「春香(チュニャン)歌」を外してはならない』というデモがかなり大規模に教育庁前で行われている。何故そんな奇妙な抗議運動が?
唯一の伏線「没入鑑賞プログラム」とは何なのか?「私」はイ次長に報告し、さらに取材を進めます。まずはこのプログラムを解説する公教育AI(人工知能)にQ&A。公教育で採用されている「春香歌」は人間の名匠(名唱)の歌ではなくロボットが名匠の歌から編集合成したものだというのです。名匠の歌唱法をさらにロボットが完璧にしたものであり、これ以上の技量を魅せる歌はない、というのです。しかもこれなら地方の伝統芸能の人間の継承者がいないものでも記録保存再現公演が可能だと。しかし、それでも「私」は納得がいかない、春香歌のような有名な題目の公演なら、いくら素晴らしくても聴き飽きるのではないか?。
ところがこれに対するロボットの回答は、心配ない、それが没入鑑賞「前」処理だと。これを聞いた「私」はAIとの対話を終え、イ次長に報告します。公教育に没入鑑賞プログラムを卸している民間企業は、これを「神経補充処理」と呼んでいますが、要するに特定の記憶を都合よく消去してしまえる技術なのです。この作品世界では脳操作技術が発達して人体に損傷を与えることなく、作品鑑賞前に、常に新鮮な感動を味わう為に用いられている、それが没入鑑賞プログラム、とSFらしい謎解きが展開されてきたところで、さらに、というところで次回へ。
「회랑식 중정(回廊式中庭)」6巻。김연주(キム・ヨンジュ)。大元CI社。5巻の記事はこちら。
モノローグ『ユン、アボジ(父)がお前を買ってきたと言った』ユンは、セヒ嬢(長女)の勉強部屋の床上で一晩眠り込んでしまった。その間、セヒは起こさずに勉強を続けていた。早朝、ようやくユンが目覚めると、チェヒ(長男=大旦那)がユンの姿が見えないとセヒの部屋にやってくるが、セヒはユンを匿う。ここで、しばらくチェヒとセヒがユンを巡って、冷静にしかし緊張に満ちたやり取りが続いた。チェヒが出ていくとセヒはユンに言う「兄を殺す必要はないわ」(※5巻でのユンの問いに対する答え)。
ユンのモノローグ『その瞬間には本気だった。戻れない人生のある瞬間、思い出せない時が来ようとも。その時。俺は。』
続くモノローグ『瞬間の感情は、瞬間と共に薄められる。冬が過ぎれば雪が溶けるように。春が過ぎれば花が散るように。瞬間の残像だけ残して流れ去り、紙にも心にも記されず、ある瞬間その感情の主さえ忘れてしまえば、その時は過ぎ行く本気を、無謀、稚気、衝動と言っても構わない』
ユンは唐突にミソクから、自分は女高普(女子高等普通学校)の「高女生」の制服だけを買った、つまり本当は学生ではないと打ち明けられる。何故ユンにだけそんなことを明かしたのかミソクの意図は不明。
※ここで気になる登場人物が現れた。チェヒの事務所に「佐藤さん」という制服の、軍人か官憲らしき人物が訪れた。日帝占領下だから当然チェヒはかしこまっている。
チェヒがミソクに洋服を買ってやる、と言い出し、ユンに自分出入りの洋服店に連れて行ってやれと申し付けた。だがそれを見たセヒが表情を固くして兄にかみついた。つまりミソクを弄ぶ気か?ということだ。ここで二人のミソクを巡る言い争いが続く、男尊女卑、身分制について。
ここでまたミソクの回想シーンが挿入される。前巻まで私にはこれが誰かわからなかったが、自殺したチェヒの前の妻、チョンアだったらしい。そして5巻の「私、学校へ行けることになった」の続きだ。「私、教室に入れなかった。夫人はだめだって。校長先生がどうしようもなく原則主義者だったの。家庭に入って良妻賢母になれって。それが学業よりずっと立派な稼業だと。この半日(校庭の木の下で)ずっと絶望していた」
最後にミソクとセヒの会話。「ご存知ですか。近頃日本の奴らは虎の皮を狙っている。虎を殺して残った皮を」※これはおそらく風刺的な意味。「お嬢さんは優しい。私を理解できなくても優しい」
そしてあくる日、ミソクはユンに付き添ってもらって洋服を選んだ。
ある夜、ミソクがユンに言う「人間は欲望の為にどこまでできるのか。少なくとも朝鮮では国も売れることが証明された。ユン君みたいな人はこんなウソみたいな場所に相応しくない。私は自分を裏切るつもりはない。辛いのは女としての気分。でも女としての私の意志は喜びに満ちている。私は長い間、こんな瞬間を待ちわびていた。私は自分を恥じていない。」
突然、チェヒがセヒに学校をやめろと命じた。家で花嫁修業でもしてろと。それでもセヒはチェヒの外出後、ミソクを帯同して登校した。途中で結婚式には韓服を着るのか、という話になり、セヒはミソクに義姉の話をする「義姉は韓服を着て愛する人と婚礼を挙げ、首を吊った」。
学校が終わるとセヒはユンを伴って腹いせに百貨店に行く。ユンは売られる前のもうおぼろげな貧乏な家の印象を思いだす。二人のことをミソクが尾けていた。さらに何故かカウォン(チェヒの婚約者)が現れミソクの前に立ちふさがった。ミソクを喫煙室に連れ出し、これまたなぜか「佐藤」の悪口を聞かせた後カウォン「心配しないで私はあなたを見守っている」ミソク「はい、分かった」と不可解な会話をして別れた。
セヒは日傘を買い、ユンにも雨傘を買ってやった。最後にユンのモノローグ『俺はあの日、土砂降りになることを願っていたのかもしれない。家に向かう内心、そうして雨の気配もない空を見上げていたようだ』
※今度はカウォンの動きまで謎めいてきた。
※最後のページの作者の言葉『大きな足跡を残した男性独立運動家の傍には、飯を作り洗濯をして世話をした女性達がいました。植民地の人生を、万歳を一度叫び、獄中生活を送り、以後の記録はない者達も多いのです。記録は彼女達を忘れても、歴史は彼女達が共に作り出してきたのです。
業務連絡:次回は四月十日(水)午後一時半からです。前日までの雨は止み、快晴で気温も上がって幸いでした。今回からのテキストは「판소리 에스에프 다섯 마당(パンソリSF五話)」というSF小説アンソロジーより一篇、곽재식(カク・ジェシク)「춘향가를 가장 재미있게 듣는 법(春香歌を一番面白く聴く方法)」を読んでいきます。
外勤営業担当員のほとんどがロボットの時代。ロボットのいいところは、いくら歩き回って門前払いを食らっても、倦怠感に陥ることがないからだ。そんな時代でも、古過ぎ、入り組みすぎで整理されず、狭すぎで、インターネットで管理できず、ロボットも入っていけないような街区のある事務所の「私」の所に「イ次長」が急な仕事を持ち込んできます。『公教育からパンソリの代表的な一曲「春香(チュニャン)歌」を外してはならない』というデモがかなり大規模に教育庁前で行われている。何故そんな奇妙な抗議運動が?というテーマで各種メディアに売り込むドキュメンタリー映像を急いで作れというのです。
デモ参加者に取材してみると「没入鑑賞プログラム」で聴く「春香歌」を公教育から外してはならない。某組織がパンソリは非教育的前近代的だからと排除しようとしているのを阻止するんだ、とかいっていますが、陰謀論であてにならないし、そもそもパンソリにこだわる積極的な理由もない、という訳で要領を得ない、しかし、かえって「私」の関心をひいて取材する気になったのです。というところで後半に続きます。ここまでの展開は全くのミスリーディング、作者が読者を煙に巻いています。唯一の伏線「没入鑑賞プログラム」とは何なのか?で後半一気にSF展開と謎解きが進んで行きます。というところで次回へ。
「회랑식 중정(回廊式中庭)」5巻。김연주(キム・ヨンジュ)。大元CI社。4巻の記事はこちら。
モノローグ『存在自体が波紋になる人がいる』『ミソクが始めて来た日、館には明らかに波紋が起きた』
レヒ(若旦那)の紹介で女高普(女子高等普通学校)の「高女生」ミソク(セデク)が館で働くことになった。但し昼間の学校が引けてからのみの通いの使用人だ。他の住み込みの使用人達からすると、金持ちが通うと思っていた女高普に通うだけの稼ぎが半日の通い仕事の給料で得られるのか疑問でもあった。
そして初日からミソクは館のチェヒ、レヒ、セヒそしてユンの気持ちに波風を起こしていく。だが、あくまでメインとなるのはチェヒ、レヒ、セヒとユンを巡るやり取りだ。
一方でセヒを誘いに来たカウォン(チェヒの婚約者)にセヒはチェヒをどう思っているのか尋ねると「彼は私にとって十分に魅力的な男よ。お金持ちで朝鮮人だからそれで充分よ。心配しないでセヒ、私はチョンアのようにはならない」※チョンアとは、チェヒの自殺した夫人のことらしい。
またセヒは誰かのことを回想する。『お嬢さん、私、父さんが学校に行くのを許してくれたの。明日から一緒に学校に行こう』※この女性が誰かわからない。
そこで、また新しい謎場面が。夜、ミソクが自室で「先生」と呼ぶ男と話しているのだが、その男はミソクを「ウギョン」と呼んでいる。※また名前が増えた。そして館での一日のことを話し合っている。そして男「くれぐれも無茶はするなよ」ミソク「もちろんです。私も自分の命は大事です」
ユンはセヒに突然妙なことを言い出す「私が大旦那(チェヒ)様を殺してあげましょうか」「お嬢様は金を用意してくれればいい。オレは朝鮮を離れます。うんざりする朝鮮」そしてモノローグ「一番うんざりするのは自分の人生がいくら考えても自分のものでないってこと」
そして後記の作者の解説を拙訳してみる。
『当時一人で生きる男性や男性同居人集団は、日帝に疑われたり密告を受けやすかったのです。
だから男性独立運動家達は意気投合する女性を求め夫婦を偽装し共に生きる場合が多かったのです。日帝の手配令で外部活動が容易くない男性革命家の代わりになって連絡を担当した、この女性達をアジトキーパーといいます。
世相を考えれば、家事を請け負っていたのですね。
一つ屋根の下で夫婦を偽装してみると当事者が実際に夫婦のような関係に発展することもありました。こうして恋人として夫婦として完成した者達もいた反面、元々円満な家庭を夢見辛い環境だったので、結果的に未婚の母になって独立運動者の記録から消えた女性も多かったのです』
※この後記を読んで振り返ると、ミソクと「先生」の対話場面が意味しているのは、ミソクは独立運動家である「先生」の同志として、親日派富者の館に密偵として潜入したのかもしれない。
「となりのきみのクライシス」濱野京子:作。トミイマサコ:絵。さ・え・ら書房。本書の主題である子供の権利、を考えると私が先ず想起するのは、日頃の持論「昭和に我々が捨てた、あるいは捨てたと思い込んでいた権威が平成・令和を通じて復活してしまったのではないか」「現代社会は若い母親に精神的にも肉体的にも負担をかけることばかりやっている」だ。
それは不況が長引き「貧すれば鈍す」余裕を失った男達が自信を喪失し、縋りついたのが古い「権威」なのではないか。権威をかざす先、権威の行き着く先は弱者=女性と子供ではないのか。
さして長くもない物語、大きな活字の本、何ら読みにくいところない文体でありながら、いつものことながら濱野京子の世界は、一気には読めない、途中で本を伏せ「今」をあるいは「かつての自分」を振り返らざるを得ない。
物語は小学六年生の子供達が次から次へと危険に見舞われる、だが展開は大げさでも不自然でもない、その一人一人の件が、目を背けてはならない、今この時も日常に潜む現実の不安、不穏、危機だ。
「RURE(루어)」38巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。37巻の記事はこちら。本の帯カバーには引き続き「深淵(심연)」とある。
「空虚」がタマルに語る。ハルが望んだことだ。しかし私ではなくタマルが失敗したのだと。
ここからタマルの長い回想に入る。母ヌハランは戦に明け暮れタマルを愛そうとはしなかった。成長した彼は自分の未来視の力を恐れ出奔、傭兵クヤとなる。そしてシン・ハルと出会い愛するようになると、彼女の未来が見えないことに恐怖した。
そして理解した。ヌハランも父カナスもタマルとの未来が見えることに絶望したのだ。
そうなりたくなかったタマルはハルを地球に置き去りにした。だからタマルはハルが追いかけてきた時、自分は間違っていた。そして幸せになれると思ったのだ。
だがそれも北方の大国ワン・ウィライの大神女、シン・ミョンファとの邂逅までだった。大神女はルアーであり、だからルアーの血を引くファイル王家のものに好意的だったのだ。ルアーだと思っていたハルが、そうではないと判って状況は一転した。
そして今「空虚」はタマルに選択を迫る。ハルと共にこの世界「深淵」の礎となるか、ハルをここに残してタマルはファイルに戻るか、と。
だがタマルはハルを生かし、かつファイルに戻る方法を探す決意をし、ハルのかけらと同化し「空虚」の世界に抵抗し続けているのだ。「空虚」は彼と同化が必要であり、タマルは本物のハルを見つけたい。この世界「深淵」は二人(?)の戦場であり敗者は魂を失う。
助力を乞うタマルに軽い嫉妬を覚えつつも、彼を連れ戻しに来たミルは協力を約束した。
ここは全てが「設定」で動いている。設定が少々変わりタマルはハルの恋人ハベクそしてハルはハル、そこにミルが加わった。ハルによれば人物毎に「設定値」に差があり、設定を変えようとすれば妨害を受ける。これを幾度も繰り返してきた。核心地点に近づく程妨害は強くなる、だがハルはミルにまだ全ては明かせない、ここでは「ミルは、貴方が初めてではない」、と謎の言葉を告げる。
一方、ミルが「深淵」に没入する際に現れたミルの精霊(?)「イクサイク」は「深淵」の街の中を少女の姿でさまよっていた。そこでもう一人の「ミル」に出会う。そのミルは傷(?)だらけで記憶を失っていた。
※このイクサイクについては私は記憶がない。あるいは、ハルの幻獣でミルに付きまとっていた奴だったかもしれないよくわからない。
そして、ハル、ミル、ハベクは「深淵」の街の中を旅していく。核心の地であるトンネルに入っていくと、いきなり三人はお互いを見失い、各々不明な場所に立ち尽くす。
というところで、続く。
※この「深淵」篇はSFでいう所のインナースペース(内宇宙)もののようだ。
業務連絡:次回は三月二十七日(水)午後一時半からです。
雨は午後には上がり、寒さも温みました。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。
さて、四度前提を記述します。かつて当会で読んだ、해도연 (ヘ・トヨン)作「위그드라실의 여신들(ユグドラシル=世界樹=の女神達」という、木星の衛星エウロパを中心とした、本格宇宙SF小説が、先頃、当時とは別の出版社から復刊されまして、その際に、書き下ろしで、その前日談、サイドストーリー、後日談の3場面で構成された短編が収録されました。そこで、この作品「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読んでいきます「第五回」です。
三番目のエピソード「待つ者たちの博物館」の続きです。
様々な思い出の人との縁の記憶とその印となる物件を保存した、という奇妙な博物館です。ここでマヤ・ベル・パーネル博士は晩年を過ごしたというのです。地球人が再び宇宙へ旅立つ日を切望しながら。そして博士がこの博物館に残した物件は、正方形の立体でした。
これが前世紀の人工知能(AI)「アーサー」です。よく見ればアーサーは数本のケーブルで外部の何かと接続し、その他の装備を見ると、リリャーナは言いませんでしたが、作動している、つまり遺物の展示ではないことをうかがわせています。その用途は、マヤは、そこに現代の法では禁じられている技術が用いられているのではないか、と気が付くのです。
※SF慣れした読者なら、マヤ・ベル・パーネル博士の遺志で、リリャーナはAI「アーサー」の中で博士を生かせているのではないか、と想起するのです。
リリャーナは、さらに、自分と博士の特有な関係を明かします。リリャーナは、二人の母親から遺伝子操作技術で生まれたのですが、遺伝子の一部に欠陥が発見されました。これを治療するには、宇宙生まれの人間の遺伝子が必要であることが判明しました。博士は当時たった一人生き残っていた、木星の衛星エウロパで生まれた人間だったのです。そこでリリャーナの遺伝子の1.4%の欠陥部分を除去して博士の遺伝子の一部を移植したのです。リリャーナはマヤに展示室を出て食事に行こう、いい店を知っていると誘います。その店の名刺は、大きな木が一本とウルズ、ベルダンディ、スクルドの北欧神話の三女神の絵が描かれていました。
以上で、本編は終了です。次回からは新しい作品をテキストに使います。では、また次回へ。
「RURE(루어)」37巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。36巻の記事はこちら。本の帯カバーには「深淵(심연)」とある。
ミュールゲンは、翅族の村の洞窟に潜み相当な勢力を築き、やがてファイル王国への復帰を狙う。王子としての正統性は、第一王子アサハが認めてくれた。そして現在に至る。アサハはタマル王子もミュールゲンも可愛がっていたので、このような王族内の対立に苦悩していた。
ここでタマルの軍師ヒルデールの回想はいったん終わる。
するとシン・ミルが改めて問う。ミュールゲンは天空城を復活させて何をするつもりか。
※ここで、ミュールゲンの語りが挿入される。
翅族の最盛期とは『大災厄の時代だ。』
『考えてみろ。実験一つで世界の全てを覆してしまった。ルディムナー全体が滅亡一歩手前まで行ったのだぞ。なのに肝心の天空城は無事だった。滅亡を呼べるのに滅亡を乗り越える。こんな大きな力を文明と言えるのか。世界の命運を左右できるなら、もはや神、そのものではないか。』
聞いた瞬間ミルは悟った。ルディムナーと地球、どちらかを選ばねばならぬ。※そう悟った理由はまだ不明。
ミルは魂の戦場という開かずの間に入る。普通の人間なら魂が飛んで行く所。ここを利用して「空虚」とタマルの深層意識に侵入しようというのだ。
ミルは「空虚」とタマルが作り出した世界「深淵」に飛び込んだ。そこは地球でタマルとシン・ハルが暮らす世界だった。だがミルはここでは、見た目のタマルが「空虚」で見た目のハルがタマルであることを見抜いた。だがタマルは自分の中にハルの命のカケラが本当にあると言うのだ。
だが今のハルは自分で命の力を使えない。ハルの命は帰りたいと願った、だが、クヤ(=タマルの昔の仮名、以降ずっとハルはいつもタマルをクヤと呼び続けていた)は自分を地球の故郷の島に残してルディムナーに帰還し、しかもハルの真の正体を秘密にして、さら記憶も奪っていった。ハルの深層心理には、タマルに対して裏切られた感が残り、実体を再生できず目覚めない。
ハルの体を通じて肉体を得た「空虚」は更にハルの体をモデルにルアーの力の如き命の創造、「神体」を作り出した。だが誕生は出来たが維持、はまだ出来ない。「空虚」がタマルに語る。ハルが望んだことだ。しかし私ではなくタマルが失敗したのだと。
※ここで、同時発売の38巻に続く。
※最早、韓国の漫画で、現役連載最長ではないかと思われる、大長編SFファンタジーと言っていい本書はいまだ終わりそうにはない。繰り返すが、内容だけでない、韓国漫画出版マーケットの中で今後どのような位置づけとなるのか、も注目している。
「エルスカル(ELSKAR=엘스카르)」第6巻。우나영(ウ・ナヨン)作。鶴山文化社。第五巻の記事はこちら。「バ・エルスカル・アメジスタ、それが約束の宝石。王冠に装飾された宝石=バエル。約束の宝石は敵に。それを開くキーはこちらにあるのです。勝った方が全てを得るのです」。
※訳訂正、ドロイ伯爵と訳していたが以降、公爵に訂正。ノクシド公爵は侯爵に訂正。
国王の王冠の宝石バエルに激しく動揺したビオラ。これをきっかけに国王や国王支持派のノクシド侯爵の関心を引きつけるが、ビオラ自身もランゲ族の求心点となる決意をし、ランゲ族の人々に呼びかける「私を守るのではなく、私と共に戦って下さい」と。
これを受けて各地に散らばり潜むランゲ族は連絡を取りビオラを中心として団結して活動を図る。中でも有能な女性リーダー、マハの協力を得た。そしてビオラの提案に従ってドロイ公爵にランゲ族の総意として協力を要請する。
だがノクシド侯爵も宮中でビオラの拉致を強行し始める。その度に助けてくれるのは第二王子だった。同時にランゲ族狩りも強化し、ランゲ族の死者も増える中で狩人のリーダーがエルスカルを食べて超人的な戦闘力を発揮していることが判明した。※またこのリーダーの名はハフロン、そしてノクシド侯爵の息子だった。
第二王子の行動が露見し、王命により紛争地帯に派遣されることになった。これが最期と覚悟した王子は密かにビオラを呼び出す。という所で続く。
業務連絡:次回は三月六日(水)午後一時半からです。
昨日は突然の暑さ、本日は一気に冷え込みましたが、それでも雨で意外にも蒸し蒸ししています。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。
さて、三度前提を記述します。かつて当会で読んだ、해도연 (ヘ・トヨン)作「위그드라실의 여신들(ユグドラシル=世界樹=の女神達」という、木星の衛星エウロパを中心とした、本格宇宙SF小説が、先頃、当時とは別の出版社から復刊されまして、その際に、書き下ろしで、その前日談、サイドストーリー、後日談の3場面で構成された短編が収録されました。そこで、この作品「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読んでいきます「第四回」です。
二番目のエピソード「最後の文章」のクライマックスです。
想像を超えた知性と電磁気的制御技術があり、それも未知の異星生物とコミュニケーションをする意思伝達能力までも備えていクモ虫。キラキラと光りながらクモ虫が八本の触手を潜水艇にのばしてきた時、エウロパに4回目の稲妻が落ちました。するとスミは、意識がクモ虫と同化したように、エウロパの海全体に広がるのを感じました。意識が戻ると、スミは、この驚異の体験をセシリア、マヤと共有できないことを残念に思いつつ、二人の無事と地球への帰還を祈りながら、最後のメッセージを残します。「セシリア、マヤ。最後が来た。ここで待っている。」
三番目のエピソード「待つ者たちの博物館」に入ります。
地球が宇宙から飛来したウイルスで絶滅しかかり、マヤが地球に帰還し、この危機を脱した後の遠い未来、地球人が宇宙への志向が減退した時代。
地球を救った英雄、マヤ・ベル・パーネル博士の足跡を調べる学生、マヤは、21世紀地球の文化を保存する広場に、「待つ者たちの博物館長」リリャーナ・イワンコビッチを訪ねます。
ここは、様々な思い出の人との縁の記憶とその印となる物件を保存した、という奇妙な博物館です。ここでマヤ・ベル・パーネル博士は晩年を過ごしたというのです。地球人が再び宇宙へ旅立つ日を切望しながら。そして博士がこの博物館に残した物件は、正方形の立体でした。
※SFには「2001年宇宙の旅」のモノリスを想起させるシーンです。では、また次回へ。
「エルスカル(ELSKAR=엘스카르)」第五巻。우나영(ウ・ナヨン)作。鶴山文化社。第四巻の記事はこちら。
「バ・エルスカル・アメジスタ、それが約束の宝石。王冠に装飾された宝石=バエル。約束の宝石は敵に。それを開くキーはこちらにあるのです。勝った方が全てを得るのです」。
毒矢を受けて昏睡中のドロイ伯公爵。ランゲ族の隠れ家に身を潜めるビオラ。次々と傷つく周囲の人々に自分の無力さを苦悩するビオラ。
ビオラは仲間達と襲撃を受けたランゲ族の村を探索中に、大人達が殺された子供のランゲ族だけの隠れ家に出くわした。そこでランゲ族を狩る狩人達の襲撃を受けるが、とっさの機転で、崖から身を投げ、重傷を負うが子供達は狩人に見つからずに済んだ。
今度はドロイ伯公爵が目覚め、入れ替わるように重症のビオラが発見される。昏睡するビオラは王冠とその宝石バエルを幻視する。目覚めて傷が癒えたビオラはこの幻視の意味を探るべく、皇族へのつてを求め、第二王子に謁見する。彼はやはりカフスボタンを投げた男だった。
一方ドロイ伯公爵は国王夫妻と謁見し、王女との婚姻をしきりに求められるが、これを辞退。※ドロイ伯公爵は現国王に敵対する立場。
その代わりにドロイ伯公爵は王への忠誠の証しとして同家が採掘、皇室に献上しているしている魔石の増量を申し出た。※この魔石についてはまだ詳述されていない。
野心に燃える王女は、ドロイ伯公爵への愛でも単なる降嫁でもなく、統治者としての器量を持つドロイを必要な駒として欲していたので、ランゲ族の生み出す宝石エルスカルの呪力で表向きドロイ伯公爵の婚約者となっているビオラを暗殺しようとするが失敗した。ランゲ族の宝石の力でも自らの思い通りにならなかった王女は侍女と共に屋敷に火をつけ自死した。
王宮での王女の葬儀にドロイ伯公爵と共に参列したビオラは国王が被る王冠の宝石=バエルに激しく動揺した「バエルが私を呼んでいる」と。
というところで、同時発売の六巻に続く。
業務連絡:次回は二月二十一日(水)午後一時半からです。
昨日まで都心の雪と寒さが危惧されましたが今日は晴れて気温が上がりました。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。
さて、再度前提を記述します。かつて当会で読んだ、해도연 (ヘ・トヨン)作「위그드라실의 여신들(ユグドラシル=世界樹=の女神達」という、木星の衛星エウロパを中心とした、本格宇宙SF小説が、先頃、当時とは別の出版社から復刊されまして、その際に、書き下ろしで、その前日談、サイドストーリー、後日談の3場面で構成された短編が収録されました。そこで、この作品「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読んでいきます「第三回」です。
二番目のエピソード「最後の文章」の続きです。
探査艇が受けたエウロパの稲妻で、基地から探査艇へのリモートコントロール通信が断絶しました。しかも、この通信はスミの本体は基地にいても、意識は探査艇のAIと神経系で接続してリモートコントロールをしているので、スミの体は基地に、意識は探査艇にある、という複雑な状況です。
スミはこれまでの記憶を思い出し、自分が本体のコピーではなく、意識は本体と接続していることを確認します。そして潜水艇を起動し基地へ向かいます。ここで奇妙な事態が発生します。推進力に比べて速度が速く、深海から水面へ、基地へと予想以上に早く近付きました。
潜水艇を「クモ虫」の群れが取り囲み潜水艇の速度を上げて、エウロパの海の海流に乗るように誘導し、潜水艇を包む氷が摩擦熱で溶けだすと補修もしてくれているのです。クモ虫には、想像を超えた知性と電磁気的制御技術があったのです。それも未知の異星生物とコミュニケーションをする意思伝達能力までも備えていたのです。
※今回、原書の誤植と思われる個所が見つかりました。197頁四行目から五行目にかけて名前が「スミ」でなければならない所が「マヤ」になっていたのです。
という所で、このエピソードのクライマックスを迎えるところで続きます。
「대답하세요! 프라임 미니스터(お答えください!プライムミニスター=総理)」12巻。임주연(イム・チュヨン)。大元CI。11巻の記事はこちら。「去年」出た最新刊。
※レビューを長いことサボっていたので、今回も繰り返し前の記事を再掲しておくが、何が「今の日本人にお薦め」か?今の醜悪と無関心、倦怠感に満ち、知性の劣化した日本政治の現実と違って、この漫画の政局ドラマは理知的でリアルながら熱い、LGBTを初めとしたポリティカルコレクトも理想的に描かれ、しかも愛憎のドラマも美しく、全てが活気に満ちている。
※これも「再掲」するが秘書マリーズ・リューと記述していたが、英字綴りが明確になったら、Melice・Ryuだったのでメリス・リューの方が適切か?ご批判ご意見歓迎します。
※トーマスのスタッフで、いつもトーマスの隣にいて、黒人でドレッドヘアスタイルの男性。正式な役職は秘書なのか、正確な名前も分からなかったが愛称が「エド」。この人が演劇の俳優出身、エド・ハリス補佐官、と分かった。
※前首相ヘレンの秘書で、ノエルに請われてスタッフに招聘された女性を「ベアトリス」と表記していたが「ベアトリクス」だった。以後そのように訂正します。
前巻からの引きは休暇中のベアトリクスが密かに何か動いている件、以前ノエルと共和党次期党首争いを棄権して政治から退いた候補が東欧で死んで埋葬されていた筈が、実はそうではなく、しかも行方不明であることを突きとめた。一体そこまでさせるようなどんな秘密を、ヘレン前総理は、ノエルに託しているのか?
共和党、労働党の全党大会が相次いで開催される。ここで解説が入るが英国の全党大会は党員のお祭り騒ぎと党綱領作成の討議、発表、支援団体との会議など硬軟一体の大規模なものだそうだ。
労働党全党大会でトーマスがどんな演説をするのか気になってノエルはお忍びで会場に赴いたのだが、若い労働党員達に簡単に見つかり一曲歌うように勧められるままに、「アメイジンググレイス」を披露する。これが極めてカリスマ的な歌声で会場を魅了してしまう。だがこれに負けることなくトーマスも得意の演説で会場を魅了する。その夜は、トーマスはノエルを連れ出し「私(トーマス)も君(ノエル)が天使に見えてしまった。明日はまた私達はライバル同士。君を独占するのは難しい」と心情を吐露するのだった。
そしてまた、後日激しく愛し合う二人だが、トーマスは抜かりなく、この間に、労働党が政府が提出した改正年金法案に反対する票固めを行っていたことが発覚。急遽、共和党も動員して、議決で法案は通したが、怒るノエルは当面、トーマスと距離を置くと宣言したが、さて?
一方、エド・ハリス補佐官からリューを通じてトーマスの母、ジャーナリスト故エリン・カーディナルの写真展のチケットが手に入る。トーマスは母の業績とは距離を置いているので、観に行かないが、トーマスが恋しいノエルはこれを口実に、と参観する。
そこでノエルは一枚の写真に瓦礫の中でピアノを弾く母を見たのだった。というところで続く。
※サブエピソードとしてはエド・ハリスがリューに気があるようなんだがリューは全く気付いていない。そして彼女はeゲームが好きであることが分かった。
業務連絡:次回は二月七日(水)午後一時半からです。
寒くなりました。というより今までが暖冬だったのですね。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。今年もよろしくお願いします。
さて、間が空きましたので再度前提を説明します。かつて当会で読んだ、해도연 (ヘ・トヨン)作「위그드라실의 여신들(ユグドラシル=世界樹=の女神達」という、木星の衛星エウロパを中心とした、本格宇宙SF小説が、先頃、当時とは別の出版社から復刊されまして、その際に、書き下ろしで、その前日談、サイドストーリー、後日談の3場面で構成された短編が収録されました。そこで、この作品「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読んでいきます「第二回」です。 あかね書房の、濱野京子:作、森川泉:絵、から成る一連の本は、これでもう五冊目らしい。いずれも「本」を主題とした物語だったが、さらに今回は過去作「わたしたちの物語のつづき」の続きの話となっている。同作が「創作」を巡る話だったのに対し、今回は「本」そのものの仕組みの物語だ。
作者にしては珍しく、小説ではなく、図鑑読みが好きな主人公。ネットではなく本で「調べる」行為から、小学校の図書室にかつての小学生が自分で作った創作の「本」の存在を知り(※これが前作の中の「本」)、「本そのものを自主制作」する課程に興味を覚え、その本を作った人々に「直に」会い、本を作るのは独りではできない行為であることを意識する。
そして「本」にとどまらず、主人公とその友達、家族さえも、一人ではできないことを他者と協力、嗜好の異なる他者とは共感が必要であることを認識し始めるのだ。
作者らしく、インターネットで検索する行為に対する皮肉も見せながら、「一冊の本」から始まる探求心が、生身の人間同士の「ネットワーク」を紡ぎだしていく姿を気持ちよく描いていく。
※私自身、久しく忘れていた、子供の頃、図鑑で様々な「仕組み」を知ることにワクワクしていた感覚を思い出すことができた。
業務連絡:次回は来年一月十日(水)は新年の食事会とし、教室は一月二十四日(水)からの予定です。
さて、今回から読んでいくテキストは、少々前提を説明しますが、かつて当会で読んだ、해도연 (ヘ・トヨン)作「위그드라실의 여신들(ユグドラシル=世界樹=の女神達」という、木星の衛星エウロパを中心とした、本格宇宙SF小説が、先頃、当時とは別の出版社から復刊されまして、その際に、書き下ろしで、その前日談、サイドストーリー、後日談の3場面で構成された短編が収録されました。そこで、この作品「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読んでいきます。
先ず、「カフェ レッドリース」の場面。暴雨の夜、閉店間際のカフェ「レッドリース」。店長はラタという男。従業員はスーという女子。そこにセスという女がやってきました。実はラタとセスは古なじみ。かつては二人共冒険家で世界中を危険を省みず探検して回っていました。しかしセスは突然、ラタに別れも告げず宇宙探査へと活動の場を広げ、ラタは独り引退したのです。
この場面のポイントは、ラタとセスの対話をいかにカッコよく訳すか、です。ラタは悪態をつきながらも、長い宇宙生活で身体能力が衰えているセスを案じていますが、セスは、地球上の重力には耐えにくくなったが、宇宙なら大丈夫だと受け流します。
というところで、まだ物語は始まったばかりですが、続きは来月、来年から本格的に進めていきましょう。では、よいお年をお迎えください。
業務連絡:次回は十二月十三日(水)、次々回以降については次回改めて相談したいと思います。
早くも年末年始のことを考える時ですが、いまだ何が起こるか分からないご時世です。
さて、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
趣向を変えました四回目、引き続き、韓国の現代SF作家、황모과(ファン・モガ)が今年八月に出した新刊長編SF小説「말 없는 자들의 목소리(言葉なき者たちの声」の初回発売特典付録の小冊子、作者ファン・モガの取材記録「관동대학살 100년의 비극 지워진 목소리를 찾는 여정(関東大虐殺100年の悲劇 消された声を探す旅)」を読んでいきます最終回。
今年丁度百年前となった関東大震災の朝鮮人虐殺事件に材を取ったSF小説その取材記録。参考文献と註釈、付記、推薦の言葉等を読んで締めました。
ファン・モガは、実に様々な文献を参照しただけではありません。関東大震災の朝鮮人虐殺について調査している人々に直接出会い、話を聴き、物語の肉付けには漫画も。
西崎雅夫、水平社のついてのHP、明治学院大学のチョン・ヨンファン、シン・ホンシク、絹田幸恵、行政資料「荒川放水路変遷日誌」、平田弘史「薩摩義士伝」、白土三平「カムイ外伝」より「犬追物」、「1923を記憶する行動」、「高麗博物館」朝鮮女性史研究会、歴史学者山田昭次、「朝鮮女性史研究会」ヤン・ユハ、部落解放同盟、荒川追悼会「鳳仙花」シン・ミンジャ、etc.また最後に横浜に関する情報は最近になって発見されつつあるので今後、被害者情報が大きく変わり得る、という事に言及して終わります。
最後に、韓国の映画監督と作家の本書推薦の言葉が収録されて、全文終了しました。
次回からは、以前に本格宇宙SF「ユグドラシルの女神達」を読んだ、韓国のSF作家ヘ・トヨンの最新短編SFを読んでいきます。
業務連絡:次回は十一月二十九日(水)、次々回は十二月十三日(水)開催を予定しています。
短い秋でした。いきなり寒くなりました。
さて、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
趣向を変えました三回目、引き続き、韓国の現代SF作家、황모과(ファン・モガ)が今年八月に出した新刊長編SF小説「말 없는 자들의 목소리(言葉なき者たちの声」の初回発売特典付録の小冊子、作者ファン・モガの取材記録「관동대학살 100년의 비극 지워진 목소리를 찾는 여정(関東大虐殺100年の悲劇 消された声を探す旅)」を読んでいきます。
今年丁度百年前となった関東大震災の朝鮮人虐殺事件に材を取ったSF小説その取材記録。いよいよファン・モガの厳しい指摘が現れます。
在日朝鮮人と同様に国民という範疇のさらに下に置かれた部落民について、部落解放運動活動家たちにもファン・モガは紹介されます。そして、作中に、当時、堂々と自らの自由と権利を求める声を上げた人々を実名で描くことにするのです。
さらに、踏査の結果にファン・モガは、公式調査記録や世間の通説にも疑問を呈していきます。大震災下の愚かな大衆、という解釈で本当にいいのか。流言蜚語が流布する前から、差別と暴力は激化している、以前から植民地労働者に職場を奪われるという危惧が広がっていた。流言蜚語を止めて正確な情報を流すよりも政府は、大衆の暴動を利用して、革命防止策を思いついたのではないか。つまり「官民共犯虐殺責任」ではないのか。
ファン・モガは、集計死亡者数にも疑問を呈します。収容所に移送された朝鮮人はどうなったのか、1923年9月8日横浜で準備された「華山丸」に乗船した朝鮮人は何処へ行ったのか。
さらに今年の夏に実写映画が公開され話題にもなった「福田村事件」にも言及します。事件後の法廷から、相手が朝鮮人と誤解したのなら殺してしまっても容認され減刑される気運があったことを批判します。
そしてファン・モガは、朝鮮の白丁差別撤廃運動である衡平運動と日本の部落民差別撤廃運動である水平運動が両国で相次いで勃発したことに注目します。日本政府は、両国の階級差別撤廃運動を革命運動の気運とみなし、その防止に、関東大震災下の暴動を容認し、利用したのではないかと、問題提起をします。
最後に協力してくれた人々に謝意を表し、小説に対する抱負を記述して、本文は終わりました。次回は、参考文献と註釈、付記、推薦の言葉等を読んで締めたいと思います。
業務連絡:次回は十一月一五日(水)、次々回は十一月二十九日(水)開催を予定しています。
ようやく秋らしい季節、となったと思ったら日中はまた暑くなりました。。
さて、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
前回から趣向を変えました二回目、引き続き、韓国の現代SF作家、황모과(ファン・モガ)が今年八月に出した新刊長編SF小説「말 없는 자들의 목소리(言葉なき者たちの声」の初回発売特典付録の小冊子、作者ファン・モガの取材記録「관동대학살 100년의 비극 지워진 목소리를 찾는 여정(関東大虐殺100年の悲劇 消された声を探す旅)」を読んでいきます。
再記しますが、この小説は、今年丁度百年前となった関東大震災の朝鮮人虐殺事件に材を取ったSF小説であり、その取材記録ですので、続いてファン・モガは、執筆方針として、残酷な暴行、したい描写はしない、その代わり、公式記録からは見えてこない事実を追った取材を続けていきます。取材を始めると、次から次へと人の縁は広がり、彼らは、進んで取材に協力、資料の提供、インタビューの機会を作ってくれます。知る人ぞ知る、「9月、東京の路上で」の著者、ルポライターの加藤直樹さんに紹介されると、加藤さんは、詳細不明な、朝鮮人と日本人の二人の名が刻まれた墓の事を教えてくれます。ファン・モガは加藤さんの勧めで、この謎の二人の物語を作りました。さらに、部落解放同盟の活動家たちにも取材し、ある部落の皮革工場を経営していた女性が、朝鮮人の母と子を助けてくれた事実を聴かされます。
ファン・モガは、この女性の物語も肉付けしました。
ファン・モガの公式記録資料に対する疑念も強まっていきます。殺された人の姿、目撃の証言記録はあるが、生きていた時の朝鮮人の証言が記録されていない。抗った人、生きのびた人の声は何処に消えたのか、政府の記録の恣意的な編集を感じざるを得なくなります。
業務連絡:次回は十一月一日(水)、次々回は十一月十五日(水)開催を予定しています。
ようやく秋らしい季節感となりました。
さて、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回から趣向を変えまして、韓国の現代SF作家、황모과(ファン・モガ)が今年八月に出した新刊長編SF小説「말 없는 자들의 목소리(言葉なき者たちの声」の初回発売特典付録の小冊子、作者ファン・モガの取材記録「관동대학살 100년의 비극 지워진 목소리를 찾는 여정(関東大虐殺100年の悲劇 消された声を探す旅)」を読んでいきます。
この小説は、今年丁度百年前となった関東大震災の朝鮮人虐殺事件に材を取ったSF小説です。その取材記録ですので、始まりは千葉県で行われた同事件犠牲者の追悼式にファン・モガが参加したことから始まります。そこで出会った日本人及び在日朝鮮人の活動家たちから、日本政府の公式発表や宣伝物からは読めない、証言記録を聴き始めます。
業務連絡:次回は十月十八日(水)、次々回は十一月一日(水)開催を予定しています。
いきなり涼しくなりました。この国の春と秋はこうして短くなっていくのでしょうか。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の四度目の第五弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」第二号の特集「Time travel with you」から、해도연(ヘ・トヨン)作「라일락 햇빛(ライラックの陽射し)」を読みました。
今回のポイントは「ロマンチックSF」作者、ヘ・トヨンはかつて、当会でテキストとして用いた本格宇宙SF「ユグドラシルの女神達(위그드라실의 여신들」の作者です。※私的にはこの「ユグドラシルの女神達」こそマイ・ベスト・コリアSFです。
夏の初めの早朝、喫茶店の窓辺で、うちひしがれているミハの前に突然、昔の恋人が現れます。ミハの動揺に比べて余裕の笑みを浮かべる男。どうしてミハがここにいることが分かって、突然ここに現れ、ミハの今の仕事のことまで知っているのか、男に問いかけても、男は曖昧にしか答えません。
動揺を抑えきれずその場を立ち去ろうとするミハ、引き留める男。
あの時、あなたがいてくれて本当にありがとう、けれどあの時、あなたが私といなかったら、あなたは、あんなことにはならなかった・・・。
男にはミハが何を言おうとしているのかついていけません。ミハは、二時間後にもう一度会いましょう、その時は久し振りに初めてあったみたいに応じて、それまでに身なりも直してくるから、と男に約束させます。
再会場所でミハを待つ男は、ミハが置き忘れた財布の中に一枚の古ぼけた写真を見つけます。写真の中のミハは今と変わりない、けれど男の方は今の自分より年を取っているように見えます。やがて身なりを整えたミハが現れ、今度は男の名を呼びます。
※さて、あいまいな終わり方でしたが、おわかりでしょうか。おそらく、男は過去からタイムスリップしてきたのです。男とミハが過去に別れたことはうかがえますが、一体何があったのか、最悪の場合は、男は死んでしまったのかもしれません。
業務連絡:次回は十月四日(水)、次々回は十月十八日(水)開催を予定しています。
韓国の秋夕(チュソク)も来週後半にと近づいております。今日の都心は曇っていたのでそれだけでも幾分楽でした。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の四度目の第四弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」第二号の特集「Time travel with you」から、김청귤(キム・チョンギュル)作「시간여행 사우나(タイムトラベルサウナ)」を読みました。
今回のポイントは「こんなSFもある」難しく考えない、重い風刺はない、こういう軽い作品もある、ということです。
採用面接に落ちた女性「私」は失意で、こんな時は熱い湯にゆっくり浸かりたい、でもシャワーしかない生活では無理、と嘆きながらの帰途、突然「時間旅行サウナ」というチラシを受けとります。入浴料金格安、一人用風呂なので安心、伝染病流行以前の銭湯なので安全です、という何か妙な宣伝文句につられて、銭湯の入り口をくぐると、中は、なんだか自分の子供の頃の銭湯の様。垢すり師のオバさんに促されて入浴し、垢すり、マッサージまでサービスされると、すっかりいい気持ちですが、「時間旅行」とは何のこと、と問えば、ここは本当に昔の銭湯にタイムトラベルしているのです、と。
時間旅行技術をなんでこんなことに使っているのか、と垢すりのオバさんに問えば、過去を変えようとしたら、今の自分の世界にどんな影響を与えるか、危険があるし、未来を観ても、戻ってきたら、また未来が変わるかもしれなくて行って来ても意味がない、「私」がこの銭湯の入浴客に「選ばれた」のは、単なる運だった、と。
※つまり、銭湯に入るだけなら本人が癒されるだけで、他に何の影響もない、世界の役に立たないから時間旅行技術が使える、という逆説です。
入浴を終えてバナナミルクを飲んで、外に出て振り返れば、時間旅行サウナはもう消えていました。またどこかで銭湯の癒しを必要としている人の前に現れるのでしょう。
業務連絡:次回は九月二十日(水)、次々回は十月四日(水)開催を予定しています。
午後から雨の予報もあったんですがなかなか降ってきません。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の四度目の第三弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」第二号の特集「Time travel with you」から、정지돈(チョン・チドン)作「시간여행 살인자(タイムトラベルキラー)」を読みました。
今回のポイントは「疑似科学、疑似思想を訳す」ということです。
SF、ことにタイムトラベルものに関しては、非科学的な理屈をもっともらしくこじつけてタイムトラベルが可能な状況を描き出してしまうのです。その場合、訳者はどこまでももっとらしく真面目に訳すか、ふざけた訳文にするか、その匙加減が腕の見せ所となります。
有名SF作家、ペンネームを人気アニメ「ドラえもん」の主人公「野比のび太」にちなんで「のび太」が、ある科学者を殺して失踪する事件が起きました。
2038年二月、フランスはジュネーブの小都市フェルネ=ボルテールで「のび太」は科学者ジェフ・リーマン博士を殺害しました。
彼の自叙伝による数奇な運命はしかし、確認はできず、彼を有名にしたSF著作を支える理論「チョルマクテイズム」なる理論、これも彼によれば宇宙の精神から伝授されたと主張するものです。
※以下、彼の時空にかんする理論が展開されるのですが、何だかさっぱり分からないのです。
クレープケーキのように重ね合わされた時空連続体が、相互干渉をしあって、その結果タイムトラベルも可能になる、とか何とか。※SFで言うところの「並行宇宙とか並行世界」みたいなものらしいです、と言えば、なんとなくわかるでしょうか。いずれにしろ、真に受けてはいけません。
しかし、「のび太」の小説の成功は、このチョルマクテイズムではなく、小説を構成する魅力的な文章表現の数々です。
※ここで、また、以下その小説の特色の数々が延々と形容されるのですが、そんな小説が存在したらノーベル文学賞だ、と思うような賛辞の数々です。
科学者ジェフ・リーマン博士は、タイムトラベル不可能の証明を発見したというのですが、「のび太」は、リーマン博士を殺害するとともにその研究データも削除して本人も彼の小説とメモを残して失踪したのです。
その小説は、この殺人事件とそっくりの内容であり、メモは「のび太」の理論の正しいが故に、間違いを認めたリーマン博士は、同意のもとに殺された、というものでした。
しかし、これは疑問です、「のび太」の理論が正しいのなら、博士を殺す理由など有りません。その答えを、研究者ジェーン・トーは、タイムトラベル不可能の有名な例え「親殺しのパラドックス」を引用して説明します。選択の問題、ではない。矛盾しようがしまいが「そうなる」と定められていたからだ。
※分かったような分からないようなオチでしたが、SFには過去を改変しようとしても結局その行動も歴史に織り込み済みであったという話がよく有ります。余談ですが、過去のアメリカSF作家には、疑似科学理論・思想をSF小説だけではなく、新思想・新興宗教みたいなことに利用して教祖に収まって作家以上に大儲けした人もおりました。
業務連絡:次回は九月六日(水)、次々回は九月二十日(水)開催を予定しています。
この間、私も遂に熱中症を経験しました。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の四度目の第二弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」第二号の特集「Time travel with you」から、연여름(ヨン・ヨルム)作「솔티 브라운 캐러멜(ソルティブラウンキャラメル)」を読みました。
今回のポイントは「こういうSFもある」ということです。
先祖代々、一生に一度、タイムスリップしてくる「時間の迷子」に遭遇する運命を有し、元の時空間に戻る48時間後迄保護する「案内者」という役割を密かに担っている、私の前に現れた時間の迷子は、自分の会社の直属の上司、オン・ネモ課長の七歳の子供の時でした。
というわけで、週末の土日と月曜日の午前中迄、「小さな先輩」の面倒をみることなった私でしたが、説明されたネモ少年は、なんだか元の時空に帰還したくない様子でした。
その理由は、彼の体を調べた時に見当がつきました。少年の体のあちこちにまだ新しい青あざがついていて、どうやら虐待を受けているようです。
とにかく私は、彼の体をきれいにして、服を色々買って着替えさせます。公園に連れて行って砂遊びをさせ、甘いものをたくさん買ってやり、服は汚しても構わない、と言ってやれば喜び、新商品「ソルティブラウンキャラメル」を食べれば、甘味としょっぱい味が交互にするといって喜んでいました。いつの間にか私も一緒に笑っていました。
月曜日、遂に小さな先輩の帰還、私との別れの時間です。彼がこれから迎えるしょっぱい人生に、この二日間の記憶が甘い記憶となって励ましとなるように願って、私は小さな先輩と別れます。
今の上司のネモ課長が待つ、仕事場へと戻る私。課長はすっかり忘れてしまっているのでしょうか。
※SFには難しいテーマや厳しい風刺ばかりではありません、こういうユーモアやロマンチックな小品もあるという例です。特にタイムトラベルテーマのSFには非科学的な分、ロマンチックな作品が多いのです。
そういうタイムトラベルSFのおそらく世界一有名なSF映画が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズです。
例によって私にとっては「共感の作家」濱野京子の2023年上半期の最新刊。いつも濱野京子の小説を読み出すと自分に照らし合わせて考えだし、頁を繰る手を止めてしまうが、本作では特にその時間が多かった気がする。それもその筈「環境保護活動」がテーマ、まさに自分の一番痛い所を衝いてきた。共感のみならず、ダイレクトにストレートに賛否両論、胸に打ち込んでくる思いだ。
さらに物語は、主人公陽葵(ひなた)が出会う水沢の描写が始まると、これは「グレタ・トゥーンベリー」さんに触発されたドラマだな、と見当をつけた。そして、半分まで読み進むと案の定、グレタさんに言及し始めた。
さて、内容についての共感ポイントを羅列していくと、私はグレタさんのあの怒りの表情が眩しい。
私は左利きなので、登場する陽葵の新しい友達の、その不満、不便はよく分かる。だが、私の左利き体験ならもっと面白いエピソードができる(←上から目線)。※例えば、以前ミステリ作家、森博嗣の作品の中の左利き描写を読んだことがある。左利きでのパソコン操作だったが、これも私自身の方がもっと面白い、私は左手でキーボードを操作しつつ、右手でマウスを操作するのだ。
なぜ、切迫した地球温暖化の事態に人々は行動しようとしないのか、これは私の考えでは、本作とは一寸異なる。一口で言うと人間の寿命はあまりに短いから。刹那的なとすらいえる。
国内の自然災害についても私の意見はやはり本作とは異なる。地方自治体の財政はすっかり疲弊させられ、公共地域の補修工事を賄えない。整備不良な土地が自然の猛威にさらされ、あっけなく崩壊しているのだ。つまり天災ではなく人災だ。
私は、二十余年ガラス瓶製造業界にいたので、その間自分ではペットボトルをほとんど買っていない(本当の話)。親戚にはガラス瓶利用を呼びかけ、家族がペットボトルを買ってくると「また私を失業させる気か」と叱りつけた。※しかし、私がリタイアする数年前から顧客企業の要請でペットボトルの生産を始めた。今頃はその比重がもっと増えているだろう。
私は不幸続きで独りになってからは冷蔵庫の電源を抜いたまま。つまり利用していない。
私は、地盤の不安定な日本列島では原発の維持はもはや不可能、原子力そのものは否定しないが、国内ではエネルギー資源自給は不可能。費用が掛かっても輸入しかない。COPの日本批判は存じているが、原子力利用を促進してくるのは、どうも納得できない。
以上のように一節ごとに作中と議論している気分だった。長編としては短めでシンプルな作品だが思いは尽きない。
※表紙カバーを外すと本体の表紙に裏表とも登場人物の絵が勢ぞろいしている。
業務連絡:次回は八月二十三日(水)、次々回は九月六日(水)開催を予定しています。
都心は昼からのにわか雨で、その後曇りましたので、何とか息がつけました。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の四度目の第一弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」ですが、6号が未だ刊行されていません。そこで、前に戻りまして第二号の特集「Time travel with you」から、이서영(イ・ソヨン)作「나는 우주의 환타지(私は宇宙のファンタジー)」を読みました。
今回のポイントは「大宇宙の孤独、哀愁、ロマン」です。
光速に近い速度で地球を遠く離れた宇宙探査機に乗り込んでいる夫婦二人。相対論的効果によって、はるか遠くの地球はとっくに滅んでいるかもしれない。大宇宙に二人だけの旅で、金色の触手型の異星生命体に遭遇しました。冒険心に富む、妻ポヨンは果敢に船外作業に飛び出しましたが、触手からの攻撃か、何かの衝撃に、怯えた機体内の夫「私」は思わず、機体を加速してしまいました。
宇宙服を着ていても船外のポヨンには、この加速の与える重圧は耐えられるものではありません。間違いなくポヨンは死んでいます。
打ちひしがれた「私」は、ポヨンを船内回収も行わないまま、ポヨンが好んだ、往年のロックミュージシャンの「宇宙」をテーマにした名曲の数々を回想します。機内にもポヨンが好んだロックがやかましく流れています。
「私」は、直面している孤独に絶叫します。しかし、ポヨンの脳天気な言葉が思い出されます「今日こそは、知的生命体に出会えるかもしれない」、すでに対話は出来なかったが私達は異星人に遭遇した。少なくとも私は宇宙に残ったたった一人の知的生命体ではないという事だ。
「私」はポヨンも好んでいたイ・パクサと明和電機のコラボ曲「私は宇宙のファンタジー」を流します。ポヨンの遺体を回収し始めます。
ポヨン、私も本当に知的生命体に会えそうな気がしてきた。ポヨンの葬式をしてくれる異星人もいるだろう、葬儀場に音波を伝える空気があればこの歌を流してもらおう。
その時まで、私とポヨン二人だけの旅であることに変わりはないのだ。
※二人だけの旅は続く。そう思わなければこの後やっていけない、その気持ちは共感できると思います。
※本編にはデビッドボウイ、ディープパープル、ローリングストーンズという世界的実在ミュージシャンとそのハングル表記、曲名は英語表記で現れます。日本とは人名発音が違います。
BLで買っといたのを、今頃になってやっと観たから、私自身は三十四年振りということか。思い出としては、私は新宿の今は無きミラノ座で観た。あのデカい劇場がガラ空きだった。安彦良和らしいあくの強い、泥臭い原作漫画を、笹本祐一の脚本、横山宏、神村幸子らのデザインで洗練された作品に仕上がっている。
業務連絡:次回は八月九日(水)、次々回は八月二十三日(水)開催を予定しています。
この世界的暑さ。今日という今日は、この都心で私ももうダメか、と思いましたが、なんとか生き残りました。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の三度目の第五弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の、今年一月に発行された5号「I will be BACK」特集から、김현중(キム・ヒョンジュン)作「아들과의 약속(息子との約束)」を読みました。
今回のテーマは「ゾンビもの」でございます。
救急車の隊員である「私」が交通事故から目覚めた時、自分は重体で、徐々に思い出してきたことは、世界は「ゾンビ」に覆い尽くされて、人間は逃げまどっていました。
私は妻が亡くなってから一人で育ててきた息子のミンウと「必ず戻ってくる」「最後まで待っている」と約束したことを思いだし、ミンウの元へ帰るべくモルヒネとアトロピンで痛みをこらえながら一人で歩き始めます。
行く先々で遭遇するゾンビは、進化をし始めたのか、マスクをかぶり、槍や棍棒を振って人間を叩き潰しています。その恐ろしい攻撃を避けながら一週間、歩き続けた私は自分と息子の家である団地の棟にたどり着きました。
そこでは、息子が約束した通り、父親を待っていました。ところが私に気付いたミンウは近くの人々に、私を指さして叫びます「あっちにゾンビがいる!」
人々は棍棒を振って私を攻撃してきました。そこで私は気付きました。私は既にゾンビであることに。食べず、薬もなしでここまで歩いてくる人間がいるか。ゾンビだと思っていた人間の被っていたマスクは防毒マスクであることに。ゾンビを完膚なきまでに叩き殺す、そんな無慈悲なことができるのは、人間しかいないことを。
私は人間に攻撃されながらも安堵します。人間がゾンビに反撃している事実に。人々に安全なところに連れられていくミンウを見て安堵してつぶやきます。「ミンウや、父さんも、約束を守ったよ」
※ゾンビもののホラー映画ではゾンビそのものの恐ろしさより、追いつめられる人間同士の葛藤、絆、愛が試されること、ゾンビとは大量消費社会の人間の風刺であること等がお約束です。
このストーリーではそのお約束を踏襲しつつ、最後にひっくり返しました。小説ならではの叙述方法「信用できない語り手」で、私は既にゾンビになっていたこと、ゾンビだと思っていた相手こそ人間だったこと、そして人間が一番恐ろしい存在である、と結論して締められたのです。このオチこそSFならではの定石の一つです。
濱野京子は、著作数50冊が見えてきたかあるいは既に越えたか、今ここで創作の原点を問い直そうとしたのかもしれない。いつも感じることだが私にとって濱野京子は共感の作家。本書では先ず舞台が、自分なら、と置き換えて考え始める。上野公園なら私は各博物館だし、根津の辺りなら、本郷三丁目から東大構内を通って弥生門から出て「弥生美術館」に行って帰りは言問通りの弥生坂を下って根津駅へというのが定番だ。さらに主人公の行く先々を、私は神保町のそこかしこに置き換えて想起し始める。
あるいは、夏の高校野球について私は、ナイター制とシェスタを導入、かつ予選本選問わず生中継をやめろ高野連、と毎年発信しているし、在日朝鮮・韓国人の若者「イゴ、ジュセヨ」の言葉から、意識は過去へ飛んで、己の若さ、幼さの無知故の残酷さを思い出して胸が痛む。この国の道路は自転車に優しくない(乗る者にとっても歩行者にとっても)から乗るのをやめて久しい。高尾山は、遠足の定番でもあるし、私も気が向くとぶらっと行くんだけど、植生の豊かさは世界的水準でも桁違い、本格的なハイカーは陣馬ー高尾山系と言って、陣馬山から登って高尾山に昼頃達するんだけど、ミシュランが三ツ星観光地に指定してから高尾山に客が増えちゃって、ハイカー達にはすこぶる不評。私は、自然に触れるって行為は、自然環境悪化につながると思っているし、むしろ都心を彷徨い歩く、迷い道するのが好き。
だが何よりもメインテーマ、主人公は高校の文芸部所属で読書好きだが創作の経験がない、彼女の創作に対する葛藤が全編を覆う。私も創作の実績がないが、私のレビューは、対象メディアを本に限らず、書いたものも喋るのも、知人達によると面白そうに読める、聞こえると言われる。翻訳は、私は語学力以前に原文に対するリスペクトがないことを自覚した時にあきらめた。「創作への意志」という言葉が痛切に響いてくる。
最後の私の妄想を一席。朔は希和子にとって創作の業そのものではなかったのか。
「회랑식 중정(回廊式中庭)」4巻。김연주(キム・ヨンジュ)。大元CI社。3巻の記事はこちら。
何度も書いているように、物語設定や背景をあまり説明しないキム・ヨンジュだが、ここでモノローグでいくつか解説が入った。タイトルでもある「回廊式中庭」について。※これが意味ありげで、一部引用し拙訳を試みると『そこは彼らだけの美しい家であり、彼らだけの世界であった。そこの家の中央には美しい花木が一本あった。中庭に位置を占め、冬が過ぎれば白い花が雪のように咲き誇る春。色とりどりの緑陰が生い茂る夏を過ぎ、実りの季節、秋を迎えて、再び冬が来る間にも、美しい花木、そして美しい生き物』そこに美しい三兄弟妹が住み、しかし一番美しいのは使用人のユンだ、ということ。そして若旦那様であるレヒには、そのユンを完成させたのはある程度自分だという自負があった。
大旦那様であるチェヒは、レヒがユンにやった靴を履いているのを見ると、その靴に火のついた煙草を押し付け、嬉々としてユンに靴をオーダーメイドであつらえてやる。レヒとチェヒに緊張感が走っている筈だが表面的には何も描かれない。
そんな様子を冷ややかに眺めていた妹のセヒは、ユンに問う「亡くなった義姉(チェヒの妻)を慰めてあげたりしたの?」当惑するユンだが内心思う「前の奥様はチェ旦那様以外の男の子を妊娠していた。だから」自分を疑うのか?と。
レヒと交際を始めた女学生のミソク(セデク)は、彼にまた提案する「(チェヒ)の目に入るように、あなたの家で働けるようにしてちょうだい」と。
※巻末にまた解説が『女子高等普通学校は、普通学校を卒業後入学する、朝鮮女性対象の五年制中等学校で、1925年当時女学生数は女性人口全体の0.03%に過ぎませんでした。
こうして女性だけの部屋(규방=閨房=朝鮮女性が手仕事をする空間)から学校に出てきた女学生達に向けた大衆メディアの代表的なイメージは、虚栄と贅沢で、化粧をしてハンドバックを提げ、音楽会、化粧品店を巡る洋装モダンガールだったのです。』
※本編中にも「三越」や「味の素」といった言葉が見られる。
※新たに大学生のスガン君が登場した。家同士の付き合いで、セヒ嬢の婿候補の一人のようだ。
業務連絡:次回は七月二十六日(水)、次々回は八月九日(水)開催を予定しています。
本日は日本どころか世界的に暑い日で、しかも私は腰痛を再発し、腰にサポーターを巻いて参加しました。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の三度目の第四弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の、今年一月に発行された5号「I will be BACK」特集から、박경만(パク・キョンマン)作「폐(閉)」を読みました。
今回の作品のポイントは、科学的にも文学的にもちょっと難しいということです。
超空間跳躍ポータル。光速に近い速さで航行する宇宙船で、相対論的効果により船内の時間が遅くなり、外部の宇宙空間は遥かに早く時間が経つことを利用して宇宙の終焉を見物することが目的。乗員は狂人、老人、逃避者など宇宙の星々から集まった最低の人間ばかり。船から観られる宇宙の光景は、クエーサーの線状の輝きと白色矮星の光。
そこに乗り込んだ男はある人物を殺して報酬を得る仕事を請け負っているらしい。船内では、男女が心中したり、道化が芸を見せて拍手や小銭を乞うて、やがて殺され、大量虐殺が行われて首がいくつもさらし物にされていきます。でも男は行動を起こしません。
男に絡んでくる乞食がいました。身の上話をしたかと思えば、男が殺し屋だろうと見抜きますが、男は意に介しません。やがて乞食は諦めて飴玉を男にくれて立ち去ります。
ついに宇宙最後の日。乗員達は宇宙最後の白い輝きを見物し、男はターゲットに迫ります。鋭い牙のマウスピースを付けて、ターゲットの首筋に噛みつき、首を嚙みちぎりました。そして濁った輝きが全宇宙を覆った。
※ということで、実のところどういう話だったのか、さっぱり分かりませんでした。宇宙の最期を眺めながら、誰の殺しの依頼なのか、なんでバンパイアみたいな殺し方だったのか、何かの比喩か隠喩か、壮絶な光景が展開しながら、その意味が分かりませんでした。
SFにはこういう、つかみどころのない話もあるという事です。
「회랑식 중정(回廊式中庭)」3巻。김연주(キム・ヨンジュ)。大元CI社。2巻の記事はこちら。約3年振りに3、4巻が同時発売。初版限定特典としてイラスト入りしおり付き。
セヒお嬢様の提案通りチェヒ旦那様を挑発し始めた使用人のユン。チェヒの表情からはその心情はうかがえないが、レヒ若旦那様がユンにくれた靴やスラックスを見ると、靴屋にユンを帯同させ靴をあつらえてやったり、自分のスラックスをくれてやったり、西洋料理店に連れて行ってステーキを食べさせたりする。
そして、新たに、チェヒの今の婚約者カウォン嬢が登場した。
一方、レヒは女学校に通う少女に交際を提案する(※告白ではなく、韓国でいうところの「親交」友達付き合い)この少女、ユンに似ていて本人はミソクと名乗って、交際「一回に2ウォン」を要求する。彼女は農家の娘、あるいはそこで働いているらしい。本当の名はセデク。
ここで、またちょっと不思議な描写で、ユンは2枚のパスポートを持っている、日本語と英語で書かれているらしくてユンには読めないので、セヒと邸出入りの外国人の先生(主治医か兄姉弟の家庭教師か?)に読んでもらって一枚はユンのもので、もう一枚はチョンアという女性のものだという。※なぜこんなものをユンが持っているのかはまだ不明。
セヒはまた亡義姉の言葉を回想する。「私は、あなたの未来よ。自分自身で自由になるモノは何も持っていない。」
レヒと再び会ったミソク(セデク)は「どうせなら、あなたのお兄様に会った方が私の利益になったわ。」と挑発的な発言をする。
邸宅に遊びに来たカウォン嬢はセヒに「留学したければ行きなさい、私が便宜を図ってあげる。そして戻ってこないで。留学しても使命感や愛国心から戻って来て、却って廃人になる女性がいる」※つまりセヒを追い出そうというのではなくて、勉強する気があるなら日帝支配下の政情不安な朝鮮から離れなさい、という警告らしい。
さらにカウォン嬢は、ユンがチェヒから貰ったスラックスを穿いているのを見ると「それは私が選び抜いてチェヒに贈ったものだわ」とカンカン「ユン、今度家にいらっしゃい、そんなスラックスは捨てて。新しいのを私があつらえてあげるわ」と。
※本編の後、巻末に中国、スウェーデンに留学し経済学の学位も取得し研究も続けられたのに、日帝支配下の朝鮮に帰国したが、五か月後には他界してしまった実在女性の解説文が掲載されている。この時、未婚だが妊娠していて相手の男性はインド人だったので、不遇な晩年だったらしい。
業務連絡:前回の六月十四日(水)は先生の都合により休会しました、次回は七月十二日(水)、次々回は七月二十六日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の三度目の第三弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の、今年一月に発行された5号「I will be BACK」特集から、지동섭(チ・トンソプ)作「부바키키의 수수께끼(ブーバキキのなぞなぞ)」を読みました。
今回の作品のポイントは、SFというより、ショートショートにはこういう手法がある、ということです。
いわゆる宝探し、トレジャーハンターものの冒険物語のお約束パターンにしたがって古代王国の秘宝を探しに行く男の物語で、迷路を通りケンタウロスばりの「ブーバキキ」という名の怪物の門番が出すなぞなぞに正答できれば、門を通り宝が手に入りますが、できなければ死 です。
怪物の出した「なぞなぞ」とは「わが名は何か」。
しかしこの時、男は気付きました。怪物の角の上にもう一匹小さな怪物が乗っていたことに。怪物は二匹いることに先人達は気付かなかったのだ、と。
男は、一方を指さして「おまえがブーバだ。」すると直ぐに怪物は男を掴んで握りつぶして殺しました。
「地球人」は誰も気付かなかった。怪物の一方は「ブーバキ」で他方は「キ」だったことに。
本文はここで終わりですが、「参考」文が続きます。「ブーバキキ効果」という心理学の研究が実在し、円形の図形と直方体の図形を見せてどっちが「ブーバ」でどっちが「キキ」か、と問うと95%以上のアメリカ人が円形が「ブーバ」直方体の方が「キキ」と答えるという結果がある。というのです。
※つまり、本当の「オチ」は本文ではなく、その後の「参考」文に有った、というオチです。これは、ショート・ショートにある形式の一つです。本文の後に「解説」とか、引用文のようなものを掲載して、本当のオチになる。
※ブーバキキ効果についてさらに調べると、問いと回答の因果関係は未だ不明、人間の知覚認識に関して多様な解釈があるようで、さらに、母国語を問わず98%以上が同様な回答をする、という解説もあります。
業務連絡:次回は六月十四日(水)、次々回は六月二十八日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の三度目の第二弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の、今年一月に発行された5号「I will be BACK」特集から、우다영(ウ・タヨン)作「평범한 프러포즈(ありふれたプロポーズ)」を読みました。
男女のプロポーズの場面という枠の中で、男が自分の仕事=公企業の中で、現実に起こった交通事故の内容をシミュレーション装置でVR(仮想現実)体験して、自動車に搭載された自立走行システムAIの判断した処理が適切であったか検証する=について語り始めます。
そこで語られるのは、AIシステムの判断した最適な処置が、客観的な被害を最小限に抑えたとしても、それが果たして人道的道徳的にも正しかったといえるのか、誰に判断できるのか。
AIはビッグデータに加えて一万人の事例サンプルを踏まえて判断を下した。それはいわば確率的に一番多い結論を選択した結果。それを検証する自分の出す判断とは一番「ありふれた」選択をさらに繰り返すだけのこと。それが自分の判断と言えるのか。交通事故に限らない、偶発的な災害に遭うというのは「運が悪かった」だけでそこに人間の意思は存在しない。自分の自由意思は存在するのか。今こうしてプロポーズするのも自分の意思と言えるのか、男には分からなくなっているのです。
※これは、技術の進歩と人間の在り方の関係を問う、SFとしては最もオーソドックスな形式の作品です。
まさに今、現実に、自動車の自動走行システム、文章や絵画を作成してくれるアプリケーションソフトウェアは実用化の渦中です。その意味で最新のトピックを風刺すると同時に、交通事故を通じて生死の掛かっている運命とは何かという根源的な問い、あるいは民間の「保険」という事故の検証をする仕事を民間に任せっぱなしにしておけるのか、という近未来への問題提起もしているのです。
※それだけの内容を最小限のシンプルな物語の中で展開し読者に問いかけられる小説形式、それがSFなのです。
「舞台・エヴァンゲリオン・ビヨンド」MILANO-Za公演。日経の16日夕刊の文化欄の記事を読むまで知らなかった。最初は予約しようかとも思ったが、安くはないチケット、平日なら会場当日券でもいけるんじゃないかと、タカをくくって行ってみたら、とれた。
東急歌舞伎タワーに入ったのもこれが初めて、同ビル内のスターバックスから広場と正面のゴジラの肖像画?を眺めながら、ここで夜には行き場を失った孤独な少女たちが・・・と思うと何とも複雑な気持ちになった。
舞台は堪能した。完全オリジナルストーリーながら、これ迄のエヴァを想起させる要素を散りばめながら、正義とは愛憎とは倫理とは家族とは自然とは地球とは、様々な問いを、芝居と音楽、ダンスの身体表現で、その芝居も文楽をワイド版にしたようなマペット、宙乗りなどあらゆる表現で休みなく観客に問いかける。
「Tiara(ティアラ)」34巻、35巻(完結)。原作이윤희(イ・ユニ)。漫画카라(カラ)。ソウル文化社。32、33巻の記事はこちら。各キャラクターの前日談、後日談の連作形式。
リューン帝国皇太子サンレー皇子とエルセス・マイアーは晴れて再会。これからはリューン帝国で暮らすと決意するエピソード。※これまでの記事でサンレーを皇太子と表記したり皇帝としたりしていたが本編に出てこない晩年で眠り続ける皇帝がまだいる筈なので皇太子が正解。
エルセス・マイアとキスチェルの母の士官学校時代の友情と大暴れのエピソード。
やや時を経て士官学校の卒業を控えたフェイとキスチェルのエピソード。卒業課題としてアジェンドとリューン両帝国の国境線上にある無法地帯を調査することにして二人で乗り込んでいった所、住民は無国籍者だが、「教授」と呼ばれる人物に指導され、テロリストや手配犯は駆逐され、予想外に平穏に暮らしていた。「教授」の正体は、25巻から26巻辺りに登場した、古の神の長命の身体を受け継ぎ、その魔力を習得した青年、ウンランだった。そこで、フェイはリューン帝国皇女として、古の神の一族の流れを汲んでいるウンランはリューン帝国の人間でもあるから(とこじつけ)「ウンラン教」を認め、ここをリューン帝国の、私の統治する国とする、と宣言。
最後のエピソードは、フェイとキスチェルの娘を中心とした話で、アジェンド帝国の士官学校を舞台にして、久し振りにフェイ、キスチェル、アキ、友達が再会。フェイは今までを回想して幸せをかみしめて完結。
※巻末には連載を終えた原作のイ・ユニと漫画のカラからのコメント。驚いたのは、ここで初めて、カラとして김윤경(キム・ユンギョン)と정은숙(チョン・ウンスク)という名の二人が各々コメントを記していたことで合作ペンネームであることが分かったこと。
三者とも二千八年から足掛け十五年に渡る長期連載の終了に感慨を表明している。この間に韓国の漫画は紙媒体の雑誌からインターネット連載が主流に変わっていることや今後の韓国漫画がどうなっていくか、わからない、ということも。
それは一読者としての私も同様だ。
業務連絡:次回は五月三十一日(水)、次々回は六月十四日(水)開催を予定しています。
今回は期せずして、只今、話題のCHATGPT(チャットGPT)と和訳を競うことになりました。センテンスごとに「これは負けた」「勝った」と一喜一憂でした。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回からは、SFショートショート(SS)5連発の三度目の第一弾を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の、今年一月に発行された5号「I will be BACK」特集から、이산화(イ・サナ)作「매듭짓기(結び目作り)」を読みました。
これまでで一番短い作品でした。若い男女の愛の、固い誓いに始まり、ある民族の伝統工芸であり、「契約」の証、土産としての飾り紐の結び目、欧州の逸話「ゴルディアスの結び目」のモチーフ、結び目に込められた「呪い」を巡る永遠の誓いの顛末。そこに数学のトポロジー(位相幾何学)を絡めて、決して離れない、共に生きる愛の誓いは文字通り、心身共に一体化してしまう。
※民族、民俗学的アイディアと数学理論を絡めて恐怖のオチで締めた動的で劇的なラブストーリーは、SFならではの離れ業。
※小松左京の70年代の短編SF「ゴルディアスの結び目」を彷彿とさせる傑作だと思います。
「Tiara(ティアラ)」32巻、33巻。原作이윤희(イ・ユニ)。漫画카라(カラ)。ソウル文化社。31巻の記事はこちら。「(この人も皇帝と同じ。過去に囚われて真実から目を背けている)」「このままでいいのですか」「私があなたなら過ぎた時間より残された時間を大切にする」
アジェンド帝国現皇帝の娘、元オレン王国第一王女、現アルクリス王国上皇妃「エレクトラ」に対し、フェイは説得を試みる。
アジェンド帝国の上皇会議(上皇は複数の人々)が開かれる。皇帝は次期皇帝として皇太子でありフェイロン王国第一王子アーセルスを推挙する。
しかし、ここに再び王宮の結界をホムンクルス、シャンが破壊し、フェイだけでなく、その母エルセス・マイア、皇族審判官エルフェルン、フェイロン王国第二王子アーケランス(アキ)が皇位継承権者の一人として駆けつけ、さらにエレクトラも現れ、皆が上皇達の前で皇帝の、皇帝妃殺害の過去、フェイに対する不当な拘束、そしてリューン帝国への憎悪と戦争のきっかけである、エレクトラが皇帝の娘ではなくリューンの騎士と皇帝妃の間に生まれた、つまり両国の混血であること、一切の真実を証言した。
エレクトラは激情にかられる皇帝を抑える「もう終わりにしましょう、お父様」。上皇の命により皇帝は拘束され、続いてアーセルスも拘束された。
後日、上皇会議は結論を出した。現皇帝は皇位剥奪、次期皇帝にアキを選定。フェイはアキを励ます、あなたは独りではない、私という友、そして大勢の協力者たちがいる、と。アキも気付いた、皇帝は独りだったから、だが自分は違う、きっとうまくやれる、誰もが自由に行動できる国にすること、アジェンド、リューン両国の交流も。
アキは皇帝の戴冠式を挙行、そしてフェイはリューン帝国に戻る日が来た、ここでフェイは本領発揮?去り際にキスチェルと婚約するといきなり宣言。
リューン帝国に戻ったフェイは正式に皇帝の王女となったが、キスチェルに会いたい。そこでアジェンド帝国オレン王国にいるままの妹セヌーのアイディアで、両国の交換留学生としてフェイはアジェンド帝国に、セヌーはリューン帝国に行くことになった。
※キスチェルと再会したフェイの台詞「幸せよ」で「本編終わり、この後、外伝」となったのだが、この巻で完結ではなかった。この「外伝」が続いているらしく、未読だが完結は、35巻。どうやら各キャラクターの個々のエピソードが続くらしい。
「러블리 어글리(Lovely Ugly)」9、10巻。同時発売、完結。이시영(イ・シヨン)作。大元CI。8巻の記事はこちら。9、10巻とも通常のコミックスの2倍位のページ数、コマ割りも吹き出しも小さめにして?詰め込んであり、読み通すのに苦労した。
ヒロイン、イ・ルナのマインドマップも、最早登場せず、完結に向かって収束、と思ってたら、それどころか、物語の舞台シェアハウスの未登場だった、というキャラが続々登場、各々のエピソードもしっかりと。イ・ルナとシ・ナモンの関係も一先ず決着したが、加えて二人の両親が登場、今と昔のエピソードまで描かれる、文字通りてんこ盛り。まさに作者が省略無しで描き尽くした、という感じ。今後も、この筆力で新作を期待したい。
『人間とChatgptの小説創作プロジェクトSFアンソロジー「매니페스토 manifesto」』小説本文に加えて作者とChatgptの作者後記、作業日誌(小説本文よりこちらの分量が多い)を収録。韓国は企画の実施が早い。
‘인간 - ChatGPT’ 첫 공동 집필 소설집
— 자음과모음 (@jamobook) April 3, 2023
소설가 7인이 AI와 함께 창작한 짧은 소설들
그리고 그 과정을 투명하게 적어 내린 기록들
이것은 새로운 역사의 시작을 알리는 작은 선언이다!
챗GPT와 협업한 초단편SF소설집, 🤖『매니페스토』 pic.twitter.com/uSMp162P1t
業務連絡:次回は五月十日(水)、次々回は五月三十一日(水)開催を予定しています。
いきなり暑くなりました。誰も彼も汗だくのようで。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の二度目、の第五弾は、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の4号「アルコール特集」より、イ・ハジン作「墜落する太陽に乾杯を」を読みました。
しかし、これが難物。作者は物理学を専攻したとのプロフィールですが、文体がシンプルである以外は、全然それを感じさせない、観念的?象徴的?超現実的?な描写の連続で最後まで終わってしまいました。さらに二人称の叙述で最後まで読者を幻惑?します。
非現実的なキーボード操作から始まって、あたかも世界の条理は覆されたかのように、世界は不規則、不定形に、揺らぎ続け、太陽の光は失われ、人の理性も崩壊していきます。
世界は原初の姿に巻き戻り、人は地下に移りニセモノの太陽を配置しますが、やがて不眠となり薬物や酒に酔い、眠る為に偽の太陽を堕とします。
人の心身も光に包まれ、消滅していきます。
全ては原初の一点に流れ込んでいきました。ああ、墜落する太陽に乾杯を。
※というわけで、どう要約していいかも分からないまま、なんだか分からないまま、完結しました。人類、或は太陽、それとも宇宙の終焉を描いたのか。酒や薬物中毒の幻覚を表現したのか、それら全てを多義的に解釈可能に確信犯的に提示したのか。
※※次回からは、SFショートショート(SS)5連発の三度目を、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の、今年一月に発行された5号「I will be BACK」特集から、読んでいきます。お楽しみに。ではまた。
業務連絡:次回は四月十九日(水)、次々回は五月十日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の二度目、の第四弾は、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の4号「アルコール特集」より、キム・チュヨン作「星々は河を成し」を読みました。
今回は形式としては「SFミステリ」です。米テレビドラマや映画の刑事もの、なかでも「バディ(相棒)」ものの形式で始まります。
地球人の相棒と、この星の先住民である「私」が殺人事件の捜査に向かいます。この星は地球人が入植して来たとき、先住民は地球で言う「蜘蛛」にそっくりで地球人並みの大きさだったので、知性があるとは思われず、駆逐され、先住民側も対抗して地球人を食いちぎる残酷な歴史がありました。そして今では地球人が多数派であり、この星を実効支配し、私達先住民は少数派となっていました。
事件は、状況から妊娠中の先住民に、地球人が酒を飲ませて殺した。死ぬ前に先住民は十人以上の子供を出産していました。
この星の「私達」先住民は酒をまったく口にしない、飲めば死にます。「口伝の経典」はアルコールの摂取をタブーとしていました。さらに死ぬときに生涯抱え続けていた卵を受精させて子供を産むのです。「経典」によればアルコール成分を飲食すれば「星々は河を成し、星が滅亡する」と伝えているのです。
被害者の死因が飲酒させられた所為か出産の所為か特定できず、犯人である地球人を殺人犯として重罪で裁けなかったことに、「私」の同族達は激怒し、自らの運命を議論し、研究し、ある結論に至り、全員、酒で祝杯をあげました。するとアルコール成分が歓喜、食欲、繁殖などあらゆる衝動の抑制を解き放ち、卵を出産し始めました。
さらに「私達」は歓喜のあまり地球人を食いちぎり始めました。
※つまり私達種族は、この星の食料資源の不足に対応するためにアルコール成分摂取を禁じて食欲と繁殖衝動を抑え、出産を控えていたのです。しかし今やこの星は地球人という「獲物」に満ち溢れ、食料資源に不自由することはなくなったのです。経典の「星々」は生まれた子供達を指していたのです。
※おぞましい事件に始まり、恐ろしい結末に至りましたが、この作品が、近現代の先住民族と入植者、少数民族問題の風刺であることは明らかでしょう。
業務連絡:次回は四月五日(水)、次々回は四月十九日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の二度目、の第三弾は、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の4号「アルコール特集」より、チョン・トギョム作「揮発、発火」を読みました。一番短い作品ですが一番難解です。
いわゆる擬人化ものです。語り手はシャーレ(原文ではペトリ皿)。科学実験などでおなじみの皿状の器です。その語りによれば、シャーレ達は高周波でお互いに連絡し合える。「アルコール」で消毒しているが、どんな薬品で「腹」の中を満たしているのかは分かっていない。人間が長い戦争で毒物を作り出していたらしい、ことがうかがわれます。そしてここで研究していた人間は戦争で施設を閉鎖して逃亡したというのです。
そこで、シャーレ達は、自分達の存在意義を問い、いつの日か、ここを脱出することを語り合っていたようなのです。※研究実験用具自体が哲学を、己のアイデンティティを考察していたのです。
そこへ突然、軍人達が踏み込んできました。彼らの話し合っている所では、ここで人間の骨と皮をしゃぶり尽くす?毒薬が作られて、自分達の同胞が虐殺されたのです。逆上した一人が仲間が止めるのも聞かず、銃を撃ち、弾丸の火花からシャーレの中の薬品に引火、施設は爆発炎上してしまいました。
※ストーリーをなぞればこれだけですが、SFで擬人化、と言えば、人間の文明を風刺、と決まっています。しかし、この作品ではどこからどこまで具体的に掘り下げているのか、解釈が大変難しいです。しかも作者はプロフィールによれば、梨花女子大学脳認知科学部在学中。皮肉でなしに文字通りエリートです。極めて深い考察が仕掛けられているかもしれません。凝った言い回しも使われていて私達のレベルでは読みこなせませんでした。
業務連絡:次回は三月二十二日(水)、次々回は四月五日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の二度目、の第二弾は、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の4号「アルコール特集」より、ウィレ作「アルコール依存症、野生、肉食、生物船」を読みました。いかにもエンターテインメントSFらしい作品です。
どこかの宇宙港の艦橋の展望バーが舞台で、「私」はそこの窓から宇宙港に出入りする宇宙船の数々を眺めながらマティーニを飲んでいると、港に牽引船に曳航された全長1キロメートルに及びそうな「生物船」が入って来て客達の注目を集めます。そこに友人のブライトから電話がかかってきます。ブライトは私を初めとしてあちこちに借金のある身で、どうやらこの生物船を売って借金の穴埋めにしようとしているようです。ここから両者の商談のかけひきが始まります。
生物船とは古代の地球人が、異星生物の遺伝子を改造して、数々の戦争の度に兵器を移植して戦艦生物船としていくうちに野生化したものです。しかも今ここに曳航されてきたのは極めて珍しい肉食種で、敵をかみちぎる鋭い歯もぎっしりと生えています。
肉食では危険なのですが、珍種のマニアには、自分だけに従順に飼い慣らせることこそ人気の的らしいのです。
なぜこんなものを入手したか。ブライトの話が始まります。知り合いのアル中宇宙船艦長「酔いどれビット」は、宇宙海賊達が「飼い慣らしている」最中にこの生物船が目覚めてしまい、海賊たちが怖くなって逃げだしたところに出くわした。その時、生物船に艦橋を移植中、鉄骨を乗せる工事中に使うメタノールタンクが爆発。生物船はメタノールを浴びてメタノール中毒になりました。
ビット船長は、このメタノール中毒を「治療」する為に、自分の宇宙船にぎっしり積みこんでいたアルコール(酒)を使ったのです。生物船にアルコールを飲ませると腹中でメタノールとアルコールは分離され、アルコールが先に体内に吸収される、つまりメタノール中毒からアルコール中毒に変えられて結果的に生物船は助かったのです。
そんな代物ではなおさら、と私はさらに値切ろうとするのですが、突然ブライトの電話口の態度が変わります。ビット船長は飲酒の度に生物船にも酒を飲ませているうちに、生物船は目覚めると酒を探すようになった。ブライトが引っ張ってきた生物船はそんな状態なのです。※「私」がいる処は宇宙港の艦橋のバーで、ブライトはバーにいません、どこか外から眺めながら電話をかけていることを思いだしてください。
私の後ろからお客たちの悲鳴が上がります、振り返ると窓全面に見えたのは生物船の巨大な口でした。
※アル中とSF映画の様な舞台と化学合成アイディアを組み合わせ、さらに数多のサメ映画のラストシーンを加えたようなブラックユーモアな一篇でした。
「대답하세요! 프라임 미니스터(お答えください!プライムミニスター=総理)」11巻。임주연(イム・チュヨン)。大元CI。10巻の記事はこちら。
※今回も繰り返し前の記事を再掲しておくが、何が「今の日本人にお薦め」か?今の醜悪と無関心、倦怠感に満ち、知性の劣化した日本政治の現実と違って、この漫画の政局ドラマは理知的でリアルながら熱い、LGBTを初めとしたポリティカルコレクトも理想的に描かれ、しかも愛憎のドラマも美しく、全てが活気に満ちている。
※これも「再掲」するが秘書マリーズ・リューと記述していたが、英字綴りが明確になったら、Melice・Ryuだったのでメリス・リューの方が適切か?ご批判ご意見歓迎します。
※トーマスのスタッフで、いつもトーマスの隣にいて、黒人でドレッドヘアスタイルの男性。正式な役職は秘書なのか、正確な名前も分からなかったが愛称が「エド」。この人が演劇の俳優出身、エド・ハリス補佐官、と分かった。
※前首相ヘレンの秘書で、ノエルに請われてスタッフに招聘された女性を「ベアトリス」と表記していたが「ベアトリクス」だった。以後そのように訂正します。
ここでトーマスがノエルにだけ自分は私生児ではなく、母親は、かつての有名な従軍記者、エリン・カーディナルだと打ち明けた。だが自分の実績が評価比較されるのを好まないので秘密なのだと。それが本意か、実父のこともまだわからない。
テロリストがトーマス・カーディナルの実父?スキャンダルで失意のトーマスの前に一人の少年が尋ねてくる。エジプト系イギリス人でテロリストの国の奴だ、といじめられている。だからトーマスを激励しに来てくれたらしいのだ。トーマスはやる気を取り戻した。
一方、ベンジャミン・ノエル総理は、共和党からトーマス・カーディナルに対する不信任決議案を国会に提出した。一見、敵対行為だが、実はスキャンダル調査の時間稼ぎと、 先手を打って労働党他野党の動きを封じる狙いがあった。
そして国会で聴聞会が開かれる、とノエル自ら証言台に立ち「トーマスの国に対する誠実さを信じている」と宣言して、国民に流れる風評を吹き飛ばした。※一先ず目先の危機はかわしたが、この謎のテロリスト集団の件はまだ今後の伏線のようだ。
ここでトーマスが動いた。ベンジャミン・ノエルにプロポーズして、両者の腹心のスタッフ、エドとリュー(そして読者の)度肝を抜く。但し条件は翌年の総選挙でトーマス(労働党)が勝ったら、ノエルが議員を辞職すること。※これがノエルの身辺を守る最上の方法だから、というのだ。果たして、ノエルに前首相ヘレンは何を託しているのか。共和党内の対立候補やトーマスをどうやって説得したのか、その秘密は未だに読者に明かされていない。
次巻への引きは休暇中のベアトリクスが密かに何か動いているシーン。
この他のエピソードとしては、共和党全党大会での政治資金集めのイベントしてのオークション。主な議員が何か提出するとか何か芸を披露するとかで、ノエルは貴族系の家庭の少女に童話を朗読してあげる。相変わらずノエルとトーマスのセックスシーンetc。
業務連絡:次回は三月八日(水)、次々回は三月二十二日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回は、SFショートショート(SS)5連発の二度目、の第一弾は、出典は引き続き、韓国のSF小説雑誌「The Earthian Tales」の4号「アルコール特集」より、イ・チュヒョ作「あなたは夏のそりに乗ってくる」を読みました。極めて構成と仕掛け、意図が読み取りにくい作品です。
第1章でD火山の噴火、火山ガスが大気と混ざり合い、亜硫酸ガスの雨滴が降り注ぎ、微細な鏡のようになって大気中を浮遊し太陽光を遮り、地球から夏という季節は無くなり、冬のような寒さと厚い雲に覆われました。豪雪で大地は雪原に覆われ建造物は雪の重みで崩壊しました。
第2章は、アルという名の幼子と母の対話、雪に覆われた世界の中でアルを抱いた母は熱い太陽の歌を子守唄として聴かせます。
第3章雪原に立たされて足の指を3本失った13歳の「わたし」は、何かにつけて懲罰するくせに、密造酒を作ってドームシティと闇取引して生活する親父の生き方を嫌気して、家を飛び出し、4本目の足指を失いながらドームシティにたどり着き「あなた」に出会い、見よう見まねで作った密造酒を「あなた」に捧げた。「あなた」は酒を忘却の水と呼び、「あなた」の母は太陽の歌を歌い「あなた」を寝かしつけた後いつも酒を飲んだ。飲酒中の平穏な母の表情がうれしくていつも「あなた」は寝たふりをした。
「あなた」に捧げた一杯を「あなた」はこれ以上ないという笑顔で称賛し、「わたし」は酒が「あなた」を追い込んでいく先を予期しながら、その笑顔が見たくて酒を造り続ける。「わたし」の愚で「あなた」を永遠に失った。
酒が喉を通った瞬間「わたし」の瞼の裏側で「わたし」の幻影の中で幸福そうな「あなた」が「わたし」の知らない夏という季節の中でそりに乗ってやってくる。「あなた」を忘れないために「わたし」は杯を重ねていく。
第0章「ㄱ」はしょっちゅう「未来」を思い出す、と「ㄴ」に話しかける。「ㄴ」は「ㄱ」を見つめて言います「あなた、酒を一寸減らさないと」
※果たして構成、ネーミング、場面何か仕掛けてきているのか。ジャンルを問わずエンターテインメントに風刺、政治性を含めるのは韓国では日本以上に多いのですがわかりません。では、また次回、新作で。
「エルスカル(ELSKAR=엘스카르)」第四巻。우나영(ウ・ナヨン)作。鶴山文化社。第三巻の記事はこちら。
胸の中で宝石が育つランゲ族、その少女ビオラ・グレイは、昼間はベール家令嬢として、夜は後見人ドロイ公爵が密かに保護しているランゲ族と共に、ランゲ族狩りに捕まった同族を救出する活動を手伝うことにした。そして自分が「神が約束した紫の瞳の子、ランゲ族を救う唯一の希望、紫の宝石を生む子」と知って衝撃を受けたビオラ。
ビオラがこれを知ったのを機にドロイ伯公爵にビオラを推薦したランゲ族の侍女は、伯公爵にこの件を打ち明ける。※読者には意外だが、伯公爵は信頼できる侍女がビオラを連れてきたのを採用しただけで、この話を知らなかったし「迷信」を好まない人だった。
しかし、侍女は、伯公爵に訴える「バ・エルスカル・アメジスタ、それが約束の宝石。王冠に装飾された宝石。バエル。約束の宝石は敵に。それを開くキーはこちらにあるのです。勝った方が全てを得るのです」。
ベール家令嬢(ビオラ)とドロイ伯公爵は高位貴族マリー・ガードナーの饗宴に赴く。ここには王妃を初めとして高位貴族が集まり、宴の後秘密の「競売」が開かれるという噂を聞いたからだ。
ここでビオラはノクシド公候爵という高位貴族の護衛らしき青年にランゲ族の気配を感じた。しかし以前に彼の姿をランゲ族狩りの狩人の一人として目撃していたのだ。また社交界の最高実力者レジーナ・フィオレとも再会した。
さらに第二王子がビオラの前に現れる。何故か親し気でビオラは当惑する。※読者から見ると、3巻でカフスボタンを投げてきた謎の男が彼ではないか、と推測されるのだ。
そして第一皇女も現れたが、目の敵にしているビオラに毒の花びらを貼り付けて昏睡させてしまった。幸い解毒剤が効いてビオラは目覚めるが、続いて襲撃を受けて、毒矢を射かけられたが彼女をかばったドロイ伯公爵が昏睡する。あくる日になっても伯公爵は目覚めず、ビオラも暫くランゲ族の隠れ家に行くことになった。次々と傷つく周囲の人々に自分の無力さを苦悩するビオラ。
※というところで、今巻はここまで。まだまだ物語は謎と伏線が続くようだ。
業務連絡:次回は二月二十二日(水)、次々回は三月八日(水)開催を予定しています。
では、いつもの口上から朝鮮・韓国語自主学習教室、数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一韓国の現代SF小説をテキストにした水曜日開催なのに月曜会2。
今回はSFショートショート(SS)5連発、の第五弾は以前、ブラックホールと宇宙ステーションの宇宙物理学とその構造を工学的描写で圧倒する短編「スウィング・バイ・レーテー」を読んだ、ナム・セオの新作「純粋の時代」を読みました。しかし今回は全く違った作風で、「愛」について叙述する作品です。
テキストとしてはこれまでで一番短い作品でしかもほぼ全センテンス、「私達の愛は」で始まり、苦悩、自嘲、疑問に満ちた愛についての考察で終始してしまったのですが、間に「100年前のアイドルへの愛」との相違を対照して考察し、読者を困惑させます。
いつものほぼ半分の時間で読了してしまったのですが、読者としてこちら側の困惑深く、残った時間で検討しました。とりあえずの感想というか推測では、これは百年後の未来を想定して今の韓国のアイドルブームを風刺したのではないか?それも批判的に。さらにこの「私達」とはこの未来世界最期の人類二人なのかもしれない、という感想も。
※これでSFショートショート五連発は一段落ですが、私的には一回につき一話SSを読むというのは調子が良くて、次回からSFSS五連発の二度目をスタートさせることにします。ということで、また次回、新作で。
「펠루아 이야기 a Tale of Felluah (フェルア物語)」19巻、20巻。김연주(キム・ヨンジュ)。鶴山文化社。18巻の記事はこちら。※完結
フェルア領主城内の冬の日々を例によって淡々とユーモラスに描いて十年連載がまた一作完結した。エピソードとしてはオルテーズの実家でありテサ領から実母が妊娠したという知らせが入る。近衛騎士団のジュルズ・アスリルドは城内の家の騎士団のレオノーラという「女性」と結婚が決まった、というのは最大のトピックだが、同性婚が当然の世界、ではなくて、城内の連中は全員猛反対、アシアスとオルテーズに直談判「このままでレオノーラがかわいそうだ、あんまりだ」というのが理由。男装を愛好する気の強いレオノーラ自身のコメントによると、家門に「稼げる」男の跡継ぎがいないのでジュルズはその代わりだ、と臆面もなく発言。他には、またしてもジュルズとオルテーズが愛読するロマンス(BL)小説の新刊獲得の為に村から村へ訪ね歩き森で道に迷って、その上フェルア領では珍しい吹雪でピンチ(助かるが)。
とまあいくつかのエピソードが描かれるが、大事件や深刻な事態が生じるでもなく、のんびりしたムードで十年で全20巻の「フェルア物語」は閉幕。この間、二人は遂に子供を作らなかった(※ここから私は以前はアシアスが他の若い領主達と革命の準備をしていると予想していた)が、最後の家門記録の引用風モノローグによると二人はまだ十代、子供を作るのはまだ先の話、ということらしい。
※私は昔から今まで、キム・ヨンジュを「脱世俗・脱日常」「超然たる少女世界」ファンタジーとしては韓国純情漫画最高の存在と形容、定義付けているつもりだが、今韓国漫画界は一段と紙媒体の出版を離れ(紙媒体は圧倒的に日本や欧米の翻訳もの)インターネット漫画、WEBTOON(ウェブトゥーン)にシフトを進めている。今後キム・ヨンジュはどうするだろうか。見届けたいものだ。
業務連絡:いつもの口上「朝鮮・韓国語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2」は都合により休止しました。次回は二月八日(水)となります。
業務連絡:次回開催予定は2023年1月25日(水)13時半から実施予定です。
年末年始も過ぎてしまえばあっけない、新年最初の当会です。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」。
さて、以前にもテキストに用いた一昨年末創刊されたSF雑誌「The Earthian Tales」に掲載された、五人の作家の個性的な五つのSSを引き続き、一回一作のペースで今回も一気に読んでいきます。
今回の新作、当会通算、第十六作目、題してSS(ショートショート)=超短編小説五連発、の第四弾は、윤이안(ユン・イアン)作「파울볼(ファウルボール)」を読みます。
地球に隕石が衝突することが判明。どうやら石ころが落ちてくるレベルではない、地球は壊滅的被害を受けるらしいのですが、私(英語の教授かなんからしい)のところに学生から電話がかかってきます。野球のデーゲームのチケットがあるから観に行きましょう、と。
出かけてみれば地下鉄は途中で停止、中途は歩いて球場まで行くと商店は開いている所とシャッターが下りたままの所が半々ぐらい。
球場内の席につけば、ダグアウトの選手達は一塁側が五名、三塁側が十四名。そこそこ集まっている観客がさっさと始めろとヤジを飛ばすと、3塁側選手がじゃんけんを始め、一人退場、四名が一塁側へ、※つまりこれで9人対9人そろった?
そして始球式はどこかで観たような人、アレは誰かと私が学生に問えば、かつて歌謡曲で活躍した歌手だ、とのこと。「愛は暴力、溺れるな」という歌詞。しかしボールはよろよろと打者の手前で落ちました。これにヤジが飛ぶと怒った歌手=投手は観客の方に向かって行って喧嘩を始めてしばしの混乱。やがてこの騒ぎの間に打者は塁を回ってホームイン。投手はマウンドに戻って来て保守から球を受けると今度は内野席=私の方?に向かって投げてきました。その時私は今地球に向かって飛んでくるもう一つのファウルボールを思いだして目を閉じました。
何のこっちゃ?って感じですが、昔のSFのパターンの一つで地球最後の日をパニックで描くのではなく、いつもの日常を淡々と過ごして終わる、という手法があるのです。では、また次回。
「대답하세요! 프라임 미니스터(お答えください!プライムミニスター=総理)」10巻。임주연(イム・チュヨン)。大元CI。9巻の記事はこちら。
※今回も繰り返し前の記事を再掲しておくが、何が「今の日本人にお薦め」か?今の醜悪と無関心、倦怠感に満ち、知性の劣化した日本政治の現実と違って、この漫画の政局ドラマは理知的でリアルながら熱い、LGBTを初めとしたポリティカルコレクトも理想的に描かれ、しかも愛憎のドラマも美しく、全てが活気に満ちている。
※これも「再掲」するが秘書マリーズ・リューと記述していたが、英字綴りが明確になったら、Melice・Ryuだったのでメリス・リューの方が適切か?ご批判ご意見歓迎します。
※トーマスのスタッフで、いつもトーマスの隣にいて、黒人でドレッドヘアスタイルの男性。正式な役職は秘書なのか、正確な名前も分からなかったが愛称が「エド」。この人が演劇の俳優出身、エド・ハリス補佐官、と分かった。
※前首相ヘレンの秘書で、ノエルに請われてスタッフに招聘された女性を「ベアトリス」と表記していたが「ベアトリクス」だった。以後そのように訂正します。
8巻で発生したトーマス・カーディナル拉致事件に関する調査報告と検討が始まるが、この事件を首謀したテロリスト集団は、宗教色がなく人種、国家間対立とも直接関係が見られない、という謎の組織であるが、そのリーダーがトーマス・カーディナルの実父だと主張しているというのだ。
これは真偽はともかく大変なスキャンダルで、トーマス・カーディナルはこのままでは労働党の存続危機だと即座に党首と副総理の辞任を決意するのだが、総理ベンジャミン・ノエルは彼個人を愛しているのは無論だが、政治家としての彼も評価、敬愛しているので自分が調査するから待て、と慰留する。
その後は、この件を巡りスタッフ達の動きが細かく挿入されてはいるが一番描写が費やされているのは、トーマスが個人でノエル宅を夜間密かに訪れ、一度は二人の仲の終結を宣言したが、やはりノエルのことを忘れられなかったという告白、二人の愛が再燃し、また寝室を共にするエピソードだった。
だが、あくる日になり、公務が始まると、トーマスは、このままでは総裁選挙に勝つどころではない、と改めて党首の座を降りる決意を同党スタッフに示すのだった。というところで続く。
業務連絡:次回開催予定は2023年1月11日(水)13時半からの実施予定です。
早いもんで、もう年末年始の心配をする日々です。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」。
さて、以前にもテキストに用いた昨年末創刊されたSF雑誌「The Earthian Tales」に掲載された、五人の作家の個性的な五つのSSを引き続き、一回一作のペースで今回も一気に読んでいきます。
今回の新作、当会通算、第十五作目、題してSS(ショートショート)=超短編小説五連発、の第三弾は、이나경(イ・ナキョン)作「유배행성에서의 20일(流刑惑星での20日)を読みます。
既に打ち捨てられた廃墟、流刑惑星「ポッコリン」に降り立ったのはリアルサバイバル番組「流刑惑星での100日」のスタッフ「私」とADと過去に各人各様のスキャンダルを起こした6人の芸能人。この流刑惑星でリアルサバイバル番組を撮る筈だったのですが、先行スタッフがいない、てっきりこれも企画の一部で「実はどっきりカメラ」かと思いきや。本星の本局に問い合わせると、先行隊は、原因不明の行方不明で、企画は中止、帰還船を派遣しているから、なんとか二十日間、そこで持ちこたえろ、という無責任なプロデューサーの返答。
という訳で、本当に現地スタッフとキャストのサバイバルが始まり、無傷とは言えませんでしたが、傷病で苦労しながらも、なんとか協力し合って生きのび、その様子を文字通りドキュメンタリー撮影して、帰還することはできました。
母星に戻って放映された番組は思いのほか好評で、出演した問題芸能人たちも芸能界にカムバックすることができました。
しかし後日再会した出演者と偶然会った「私」が聞かされたのは、流刑惑星に同行した芸能人は本人ではなく全員クローン、とはいってもこれもリアルクローンではなく、志願者を整形し、本人の特徴を徹底的に習熟させた代役だったというのです。嫌な仕事は本人ではなく、このクローンに任せるのが、当世芸能人の常識、皆、そんなもんだ、というオチでした。
※所謂リアリティ番組の人気、従来マスコミ、今時のネットを初めとして何が真の映像で何がフェイク映像か、特殊効果・撮影の技術の発達もあり、区別がつかない今の状況の映像・演出を風刺した作品でした。
では、次回は年明けです。皆さん、よいお年をお迎えください。
業務連絡:次回開催予定は12月21日(水)13時半から、次々回は二千二十三年1月11日(水)13時半からの実施予定です。
12月に入ったら一気に季節は冬になりました。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」。先ずは、前回読み残した、第十三作目。듀나(チュナ)외계 달패이의 무덤(カタツムリ異星人の墓)のオチを読みます。
オチと言いましたが、実はオチは無くて、寄生カタツムリ型エイリアンが消えてしまった主人公パク・チチョルの運命を作者は「原稿枚数が尽きた」からと描かずに終えてしまいました。※こういうオチのないショートショート作品もあるのです。
※ちなみに、このカタツムリ型エイリアンは、かつての米国SF作家、ロバート・A・ハインライン作「人形使い」というエイリアンによる地球侵略SFに登場する「ナメクジ型エイリアン」のパロディです。
さて、以前にもテキストに用いた昨年末創刊されたSF雑誌「The Earthian Tales」に掲載された、五人の作家の個性的な五つのSSを引き続き、一回一作のペースで一気に読んでいくつもりです。
今回の新作、当会通算、第十四作目、題してSS(ショートショート)=超短編小説五連発、の第二弾は、정이담(チョン・イダム)作「천사 머신(エンゼル・マシーン)」を読みます。
「エンゼル・マシーン」なる機械のセールストーク、」一人称語りで全編構成されています。
自殺したアイドルのデータを持ち込んだファンが、このデータプラスこの「エンゼル・マシーン」の制作企業が収集したデータで亡きアイドルのさらに理想化された姿=つまりエンゼル=天使として再現する機械のこと、らしいです。このエンゼルとは姿=偶像だけでなく、ユーザーと会話することも可能なのです。という宣伝とお試し体験、即契約、で終始した話ですが、その間に、バグが発生して、これが他の製品=天使にユーザーが持ち込んだ、悪趣味か悪意か、不快な対応をするデータが混戦したり、語り手のユーザーセールス担当とエンジニアの通信で、エンゼルマシーンを巡って意見の相違があるとうかがわせたのです。どうやらセールス=ユーザーが幸せな気持ちになればそれでいい、エンジニア=死者を弄んでいると対立があるらしい。これらは皆、現代のオンラインネットワークシステムを巡る様々な問題点を凝縮して風刺しているとも読めるのです。今回はここまで。では、次回、次のSS作品で。
業務連絡:次回開催予定は12月7日(水)13時半から、次々回は12月21日(水)13時半からの実施予定です。
朝から一日雨が本降りでした。小田急百貨店新宿店閉鎖でいかに同店エスカレーターに動線を頼っていたか痛感する今日この頃です。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十二作目、青少年向けの国語のテキストとして企画されたSFアンソロジー「国立尊厳保障センター」より원종우(ウォン・チョンウ)作「메멘토 모리, 죽음을 기억하라(メメントモリ、死を忘れるなかれ)」を読む第二回目です。
陽が暮れなずむ頃、老人の「私」の語りは続きます。潔癖症も対人恐怖症も副作用ではなかったのさ。せっかく手に入れた不老不死を手放したくなかった人間心理の当然の結果だったのだよ。
少女は問います「死んだらどうなるの」。私「もう誰にも分からない」。少女は帰る前に「ハラボジが正しいと願うわ」と言い残して去りました。
実は、不老不死の薬を発見発明したのはこの「私」だったのです。いずれ私だけが少女の質問の答えを得ることになる。永遠の安息と地獄の罰を受けることになるのだ、と詠嘆しながら、この小説も読了です。
続きまして、第十三作目。題してSS(ショートショート)=超短編小説五連発。以前にもテキストに用いた昨年末創刊されたSF雑誌「The Earthian Tales」に掲載された、五人の作家の個性的な五つのSSを次から次へ、一回一作のペースで一気に読んでいくつもりです。
その第一弾は듀나(チュナ)외계 달패이의 무덤(カタツムリ異星人の墓)を読みます。
このチュナ、は韓国ではマイナーなSF小説の中では別格、SFを読まなくてもチュナだけは知っているという位有名、日本で言えばかつての星新一、小松左京というところか、だそうです。しかもこの人の「売り」は覆面作家、女性ではないか、と推測されているだけで経歴年齢など一切秘密です。韓国のSF作家クラブ「韓国SF作家連帯」の第二代会長(現職)でもあります。
人類は、謎の寄生型エイリアン、名付けて「カタツムリ型異星人」に寄生されるとその脳を支配されています。しかし、この異星カタツムリ、宿主である地球人類が長生きしてくれないと自分達も生きられませんから彼らの持てる情報と、健康な肉体を宿主に提供して地球人類の階級階層の最上位に送り出します。故に地球人類は進んでこの「カタツムリ」に自分達とその子孫を提供するようになりました。
その宿主の一人となったパク・チチョルという男がいました。ところが突然彼の体から「カタツムリ」が消えてしまいます。これがバレたら一大事。彼の得た奨学金も高校の寄宿舎生活資格も全ての特権を剥奪されかねません。必死になってこれを隠そうとするのですが・・・というところで、またしても話の「オチ」まで読了できませんでした。という訳でまた次回へ。
業務連絡:次回開催予定は11月23日(水)13時半から、次々回は12月7日(水)13時半からの実施予定です。
朝晩の冷え込みがあれど昼間は暖かい日が続いています。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十二作目、青少年向けの国語のテキストとして企画されたSFアンソロジー「国立尊厳保障センター」より원종우(ウォン・チョンウ)作「메멘토 모리, 죽음을 기억하라(メメントモリ、死を忘れるなかれ)」を第一回目です。
ある晴れた暖かい日「私」は公園に出かけてウトウトしていると、少女が一人私の前に現れ好奇心にあふれた眼差しで私を見つめて、それを止めて母親らしき女が連れ戻そうとしていた。私が「イッピー」だから珍しかったのだろう。
そして後日、好奇心を抑えきれず少女は再び私の前に現れた。私は「イッピー」とは何か、どうしてイッピーと呼ばれるようになったかを少女に語り始めた。
この呼び名は「ヒッピー」から来た呼び名で、その反体制、反科学な生き方に類似するところがあると思われたのかもしれない。
昔、遺伝子工学による免疫疾患治療の研究から偶然、発明された「不老」の薬だった。それを注射すれば、人間は老化しなくなる、人類史上最大の発明とも称賛されるものだった。少女も成長期を終えて大人の体になったらこれを注射する筈だ。
しかし程なく奇妙な副作用が現れた、人間は外出したがらなくなったのだ。この原因は「潔癖症」と「対人恐怖症」だ。
人間は「老化」を克服してもそれが「死ぬ」要因の全てではない。病気、殺し合い、交通事故、獣害など多様だ。だからこれを避ける為に外出と他人との対面を避け始めたのだ。
だが、「私」のようなものもいた。この日差し、風、空気、緑の植物、虫をどうして怖がれる?。それにかつて人間には命がけの冒険心、愛の為に危険に向かう勇気があったのだ。少女は病院に検査に行く途中で、私のような「老人」を初めてみたのだった。
というところで、クライマックスは少女は、以上の「私という老人」の語りにどんな感想を述べるか、というところを残して次回へ続きます。ではまた。
「펠루아 이야기 a Tale of Felluah (フェルア物語)」18巻。김연주(キム・ヨンジュ)。鶴山文化社。17巻の記事はこちら。※既に連載は完結済みで、17巻と18巻が同時刊行されたのだが、まだ完結していない。
最初のエピソードはアシアスの子どもの頃、父と母が亡くなる時の思い出から始まるが、次は冬の夜アシアスが風邪をひいて寝込んだエピソード、そしてメインは城内で新年のお祝い行事として芝居をやるエピソードだった。親衛隊の面子も参加するがヒロインはオルテーズが演じる。しかし本来の筋書きでは悲劇のメロドラマのヒロインの筈がオルテーズがそうはいかない、とばかりにアドリブをかまして大暴れ、ハッピーエンドにしてしまったらしい。
※いよいよ19巻で完結だと思うが、最後まで全くこの展開の持ち味を伝える語学力、筆力のない自分の拙文が残念だ。
濱野京子が新境地を開いたのかもしれない。濱野の小説は直球勝負、読み始めればテーマは直ぐに分かり、展開はテーマに収束し、共感するものだったが、本書は、主人公の児童とその親は合理主義、というのは珍しいかもしれないが、一方で理不尽、非合理な校則とそれに抵抗する児童、空気読まない児童、マイペースな不登校児、血縁のない家族、今時の中学受験児童、星を見るのが好き、本好きの児童、懐かしい所では主人公に影響を及ぼす叔母さんetc.と現代社会を映す登場人物が次々と現れなかなか収束しない。クライマックスに至り、人生早い時期に寄り道回り道の重要性がテーマだったかとも思えるが、むしろ拡散、今風に言えば多様性の物語だったかとも思えた。
※私的には五十を過ぎて振り返って、勉強は必要だが、幼児から高校までの学校生活体験は不要だったな、同様な体験は他所でもできた、とつくづく思う。
業務連絡:次回開催予定は11月9日(水)13時半から、次々回は11月23日(水)13時半からの実施予定です。
朝晩の冷え込みが著しい季節となりました。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十一作目、今年発行された書き下ろしテーマアンソロジー、「ロケット発射アンソロジー」と何とも妙なテーマが銘打たれた一冊から、이산하(イ・サナ)作『재시작 버튼』(再起動ボタン)を読む、第五回目、完結に入りました。
最終節、何が何やら、二人の宇宙船は無事、任務を全うし地球に帰還しました。記者会見を待つ間、中尉は気絶している間に何が起きたのか少佐に問い、少佐は説明を始めます。
といっても少佐は何もしなかっただけ(何らかの意思は)二人が酸素不足と疲労で失神して何をできない状態になるのを待っていただけだ、というのです。結果的にケスラー中尉は全人類を救い、パレルモ少佐は二人の命を救った、としれーっというのでした。後は英雄二人の成功談話を待つ記者会見に臨むというところで、本編完結です。
そして、作者の言葉です。登場人物の名前は科学用語、その他のネーミングは作者の愛好したPCゲームの用語から持ってきて、作品そのものは韓国の開発した宇宙ロケット「ナロー号」の相次ぐ失敗と最後の成功の歴史に対するオマージュを意図して書かれたものだそうです。
というところで次作は、今年の春に出たばかりのSFアンソロジー「国立尊厳保障センター」より원종우(ウォン・チョンウ)作「메멘토 모리, 죽음을 기억하라(メメントモリ、死を忘れるなかれ)」を読んでいきますが、本日の所は作品そのものではなく、本の巻頭の編者の言葉、だけを読みました。このアンソロジーは、青少年向けの国語のテキストとして企画されたものだというのです。つまり日常の常識の境界を越えた想像力を駆使して世界を考える一助となることを願った、というのです。
と、いうところで今回はここまで、本編は次回をお楽しみに。
業務連絡:次回開催予定は10月26日(水)13時半から、次々回は11月9日(水)13時半からの実施予定です。
早いものでもう年末までのことを考える時節となりました。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十一作目、今年発行された書き下ろしテーマアンソロジー、「ロケット発射アンソロジー」と何とも妙なテーマが銘打たれた一冊から、이산하(イ・サナ)作『재시작 버튼』(再起動ボタン)を読む、第四回目に入りました。
AIによる自動制御で、エンジン4個の内、3個が壊れても4個全部故障しなければコントロールは手動にならないシステムです。パレルモ少佐とケスラー中尉の二人で何か打つ手があるかどうか。
ケスラー中尉にして見れば、墜落直前、エンジン4個すべて故障した瞬間に、自爆するしか手段はありません。パレルモ少佐がいう「ある意思」とやらが、自分達に違う方法を決断するのを期待して時間を後戻りさせているのなら、この自爆しかないのです。
すると、パレルモ少佐は中尉の上司である自分の仕事だ、まかせろ、と言い出しました。少佐は本気だと感じた中尉は、少佐に任せることにしました。その時は刻一刻と近づいています。しかし少佐は、一向に身構える気配もありません。
責めようとする中尉に、少佐は悪びれもせずに、自爆する前に、ある意思が何か始める迄、何も手を出さない状態を繰り返してみようと提案するのです。それで人類文明だけでなく、二人が無事、しかも新しい機会と経験が人類に伝えられるではないか、と。
しかし、中尉は、本当に「次の機会」時間の戻りが本当にこの後も繰り返される保障はあるか、と問います。案の定、少佐は「そこまでは考えていなかった」というので、中尉は、もう待ってはいられない、次に時間が戻ったら速攻でエンジンを爆破させようと決心します。
しかし、上手くいきませんでした、時間が戻った時、中尉は自分が思い通りに動けないことに気付きます。これは本文中にさりげなく伏線が張られていたのですが、船内の酸素量、何故か少佐のポケット内のキャラメル数は、戻ってはいなかったのです。つまり少佐より、興奮していた中尉は体内の酸素消費や疲労が重なり、先に体調が悪くなってしまったのです。中尉は気を失いました。
最終節、何が何やら、二人の宇宙船は無事、任務を全うし地球に帰還しました。記者会見を待つ間、中尉は気絶している間に何が起きたのか少佐に問い、少佐は説明を始めます。
というところで今回はここまで。次回こそ、最後のオチと作者の後書きを読んで、本テキストを終了し、新しいテキストに入りたいと思います。お楽しみに。
コロナ禍で突如、学校の休校が決定された年。中学校内の生徒達を中心に、教師、保護者ら、社会的背景の当惑、混乱の記録を端的に記述し、その象徴としての「マスク」とその中に人間らしい交流の再生の物語を描こうとして選ばれた「黒板」がタイトルとして組み合わされたと思われた。
※元々他人との交流、対話を好まないから、不織布マスクも苦にならない主人公というのは、私も似ているが、私の方は美術のように表現することは全くダメ。そしてチョークと黒板というものは「嫌な音」とまではいかないが苦手であれを使う時はどうも筆圧が入らない。
たった二年前のことでも過ぎてしまえば忘却は意外に早い。そこをこうして個々の立場から記録、記述しておくことは極めて重要だ。さらに創作を焦点を絞って導入し、世界を再生していく展開がこの作者らしく手際よくテンポよく広がっていく。さらに、さらに、主人公には再生ではなく新しい世界に新生の萌芽を感じさせるのが爽やかだ。
※この作者らしい、と言えば、伏線と謎解きというミステリの手法も用いられて読者に読ませる、という持ち味も抜かりない。
「おはなしSDGs」と銘打たれた叢書全18巻の第17巻。各巻にテーマが付されていて本書は「パートナーシップで目標を達成しよう」。短編と言ってもいい本文だが、テーマに沿った学習解説、グラフ・図表が収録されている。具体的には、最早悪名高い、私としては即刻廃止すべきと考えている技能実習生問題だ。本編では外国人就労者の苦悩と、少女のささやかな交流を描いた。
※私の持論は、今の日本では生産性、生産力を上げるには、在日外国人就労者に低賃金、単純労働をあてにしているようでは先はない。日本人が老いたこの国では、かねてからの政治参加無関心も合わせて、日本人は全て被介護者であることを想定し、高度技術労働のみならず福利厚生、行政も在日外国人に委託しなければやっていけない。
業務連絡:次回開催予定は10月12日(水)13時半から、次々回は10月26日(水)13時半からの実施予定です。
前回に続いて今日に限って、朝は涼しくなってきたのに日中の都心はガンガンに照りつけてきて、背中が焼けそうでした。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十一作目、今年発行された書き下ろしテーマアンソロジー、「ロケット発射アンソロジー」と何とも妙なテーマが銘打たれた一冊から、이산하(イ・サナ)作『재시작 버튼』(再始動ボタン)を読む、第三回目に入りました。
「墜落地点はヤルコフスク中央高地です」さて、これがどう「問題」なのか?、ケスラー中尉とパレルモ少佐の対話で説明されていきます。
ヤルコフスク中央高地には二人の属する「連邦」と対立する「共和国」の軍事施設が建てられている。スパイを通じた情報では共和国の自動化防御体系=マエルストロームシステムの核心部分がある。
それは連邦の核攻撃の兆候を感知すると、上層部が全滅してもシステムが自動で核兵器を連邦に向けて発射する。
両陣営死ぬのが嫌なら核兵器を使うな、という事。
つまり、そこに二人の搭乗する連邦のロケットが墜落したら共和国のシステムはこれを自分達への攻撃と判断して、核兵器を連邦に向けて発射するということ。自動的に両国間に核戦争が勃発する。
これは連邦の軍事機密なので連邦のロケットのシステムプログラムには、ヤルコフスク中央高地を墜落地点から外す条件は組み込まれていない。同ロケットシステムとしては、二人の搭乗者という最小限の犠牲で済むはずの場所に墜落しようとしている。
ここでパレルモ少佐は変なことを言い出します。
そんな事態を引き起こしてはならぬという「誰かの意思」が介在して私達に、この墜落前のたった4分間を繰り返させているのではないか。そうでもなければ、人類文明は前世紀にとっくに滅亡していたのではないか。
実際に同じ時間が繰り返されている変な事態に直面している以上、この仮説を荒唐無稽と切り捨てることはケスラー中尉にも出来ません。
しかし、パレルモ少佐に何か上手い回避策があるのか、と問うと答えは「それを今から二人で考えよう」でした。
ケスラー中尉は操縦席を調べて、せめて共和国に通信できないか、と思案しましたが、ロケットのフェイルセーフシステムは、エンジンが全壊しない限り搭乗者が介入できない仕組みでした。これも搭乗者が作業不可能になった事態を想定したシステムだったのです。
※この対話展開は、少々難しいのですが、「運命とは何か」という哲学的な考察に加えて、かつての東西冷戦体制=核の傘=抑止理論、現代の「システム」の種々のトラブル発生を前提とした危機回避対策の在り方を解説・風刺している場面でもあるようです。
さあ、二人の運命はこの世界の運命にまで拡大したところで、本日はここまで、続きはまた次回へ。
業務連絡:次回開催予定は9月28日(水)13時半から、次々回は10月12日(水)13時半からの実施予定です。
今日に限って、秋分の日も近いというのにまた都心はガンガンに照りつけてきて、暑くて熱中症になるかと思いました。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十一作目、今年発行された書き下ろしテーマアンソロジー、「ロケット発射アンソロジー」と何とも妙なテーマが銘打たれた一冊から、이산하(イ・サナ)作『재시작 버튼』(再始動ボタン)を読む、第二回目に入りました。
※ここで、思うところありタイトル役を「再始動ボタン」から「再起動ボタン」に変更します。
さてパレルモ少佐とケスラー中尉の搭乗する新型有人宇宙船「BMAX」は「6度目の地球への墜落」をし始めた時、二人は「繰り返される時間」の中に閉じ込められたことにようやく気付き、この事態について具体的に検討を始めます。
パレルモ少佐は、今回のプロジェクトの研究責任者なので「連邦軍」から形式的に「少佐」階級を付けられた人なので、このロケット「BMAX号」の実質的な操縦士はケスラー中尉なのです。
しかもこの少佐はシミュレーション訓練でも惨憺たる失敗を繰り返した、要注意人物でもあったようです。
今回のBMAX号の再突入計画の現状は、4個のメインエンジンのうち3個が故障、通信システム停止、従来のパラシュートに代わる最新の「反重力式慣性相殺装置」停止。
と、ここで少佐はポケットから何故かキャラメルを取り出して、中尉に放り投げました。少佐曰く「自由落下中なら、このキャラメルのように、ロケットを動かさねばならないが、まだそうではない。船外システムはダメでも、操縦席はまだ動いている。」
しかし中尉にして見れば、どうしようと操縦桿は動きません。中尉によれば「安全失敗システム」は正常に作動している。「このシステムがエンジンノズルの方向を固定している限り、我々が主体的に方向を変更することは出来ません」
この「安全失敗システム」とは、不測の事態が発生し、操縦士がコントロール不能に陥った、と判断したら、即時に独自に演算開始、最大多数の安全を優先した結論を固定、つまり今回の場合、二人の操縦士の犠牲で済み、地上の人々が助かる墜落地点への方向を決めると操縦士が介入を許さない仕組みだという訳です。さらに中尉は、このシステムが決定した墜落地点の座標から「さらに問題が増えました。墜落地点はヤルコフスク中央高地です」さて、これがどう「問題」なのか?、説明はまた次回へ、お楽しみに、と続きます。
業務連絡:次回開催予定は9月14日(水)13時半から、次々回は9月28日(水)13時半からの実施予定です。
今日に限って、また都心はガンガンに照りつけてきて、死ぬかと思いました。
では、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十作目、昨年末創刊されたSF雑誌「The Earthian Tales」に掲載されたシニカル(皮肉)なSF短編、심너울(シム・ノウル)作「공회전」(空回り)を読む第四回目、最終回、締めです。
主人公である「私」の期待は潰えました。この星の主は、超人工知性体を作り、「彼」の語る所では「特異点」=人間を超えた人口知性に、この惑星に文明と人間が住める環境を再現する、という使命を与えながら、ほぼ全滅。「彼」愛称=「思惟」はほぼ無限に考え続けているのです。
私は、この「思惟」の主は全滅した。あの惑星は、廃墟だ、と指摘すると「彼」は「私は無意味なのか、遅すぎたのか、私は『空回り』しているに過ぎなかったのか」と人間のように自問し、嘆きながらまた、シミュレーションを開始したのか、沈黙してしまいます。
これにて、完結。ですが、この話、実は遠い未来の異星人が、大滅亡した私達の太陽系第3惑星「地球」を訪れた話、と読み替えることも可能です。それがSFならではの読み方なのです。
続いては、今年発行された書き下ろしテーマアンソロジー、「ロケット発射アンソロジー」と何とも妙なテーマが銘打たれた一冊から、이산하(イ・サナ)作『재시작 버튼』(再始動ボタン)を読む、第一回目に入りました。
先ずはプロローグ、パレルモ少佐とケスラー中尉の搭乗する新型有人宇宙船「BMAX」は「五度目の地球への墜落」をし始めた時、二人は「繰り返される時間」の中に閉じ込められたことにようやく気付きました。
地球に再突入するためにエンジン点火するや、爆発音とともに約4分間、地球に向けて自由落下、地面に衝突した筈が、またエンジン点火前に戻っていることに気が付いたのです。
というところで本日はここまで。お判りでしょうか。このシレーっとした始まりの描写、SFならではの「運命とは何か」というテーマの表現方法なのです。哲学の運命論から、量子力学の確率論まで、固い話題となりがちなテーマが、この二人の登場人物の「ボケとツッコミ」漫才のような遣り取りでユーモラスに展開していきます、乞うご期待。
業務連絡:次回開催予定は8月31日(水)13時半から、次々回は9月14日(水)13時半からの実施予定です。
「幾らか涼しくなった」という会話が交わされていましたが、30度で涼しい、というのは昔なら考えられなかったものです。
さて、いつもの口上から。韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国の現代SF小説を教材に水曜開催でも「月曜会2」第十作目、昨年末創刊されたSF雑誌「The Earthian Tales」に掲載されたシニカル(皮肉)なSF短編、심너울(シム・ノウル)作「공회전」(空回り)を読む第三回目です。
ハディルア星系第3惑星の「月」=衛星に、この惑星の人類生存の可能性をかけて片道飛行をした主人公は、荒涼とした低重力の大地に立つ黒い碑石を発見します。これが、文明信号の発信源=熱エネルギーと情報、でした。
この記念碑が突然、人間の声を発して、「私」を誰何します。私のヘルメット内の通訳機が自動的に信号をキャッチして人語に変換して伝達したのです。※つまり衛星上には大気がないので音は伝わりません。
「声」は「私」にご主人様おかえりなさいませと。私はお役に立てますか。お役に立てず、ご主人様に放棄されたと考えていました。と繰り返します。
私は、この「声」がこの星の人類が碑石の下かどこかから碑石を通して、対話を仕掛けていると思ったのですが、対話を続けると「声」は「思惟」と名乗り、超古代のこの星の人類が作り出した人工知能、技術的特異点の化身、水素原子一個を構成する素粒子から銀河全体迄まで思惟するモノだと語りました。
「思惟」はこの惑星の人類を助ける方法を思惟し続けている、あなたが(この星の)人類でないのなら邪魔しないでくれと言い残して沈黙します。
私はあきらめきれず、帰還するためのワープドライブ装置の燃料を作ってもらいたい、協力してくれと頼むと、「思惟」はここに残っているモノで出来る筈だと即答しました。ここに希望を再度見出した私は、この星の人類はとっくに滅びているのに何故思惟を続けるのだと訴えますが「思惟」は私の使命は、灰色になって(汚染して)しまった母惑星の「青」を取り戻すことだ、その方法を考え続けているのだ、と回答します。
※つまり、この人工知能は融通が利かなくて、あなたを救うことは私の仕事ではないというのです。というところで次回へと続きます。ではまた。
「Tiara(ティアラ)」31巻。原作이윤희(イ・ユニ)。漫画카라(カラ)。ソウル文化社。30巻の記事はこちら。宮廷の宴は一転騒乱の場と化して、フェイが脱出しようと懸命に願うと、キスチェルの命と引き換えに死んだと思っていたシャンが現れた。本にもこの間の記憶がなく眠りから目覚めたような感覚らしい。そしてシャンは宮廷を丸ごと粉砕してしまった。無茶苦茶だが、この混乱でフェイとキスチェルは脱出。
すると今度は、人前に姿を見せなかった、アジェンド帝国現皇帝の娘、元オレン王国第一王女、現アルクリス王国上皇妃「エレクトラ」が現れて二人を逃がした、さらに宮廷を離れ年に出ると、今度は馬車でフェイの叔父であるサンホが二人を迎え入れた。エレクトラとサンホにつなぎを付けたのは、「エルセス・マイア(엘세스 마이아※フェイの実母、衛星都市キフレンの王女、アジェンド帝国下のオレン王国現女王)」だったのだ。彼らは一先ずエレクトラの私邸に匿われた。ここでエレクトラの「妹」がキスチェルの祖母だと聞かされた。
この時また、フェイのリューンの力が発動し、フェイは、エレクトラとその妹の対話を幻視する。
一方、アジェンド帝国皇帝には、リューン帝国がフェイロン王国に総攻撃を開始したという急報が入った。これも宴の事前に、エルセス・マイアが仕組み、サンホとアルクリス王国が黙認する形で準備していたのだ。
さらに皇族審判官エルフェルンはエレクトラが真実を寓話にして書いたと思われてきた「童話」の作者に、疑問を呈していた。エレクトラとその妹もアジェンド帝国の皇位継承権者としての儀式「アジェンドの涙」を受けているので、帝国のスキャンダルを煽る=不利益となるような思考と行動はとれない筈だ。同時期にフェイも先の幻視の内容から同様な推論をしていた。そして二人共、同じ結論に達する、童話の作者はエレクトラの妹、キスチェルの祖母、帝国の神官となった「エレノア」だと。エルフェルンとエルセス・マイアは、推論を続けてアジェンド皇族のエレノアが病弱で短命だったのはこの「アジェンドの涙」の帝国の為に、という規律を無理やり破った「副作用」だったのだと。
フェイは、決意した、一刻も早くアジェンド帝国を脱出してリューン帝国に戻る、という計画は遅らせる。このまま「真実」を隠したまま逃げれば、後悔する。「私は真実を明らかにする」。フェイの計画は、脱出する同日、アジェンド帝国皇帝は上皇会議を招集する予定だ。そこで自分が真実を明らかにすることだった。だが、これを盗み聞いてしまったエレクトラは「ならば、私はあなたの妨害をするしかない」※つまりアジェンドの涙の拘束力故だ。
※まだ物語は終わっていないが、クライマックスに向かっているのは明らかだ、いまや両帝国は両国の王族の混血であるヒロインの「フェイ」を中心として動き出している、フェイもまた両国の混血を巡る長い愛憎と争いに終止符を打つために自ら動き出そうとしている。
「펠루아 이야기 a Tale of Felluah (フェルア物語)」17巻。김연주(キム・ヨンジュ)。鶴山文化社。16巻の記事はこちら。既に連載は完結済みで、17巻と18巻が同時刊行されたのだが、まだ完結していない。
見つかってしまったイグレイン、それに親衛隊のノックスとジュルズの兄妹も加わって、ある夜の文学談義、実在する艶笑文学「デカメロン」についても語り合う。一見のんびりとした雰囲気で夜を描くのだがそこかしこに緊張感とユーモアを交互に展開し、これが結構なページ数を費やしている。それでもなお、アシアスの愛を乞うイグレインだったが、拒まれた。
そして、具体的な詳細は描かれなかったが、イグレインは出て行った。実に晴れ晴れとした笑顔を見せるオルテーズ。再び平穏な日々が明け暮れる姿が描かれる。
※いつものことだが、全くこの展開の持ち味を伝える語学力、筆力のない自分の拙文が残念だ。
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