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2010年7月19日 (月)

本感想:ヘヴンリープレイス(濱野京子)ポプラ社ノベルズ・エクスプレス8(絵:猫野ぺすか)

濱野京子は私にとって共感の作家だ。物語のそこかしこから共感を誘われる。

一気に読み終えた。シンプルで無駄なものは一切ない、リアルな物語だ。「老師」という呼び名に、作者得意の中国ネタが現れていてニヤリとしたが、遊びはここまで。
子供達を取り巻くリアルな現代社会の問題点に、子供達は子供達なりにその問題に向かい合う。ただし「老師」というホームレス青年の助けを借りて・・・。
空家に入り込んで最初は靴下の汚れが気になっていたのが、やがて平気になる感覚、分かる、というより久し振りに思い出した。いつの間にか気にしてばかりいるようになってしまったなあ。
オカリナの優しい音色、これは今も昔も変わらない。子供の頃自分で吹いたオカリナも、残業帰りに聴いた、ストリート演奏のオカリナも。
挿絵を描いた猫野ぺすかの版画絵がシンプルで普遍的で実にいい。
エピローグがそれぞれの旅立ちだけだったら予想通りだが、最後の最後で主人公が「兄」代りを引き受けてかつ、親友捜索の旅に出る決意をしてこれを実行する幕引きは素晴らしい。

これを読んで思い出したのだが、少し前の「ビッグイシュー」誌によると、現代イギリス(だったかな)のある地方では、空家をホームレス対策に利用しようと いうボランティア運動を行っている最中らしい。
今でいうホームレスに対する印象は、私は自分が失業者になって職探しを経験した後、確かに変わった。賢しらに彼らを十把一絡げに批判する言説は絶対に間違っている。
そして、大人にも子供にもいつの時代にも必ず、人間の価値は、いかにして挫折を乗り越えたかで決まる、と私は信じる。
この現代社会の落伍者のような人物が、真に子供達と付き合えるという物語は、いつの時代でも魅力的な構図だ。いや実際に誰の子供時代にも一人はそういう大人がいるものなのかもしれない。私はどうだったか?もう忘れてしまったが。
しかし私のような忘れてしまった親やその他の大人や子供にさへも、当人にとって魅力的な友達との交流は疑わしい、不安なものになりがちだ。どうして皆、自分の子供時代を忘れてしまうのだろう。不安を解消するには、子供を対象から引き離すことや「守る」ことではない、先ず相手と話し合えば分かりあえることなのに。あるいは今日の最大の問題はそこかもしれない、親の世代ですら直にコミュニケーションすることを避けて通っているのか?
リアルな物語を読んでしまったせいで、どうも本筋から離れて考え事をしてしまった。

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