本感想:竜の木の約束(濱野京子)あかね書房(絵・丹地陽子)
今年は濱野京子の新作が相次いでいる。当ブログもカテゴリーに「濱野京子」を作って整理した。11月にはさらに新刊が予定されているようだ。
いま時の小説家のように筆力を誇示するようなタイプではない作者の紡ぎだす言葉には簡潔だが重みがある。
さて、本作は児童文学者としてデビューする契機となった未発表作に加筆修正した作品だという。なるほど、この作者の原点という感じがして、シンプルで一点の無駄もない、という印象だった。町の地名も、デビュー作「天下無敵のお嬢さま!」シリーズ(フォア文庫。挿絵が、こうの文代というすぐれもの)と同じ(というよりこっちが先なのか)。それが児童文学の老舗からこうして出た。
友達なんか面倒くさいからいらない。だから学校生活でも色々気を使い彼らなりの処世術を駆使するそんな主人公は、決して特異でも珍しい存在でもないと思う。でも、否応なく友達関係には巻き込まれていく。そして友人、というより一方的に友人関係を押しつけて来る少女の心の病に直面して、主人公もまた変わる。
濱野京子は、私にとっては、いつも、共感の作家と書いてきたが、読了してみると今回も同様だった。読んでいる間はいかにも初期作品らしいストレートさだと感じていたが、読み終えて振り返ると我ながら驚いたが、私も中年になってからこのヒロインと同様の体験をした、心の病にかかった人に直面したのだ。断わっておくがこの作品自体は、心の病をテーマとした作品ではなく、あくまで少女の心の成長を描いた正統派の小説だ。でも、主人公同様、そこで私は立ち尽くし、いらだち、反省し、自分のこととして行動しなければならないことを知った。
さらに、例によって、個人的に印象的だったポイントを一つ、台湾の先住民族、少数民族、というと私は、ある出版社社長を思い出す。「おれはもっと売れない本を出すんだ」そういってニヤリと笑い、その後も、言葉通りの仕事を続け、そのひとつに確か台湾先住民族文学全集という叢書もあった筈だ。
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