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2024年3月

2024年3月27日 (水)

#곽재식(カク・ジェシク)「춘향가를 가장 재미있게 듣는 법(春香歌を一番面白く聴く方法)」を読む #韓国の現代SF小説

Photo_20240327182001業務連絡:次回は四月十日(水)午後一時半からです。前日までの雨は止み、快晴で気温も上がって幸いでした。今回からのテキストは「판소리 에스에프 다섯 마당(パンソリSF五話)」というSF小説アンソロジーより一篇、곽재식(カク・ジェシク)「춘향가를 가장 재미있게 듣는 법(春香歌を一番面白く聴く方法)」を読んでいきます。
外勤営業担当員のほとんどがロボットの時代。ロボットのいいところは、いくら歩き回って門前払いを食らっても、倦怠感に陥ることがないからだ。そんな時代でも、古過ぎ、入り組みすぎで整理されず、狭すぎで、インターネットで管理できず、ロボットも入っていけないような街区のある事務所の「私」の所に「イ次長」が急な仕事を持ち込んできます。『公教育からパンソリの代表的な一曲「春香(チュニャン)歌」を外してはならない』というデモがかなり大規模に教育庁前で行われている。何故そんな奇妙な抗議運動が?というテーマで各種メディアに売り込むドキュメンタリー映像を急いで作れというのです。
デモ参加者に取材してみると「没入鑑賞プログラム」で聴く「春香歌」を公教育から外してはならない。某組織がパンソリは非教育的前近代的だからと排除しようとしているのを阻止するんだ、とかいっていますが、陰謀論であてにならないし、そもそもパンソリにこだわる積極的な理由もない、という訳で要領を得ない、しかし、かえって「私」の関心をひいて取材する気になったのです。というところで後半に続きます。ここまでの展開は全くのミスリーディング、作者が読者を煙に巻いています。唯一の伏線「没入鑑賞プログラム」とは何なのか?で後半一気にSF展開と謎解きが進んで行きます。というところで次回へ。

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2024年3月21日 (木)

#韓国の漫画 #韓国純情漫画( #순정만화 )感想:最近読んだ原書あれこれ(20240321)

5_20240319225501 「회랑식 중정(回廊式中庭)」5巻。김연주(キム・ヨンジュ)。大元CI社。4巻の記事はこちら
モノローグ『存在自体が波紋になる人がいる』『ミソクが始めて来た日、館には明らかに波紋が起きた』
レヒ(若旦那)の紹介で女高普(女子高等普通学校)の「高女生」ミソク(セデク)が館で働くことになった。但し昼間の学校が引けてからのみの通いの使用人だ。他の住み込みの使用人達からすると、金持ちが通うと思っていた女高普に通うだけの稼ぎが半日の通い仕事の給料で得られるのか疑問でもあった。
そして初日からミソクは館のチェヒ、レヒ、セヒそしてユンの気持ちに波風を起こしていく。だが、あくまでメインとなるのはチェヒ、レヒ、セヒとユンを巡るやり取りだ。
一方でセヒを誘いに来たカウォン(チェヒの婚約者)にセヒはチェヒをどう思っているのか尋ねると「彼は私にとって十分に魅力的な男よ。お金持ちで朝鮮人だからそれで充分よ。心配しないでセヒ、私はチョンアのようにはならない」※チョンアとは、チェヒの自殺した夫人のことらしい。
またセヒは誰かのことを回想する。『お嬢さん、私、父さんが学校に行くのを許してくれたの。明日から一緒に学校に行こう』※この女性が誰かわからない。
 そこで、また新しい謎場面が。夜、ミソクが自室で「先生」と呼ぶ男と話しているのだが、その男はミソクを「ウギョン」と呼んでいる。※また名前が増えた。そして館での一日のことを話し合っている。そして男「くれぐれも無茶はするなよ」ミソク「もちろんです。私も自分の命は大事です」
 ユンはセヒに突然妙なことを言い出す「私が大旦那(チェヒ)様を殺してあげましょうか」「お嬢様は金を用意してくれればいい。オレは朝鮮を離れます。うんざりする朝鮮」そしてモノローグ「一番うんざりするのは自分の人生がいくら考えても自分のものでないってこと」
そして後記の作者の解説を拙訳してみる。
『当時一人で生きる男性や男性同居人集団は、日帝に疑われたり密告を受けやすかったのです。
だから男性独立運動家達は意気投合する女性を求め夫婦を偽装し共に生きる場合が多かったのです。日帝の手配令で外部活動が容易くない男性革命家の代わりになって連絡を担当した、この女性達をアジトキーパーといいます。
世相を考えれば、家事を請け負っていたのですね。
一つ屋根の下で夫婦を偽装してみると当事者が実際に夫婦のような関係に発展することもありました。こうして恋人として夫婦として完成した者達もいた反面、元々円満な家庭を夢見辛い環境だったので、結果的に未婚の母になって独立運動者の記録から消えた女性も多かったのです』
※この後記を読んで振り返ると、ミソクと「先生」の対話場面が意味しているのは、ミソクは独立運動家である「先生」の同志として、親日派富者の館に密偵として潜入したのかもしれない。

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2024年3月11日 (月)

本感想: #となりのきみのクライシス #濱野京子 作 #トミイマサコ 絵 #さ・え・ら書房

Photo_20240311202001「となりのきみのクライシス」濱野京子:作。トミイマサコ:絵。さ・え・ら書房。本書の主題である子供の権利、を考えると私が先ず想起するのは、日頃の持論「昭和に我々が捨てた、あるいは捨てたと思い込んでいた権威が平成・令和を通じて復活してしまったのではないか」「現代社会は若い母親に精神的にも肉体的にも負担をかけることばかりやっている」だ。
それは不況が長引き「貧すれば鈍す」余裕を失った男達が自信を喪失し、縋りついたのが古い「権威」なのではないか。権威をかざす先、権威の行き着く先は弱者=女性と子供ではないのか。
さして長くもない物語、大きな活字の本、何ら読みにくいところない文体でありながら、いつものことながら濱野京子の世界は、一気には読めない、途中で本を伏せ「今」をあるいは「かつての自分」を振り返らざるを得ない。
物語は小学六年生の子供達が次から次へと危険に見舞われる、だが展開は大げさでも不自然でもない、その一人一人の件が、目を背けてはならない、今この時も日常に潜む現実の不安、不穏、危機だ。

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2024年3月10日 (日)

#韓国の漫画 #韓国純情漫画( #순정만화 )感想:最近読んだ原書あれこれ(20240310)※韓国漫画現役連載最長作品?

Rure38「RURE(루어)」38巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。37巻の記事はこちら。本の帯カバーには引き続き「深淵(심연)」とある。
 「空虚」がタマルに語る。ハルが望んだことだ。しかし私ではなくタマルが失敗したのだと。
 ここからタマルの長い回想に入る。母ヌハランは戦に明け暮れタマルを愛そうとはしなかった。成長した彼は自分の未来視の力を恐れ出奔、傭兵クヤとなる。そしてシン・ハルと出会い愛するようになると、彼女の未来が見えないことに恐怖した。

 そして理解した。ヌハランも父カナスもタマルとの未来が見えることに絶望したのだ。
 そうなりたくなかったタマルはハルを地球に置き去りにした。だからタマルはハルが追いかけてきた時、自分は間違っていた。そして幸せになれると思ったのだ。
 だがそれも北方の大国ワン・ウィライの大神女、シン・ミョンファとの邂逅までだった。大神女はルアーであり、だからルアーの血を引くファイル王家のものに好意的だったのだ。ルアーだと思っていたハルが、そうではないと判って状況は一転した。
 そして今「空虚」はタマルに選択を迫る。ハルと共にこの世界「深淵」の礎となるか、ハルをここに残してタマルはファイルに戻るか、と。
 だがタマルはハルを生かし、かつファイルに戻る方法を探す決意をし、ハルのかけらと同化し「空虚」の世界に抵抗し続けているのだ。「空虚」は彼と同化が必要であり、タマルは本物のハルを見つけたい。この世界「深淵」は二人(?)の戦場であり敗者は魂を失う。
 助力を乞うタマルに軽い嫉妬を覚えつつも、彼を連れ戻しに来たミルは協力を約束した。

 ここは全てが「設定」で動いている。設定が少々変わりタマルはハルの恋人ハベクそしてハルはハル、そこにミルが加わった。ハルによれば人物毎に「設定値」に差があり、設定を変えようとすれば妨害を受ける。これを幾度も繰り返してきた。核心地点に近づく程妨害は強くなる、だがハルはミルにまだ全ては明かせない、ここでは「ミルは、貴方が初めてではない」、と謎の言葉を告げる。
 一方、ミルが「深淵」に没入する際に現れたミルの精霊(?)「イクサイク」は「深淵」の街の中を少女の姿でさまよっていた。そこでもう一人の「ミル」に出会う。そのミルは傷(?)だらけで記憶を失っていた。
※このイクサイクについては私は記憶がない。あるいは、ハルの幻獣でミルに付きまとっていた奴だったかもしれないよくわからない。
 そして、ハル、ミル、ハベクは「深淵」の街の中を旅していく。核心の地であるトンネルに入っていくと、いきなり三人はお互いを見失い、各々不明な場所に立ち尽くす。
というところで、続く。
※この「深淵」篇はSFでいう所のインナースペース(内宇宙)もののようだ。

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2024年3月 6日 (水)

#해도연 (ヘ・トヨン)「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読むその5 #韓国の現代SF小説

業務連絡:次回は三月二十七日(水)午後一時半からです。
雨は午後には上がり、寒さも温みました。さて、いつもの口上から、史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした、月曜会2。
さて、四度前提を記述します。かつて当会で読んだ、해도연 (ヘ・トヨン)作「위그드라실의 여신들(ユグドラシル=世界樹=の女神達」という、木星の衛星エウロパを中心とした、本格宇宙SF小説が、先頃、当時とは別の出版社から復刊されまして、その際に、書き下ろしで、その前日談、サイドストーリー、後日談の3場面で構成された短編が収録されました。そこで、この作品「여담, 혹은 이어지는 이야기(余談、もしくは続きの話)」を読んでいきます「第五回」です。
三番目のエピソード「待つ者たちの博物館」の続きです。
様々な思い出の人との縁の記憶とその印となる物件を保存した、という奇妙な博物館です。ここでマヤ・ベル・パーネル博士は晩年を過ごしたというのです。地球人が再び宇宙へ旅立つ日を切望しながら。そして博士がこの博物館に残した物件は、正方形の立体でした。
これが前世紀の人工知能(AI)「アーサー」です。よく見ればアーサーは数本のケーブルで外部の何かと接続し、その他の装備を見ると、リリャーナは言いませんでしたが、作動している、つまり遺物の展示ではないことをうかがわせています。その用途は、マヤは、そこに現代の法では禁じられている技術が用いられているのではないか、と気が付くのです。
※SF慣れした読者なら、マヤ・ベル・パーネル博士の遺志で、リリャーナはAI「アーサー」の中で博士を生かせているのではないか、と想起するのです。
リリャーナは、さらに、自分と博士の特有な関係を明かします。リリャーナは、二人の母親から遺伝子操作技術で生まれたのですが、遺伝子の一部に欠陥が発見されました。これを治療するには、宇宙生まれの人間の遺伝子が必要であることが判明しました。博士は当時たった一人生き残っていた、木星の衛星エウロパで生まれた人間だったのです。そこでリリャーナの遺伝子の1.4%の欠陥部分を除去して博士の遺伝子の一部を移植したのです。リリャーナはマヤに展示室を出て食事に行こう、いい店を知っていると誘います。その店の名刺は、大きな木が一本とウルズ、ベルダンディ、スクルドの北欧神話の三女神の絵が描かれていました。
以上で、本編は終了です。次回からは新しい作品をテキストに使います。では、また次回へ。

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#韓国の漫画 #韓国純情漫画( #순정만화 )感想:最近読んだ原書あれこれ(20240306)※韓国漫画現役連載最長作品?

Rure37「RURE(루어)」37巻。서문다미(ソ・ムンダミ)。鶴山文化社。36巻の記事はこちら。本の帯カバーには「深淵(심연)」とある。
 ミュールゲンは、翅族の村の洞窟に潜み相当な勢力を築き、やがてファイル王国への復帰を狙う。王子としての正統性は、第一王子アサハが認めてくれた。そして現在に至る。アサハはタマル王子もミュールゲンも可愛がっていたので、このような王族内の対立に苦悩していた。
 ここでタマルの軍師ヒルデールの回想はいったん終わる。
 するとシン・ミルが改めて問う。ミュールゲンは天空城を復活させて何をするつもりか。
 ※ここで、ミュールゲンの語りが挿入される。
 翅族の最盛期とは『大災厄の時代だ。』
『考えてみろ。実験一つで世界の全てを覆してしまった。ルディムナー全体が滅亡一歩手前まで行ったのだぞ。なのに肝心の天空城は無事だった。滅亡を呼べるのに滅亡を乗り越える。こんな大きな力を文明と言えるのか。世界の命運を左右できるなら、もはや神、そのものではないか。』
 聞いた瞬間ミルは悟った。ルディムナーと地球、どちらかを選ばねばならぬ。※そう悟った理由はまだ不明。
 ミルは魂の戦場という開かずの間に入る。普通の人間なら魂が飛んで行く所。ここを利用して「空虚」とタマルの深層意識に侵入しようというのだ。
 ミルは「空虚」とタマルが作り出した世界「深淵」に飛び込んだ。そこは地球でタマルとシン・ハルが暮らす世界だった。だがミルはここでは、見た目のタマルが「空虚」で見た目のハルがタマルであることを見抜いた。だがタマルは自分の中にハルの命のカケラが本当にあると言うのだ。
 だが今のハルは自分で命の力を使えない。ハルの命は帰りたいと願った、だが、クヤ(=タマルの昔の仮名、以降ずっとハルはいつもタマルをクヤと呼び続けていた)は自分を地球の故郷の島に残してルディムナーに帰還し、しかもハルの真の正体を秘密にして、さら記憶も奪っていった。ハルの深層心理には、タマルに対して裏切られた感が残り、実体を再生できず目覚めない。
 ハルの体を通じて肉体を得た「空虚」は更にハルの体をモデルにルアーの力の如き命の創造、「神体」を作り出した。だが誕生は出来たが維持、はまだ出来ない。「空虚」がタマルに語る。ハルが望んだことだ。しかし私ではなくタマルが失敗したのだと。
※ここで、同時発売の38巻に続く。
※最早、韓国の漫画で、現役連載最長ではないかと思われる、大長編SFファンタジーと言っていい本書はいまだ終わりそうにはない。繰り返すが、内容だけでない、韓国漫画出版マーケットの中で今後どのような位置づけとなるのか、も注目している。

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