#吉田とし という #児童・青春小説 家がいた その26「#潮がくるとき」#集英社
「潮がくるとき」吉田とし著。初版は1971年集英社刊行だが、初出は1970年中にやはり十代向け文芸誌に連載したものらしい。わたしの手元にあるのは、やはり集英社コバルト文庫版で昭和51年12月10日初版発行、とある。
御前崎から静岡市内に引っ越し、市内の高校に合格、入学したばかりの、速水暁子(はやみあきこ)の一年弱を描く。
愛と性をテーマとしたシリアスな物語をテンポの良い文体で一気に読ませるのは、この作者の持ち味。
本作では、主人公暁子が中学時代の27歳の恩師から愛を告白されるし、暁子も同じ気持ちだが、この先生に、6月から一年間会わずに過ごしてお互いの気持ちが変わらないか、確かめ合おうという提案を受ける、というやや特異なシチュエーションだった。
結果的には、高校生活を始めた暁子が新しい出会いを経験し、一年を待たずして恩師への思慕が徐々に冷め別れるのだが、学校生活、その他の登場人物、季節の変化、行事など舞台背景の描写も長さの割にはやや物足りなかった。
※「その21」からここまで、ざっと満6年ぶりに、「吉田とし」の青春(ジュニア)小説中心に記事を集中して書いてみた。十代の愛と性についてのテーマを真摯に語り、しかも1970年前後の、極めて多作な筆力にはあらためて驚かされた。だが不遜ながら私なりに、この作者の持ち味は愛と性について語るだけでなく、暮らし、季節感、自然、脇役、社会、政治など、一年間の舞台背景の動的な変化も巧みにテンポよく時にユーモラスに挿入される時に真骨頂を発揮する、とも思った。そういう意味では「吉田とし」はエンターテイナーだ。さらに個人的には私はやはり「吉田とし」の児童文学の方が好きだ、と再自覚した。
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