カテゴリー「上橋菜穂子」の記事

2022年4月24日 (日)

#本感想:#香君(こうくん)#上橋菜穂子(文藝春秋)

いつも思うところだが、上橋菜穂子の世界に永遠の王国はない。王国の黄昏、斜陽の王国であり、王国の変革の予感だ。その要因は内とは限らない、外的要因も大きく、政体の変革は、人心、個々人の内面心理の変化もまた促していく。
 今回の本書は、タイトルから連想するように匂い、嗅覚だが、それもあらゆる生物の発する匂い。前作「鹿の王」のウイルスにも劣らず、やっかな代物だ。匂いを記録、保存、伝達、分析する困難さに人々は直面する。
 しかし、本書は嗅覚に留まらず、植物と虫のネットワークという、さらに広大な世界が人間の世界を侵食する。稲を始めとする品種改良は人類の生存拡大に貢献してきた。それでもさらに、植物と虫の生態は人間の世界を未知の要因で侵食している。
※ここで上橋菜穂子の世界は、現在世界で進行するコロナ禍でワクチンが開発されたと思うと早速、新株、亜種が増殖する様相と驚くべきシンクロを見せる。
 物語は、主人公の類まれな嗅覚を介して、植物と虫と人間の捉え難いネットワークの相関関係を絶妙のバランスでつないでダイナミックに展開していく巧さが輝る。
※さらに、本作は、まだ周辺諸国の動きが明確にされていない、従来の上橋菜穂子の物語世界の政治描写から考えても、さらにシリーズ展開が期待できる。

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2018年11月25日 (日)

本感想:「#風と行く者」#上橋菜穂子 作 #佐竹美保 偕成社

Kazetoyukumono上橋菜穂子の守り人シリーズ外伝の新刊長編。バルサ16歳とジグロ、ロタ王国の氏族の対立、少数民族サダン・タラム<風の楽人>を巡る因縁が二十年後に再び甦る鎮魂の物語。
いつものことながらエキゾチックな旅と冒険の物語の筆致が冴えわたる。決してケレン味があるわけでもない、むしろ簡潔な文体が精彩を放つ。今回はさらに旅の楽師、しかもこのシリーズだからただの旅芸人ではなく、一夜の恋と遊びで子供を成す、父親不在?のコミュニティが興味深い。
そして読み進むにつれて、またしても歴史の真実を巡る愛憎と葛藤。常に読者であるこちらの現実の歴史を巡る世界の対立と愛憎が交錯して物語世界に耽溺は許されず、心穏やかではいられなくなる。但しこれも、いうまでもなく上橋菜穂子の魅力、異世界の幻想物語が現実を挑発するのだ。
そして、この非常に難しい決着に、二つに一つを選んで犠牲者を出したりしない。二十年前のジグロ、現在のバルサといういずれも「よそ者」が介入し妥協点、解決策を見出すのだ。しかも真実に蓋をしない、現実状況を固定しないのも小気味いいし、対立を融和に変えて新しい世界の交流と発展を期待させるのが感動的だ。

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2018年1月27日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第9回「旅立ち」(20180127)

3年越しの大作ドラマ、原作派としては絶賛とまではいかないが、異世界ファンタジードラマのノウハウがないNHKが試行錯誤の連続で本家NHK大河ドラマよりも頑張ったのだけは認める(と上から目線)。それでも、「わからない」とか「韓流ドラマみたい云々」なんて思考ゼロなツイートに与する気は全くないが。
原作に至高のイメージをしていた私には、特撮やセット、衣装の粗ばかりが目についたが、卑怯な(笑)NHKはサイトに、上橋菜穂子先生の称賛コメントを掲載、リンクして、原作ファンは原作者を盾に取られた感があるので、色々言い辛いが(笑)、最大限健闘した、とほめておこう(と、最後まで上から目線でした)。まとめると、小説のドラマ化にあたる構成の脚色は、成程こうなるのか=昔からよく言うことだが、小説がイメージの拡散に対して、ドラマはイメージの収束。視線を集約させるところがポイントなんだなということは原作が大作だけによくわかった。さらに意地悪く言うなら、腐ってもNHK、為政者を様式美で引き立てない、あくまで俗物ぞろい=ある意味で「人間臭く」演出したことには「らしさ」がでていた。(あくまで最後まで上から目線で締めようか)

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2018年1月20日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第8回「神なき世界」(20180120)

「神なき世界」このサブタイトルは結構いいと思う。『守り人』の世界には、確かに神はいない、しかしナユグという異界が厳然と存在する。そして今回は最終回の一回手前、文字通り、人間世界のドラマだけ。「王国」の政治体制と「為政者」の世代交代が両軸となった人間臭いドラマが展開した。そこに、ラストに綾瀬バルサの「戦遊び」のツッコミが突き刺さる。セリフの頭に「男の」を入れてもいいと私は思う。
ヒュウゴの鈴木亮平の異民族振りはメークだけの力ではないな。異民族の軍師らしい緊張感、ず太さ、賢明さを醸し出す役作りは圧巻。
対して為政者のエキセントリックさはヨゴ国帝の藤原竜也に代表されているが、人気のラウル王子役の方も、基本は新興の専制王国の強権主義の力とふてぶてしさの筈だが、意外に裏に線の細さを秘めている雰囲気も裏読みできるかも?というのはうがち過ぎか。
チャグムは今回は人間として汚れた、たくましく成長した「若い王子」の姿を見せたが、残り一回で「平和外交」で時代と政治体制の転換期に心を砕く姿を表現できるか、そこに加えてナユグという「異界の豊穣」と「俗世の天災」のせめぎ合いが十分表現できるか、期待より不安が残る。

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2018年1月13日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第7回「傷だらけの再会」(20180113)

諸々の感想吹っ飛ばしてインパクトがあったのは鳴り物入りの特撮ではなかった。顔を見せないタルシュ兵の中で、ただ一人顔を見せた六平直政だったという演出だった。 タンダのけがを原作の腕から足に何故変更したのか、と思っていたが、この足切断と手伝いシーンを盛り上げるためだったのか。 嫌な言い方だけど、腕より視覚的に、切迫感と多人数の手伝いの説得力があった。タルシュ兵のマスクが新時代の戦の非人間性を現していたのに対して、独りだけ顔を晒したタルシュ兵がその強さと優しさの人間性をクローズアップした。 逆に狂気を露呈させていくばかりのヨゴの帝が滅びゆく古王国と王権神授国家のシステムを代表していく。 他にタンダ役の東出昌大の演技というより天然ボケっぷりが、戦で心も体も傷ついて、それと引き替えにやっとバルサを得るという切なさが悲劇性を増す。 やはりNHKドラマは戦争の為政者と庶民の対照を強調している。

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2018年1月 6日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第6回「戦下の別れ」(20180106)

今回はタラノ平野の最前戦の泥臭くて生々しい絶望感と砦の戦の特撮が圧巻。その中でタンダが少年を必死にかばうシーンに焦点を当てるのが、痛々しい緊迫感と厭戦感を醸し出すのがいい。
前に戻って歌うトトの米良美一の「闇」篇と変わらぬ、アニミズム的ファンタジー世界のリアリティが超満点。
逆に女性視聴者大騒ぎのイーハン王役のディーンフジオカだけ、相変わらず物語に馴染んでない気がしてるんだがなあ。
ガカイの小者振りが相変わらずだなあ。実際の近代史においてもこういう内向き官吏が王権神授的国家の黄昏をもたらしたんだろうな。
カッコいいという評価も多い、ラウル王子の食卓の上歩きは、下品で私は買えない。
古き王国ヨゴの帝の末期症状のエキセントリックさに磨きがかかり古き王国の断末魔が象徴されている。
チャグム王子がバルサとの別れで、片目から一滴大粒の涙がボロッと落ちた演技は素晴らしかった。

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2017年12月23日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第5回「「槍(やり)舞い」(20171223)

こうしてみるとログサム王は卑怯なエボシ太夫(もののけ姫)だ。神殺しをバルサに負わせようとしたわけだ。但し彼も、来るべき強権主義・専制君主制に対応すべく王権神授国に終止符を打とうとしたのだ。米良美一さんのトトが出ると、やはりNHKの特撮より異世界リアリティが増すのは如何ともしがたい。セットや撮影はずいぶんよくなったが、小道具と合成は相変わらず玩具っぽく、嘘っぽい。
しかし、シリーズ構成として、「闇」を後ろに回したのは良かった。バルサの遍歴を描いた上で、成長した彼女が己のアイデンティティに向かい合ったので共感を得られた。
誰を恨むか、私か運命か、愛していたのは誰か、、人はこうした問いを度々発するが、共感はするが、同時になかなか納得のいく答えを得られないものだ、しかし、それは己の心がけ一つだと、これは残された生者の生き方次第だというのは納得のいく答えだ。槍舞いもそうだが、結局、弔いは死者ではない、残された生者の為にあるのだ。
他には、綾瀬バルサの殺陣は腰が入って素晴らしいし、吉川晃司との槍舞いは様式美といい、スピード感といい、やはり素晴らしかった。

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2017年12月16日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第4回 ログサムの野望」(20171216)

あらためて思うのは、ナユグという異界が見える少数と人間の世界しか見えない多数で、政治に対する姿勢が異なる、という対照(対等ではないので厳密には異なるが)。
さて、冒頭は久し振りにタルシュ帝国からヒュウガの鈴木亮平の出番が多いし、メイクも異国感がいいねえ。対峙する嶋田久作は芝居を超えた怪人振り(笑)が相応しいので思わず笑っちゃう。にしてもこの二人は芝居が、役者が違うなあ。
但し、やはりタルシュ帝国の衣装は生地の所為かなあ、競馬の騎手みたいで安っぽく見えるんだよなあ。
鹿賀丈史の聖導師さまは、やはり「料理の鉄人」を彷彿とさせるのがまずいよなあ。これまた笑っちゃうのは本人の所為じゃない。
対するというより一蓮托生の帝の藤原竜也はもう線の細さからくるエキセントリックさ極まれりで古き国の黄昏に相応しい。
ログサムは野心家だが、間違っちゃいけないのはいわゆる悪人とは異なる(悪いことしてるけどさ)。貧しく弱い国を強化するのはこの俺だ、という野望は、権謀術数で既得権益を狙う官吏とは異なるということだ。そうしなければ、来る強権主義国家の専制時代にはカンバル国は生き残れない。だからバルサという武人に、自分に変わり山の王という「神殺し」をさせようとしているのだ。
これと対照しているの上述したように、ログサムの倅はナユグが見えるから、父の独裁をとめようとしているのだ。人同士が争っている場合ではない時が来るのが不安だからだ。
後半は渡辺いっけいの独壇場か。バルサとの槍舞いのプレリュードと、幕引きのクライマックスは、これほど懐の深い役者とは驚いた。綾瀬バルサには、ますます期待が高まって来た。

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2017年12月 9日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第3回 ルイシャ贈り」(20171209)

武田鉄矢っていうのは昔から何をやっても「武田鉄矢」だねえ(笑)。原作の構成と登場人物を絞り込んだことで、世界政治の為政者と関わったこととその変化に直面して、ジグロという他人の気持ちに「共感」し、己の復讐心の狭量さに思い至るバルサの心境の変化とアイデンティティの成長が、分かりやすくなっていた。その上でログサム王が迫る、嘘をついているのはどっちだと問う「悪魔の選択」は同時にバルサの試練。

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2017年12月 2日 (土)

テレビドラマ感想:NHK「#精霊の守り人 最終章 第2回 カンバルの闇」(20171202)

結論は「トト」こそリアリティだった!。
前半は、中村獅童のカンバルのログサム王の冷酷非情振りが目玉かと思ったが違った。インパクトでは実は「米良美一」さんだったのだ。これまでのこのドラマは異世界ファンタジーのリアリティを醸し出す特撮に四苦八苦、紆余曲折、試行錯誤etc.の連続で。
しかもネタバレになるが、この異世界はこれで完結・完成した世界ではなく、さらに隣り合わせに人間の世界でない異界が現存している世界なのだ。
ところが第一部では、この異界の魔物が正体を現したとたんに特撮が怪獣映画のようになってしまい、第二部では特撮は大分違和感がなくなったが、考えてみると、アスラの魔力以外に露骨な異界の出番がなかったのだ。
だが、今回はそうはいかない筈だ。早くもルイシャ自体、正直言えば東急ハンズで買ってきたのか、とツッコミたくなった。それが、米良美一さんのトトが出てきたら、失礼ながら普段なら同氏の存在自体リアリティを感じられない存在だが、それが異世界の中で異界を伝える「トト」になったら驚くべき違和感のなさ、伝える言葉にリアリティが付いてきた。もしかしたらこの大河ファンタジーのリアリティは「米良美一」によって達成されるのかもしれない、と当たらない予想をしておこう。

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