#本感想:#香君(こうくん)#上橋菜穂子(文藝春秋)
いつも思うところだが、上橋菜穂子の世界に永遠の王国はない。王国の黄昏、斜陽の王国であり、王国の変革の予感だ。その要因は内とは限らない、外的要因も大きく、政体の変革は、人心、個々人の内面心理の変化もまた促していく。
今回の本書は、タイトルから連想するように匂い、嗅覚だが、それもあらゆる生物の発する匂い。前作「鹿の王」のウイルスにも劣らず、やっかな代物だ。匂いを記録、保存、伝達、分析する困難さに人々は直面する。
しかし、本書は嗅覚に留まらず、植物と虫のネットワークという、さらに広大な世界が人間の世界を侵食する。稲を始めとする品種改良は人類の生存拡大に貢献してきた。それでもさらに、植物と虫の生態は人間の世界を未知の要因で侵食している。
※ここで上橋菜穂子の世界は、現在世界で進行するコロナ禍でワクチンが開発されたと思うと早速、新株、亜種が増殖する様相と驚くべきシンクロを見せる。
物語は、主人公の類まれな嗅覚を介して、植物と虫と人間の捉え難いネットワークの相関関係を絶妙のバランスでつないでダイナミックに展開していく巧さが輝る。
※さらに、本作は、まだ周辺諸国の動きが明確にされていない、従来の上橋菜穂子の物語世界の政治描写から考えても、さらにシリーズ展開が期待できる。
最近のコメント