カテゴリー「韓国のSF」の記事

2024年11月20日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読むその4 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20241120173301 業務連絡:次回は十二月四日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。昨日から一気に冷え込みまして私も危うく風邪をひくところでした。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第4回目。
 AI「ジオ」が管理する「ハック」の中で反物質の対消滅と対生成が繰り返されていたとしたらどうなるのか。スンファは考察と計算を始めます。すると「時間の矢」の群れが揺さぶられ続け、非可逆性が破られて、可逆性の可能性が出てきました。その定量的計算をすると可逆期間は約五年。時間の矢が五年前に放出される可能性が算出されたのです。
スンファはジオのシステムの大前提「全ては人間の為に」を思い出しました。ジオは人類を五年前、戦争で反物質爆弾が使用される前の状態に戻そうとしている「意思」をもっているのではないか。
 スンファはウォン・チニョン大将にあって、この件を説明し、自分にジオと対話する許可を求めます。しかし、大将は問います。人類の時間旅行が可能であり、すべて五年前に戻ると、この五年間の記憶も消える。ならば、人類の時間旅行はこれが初めてではない、何度も、あるいは無限に繰り返しているのではないか。我々連合国は勝利し続けることができるのか、少しずつ歴史は改変されていくのではないか。スンファの功績も消えてしまっていいのか、と問いを畳みかけていきます。
しかし、スンファは答えます。自分の利己的な意思で多くの他人を殺してきたことを後悔しています。戦争を回避する可能性があるなら何が何でもやりたいのです、と。果たして今度は何回目の時間旅行なのか。歴史は変えられるのか。もっとましな選択肢はあるのか、というところで続きます。

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2024年11月 6日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読むその3 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20241106173301 業務連絡:次回は十一月二十日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。「ディズニープラス」では十月から配信中の韓国ドラマ邦題「ジョンニョン」が大人気だとか。しかし私は名前の日本語訳に納得できない。この場合「チョンニョン」の筈です。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第3回目。
 記者と物理学者の対談中継は続きます。AI(人工知性)ジオが制御するハックは、鏡映世界の反物質を我々の世界に区間を限定、つまり局所的に移動し、代わりにこちらの世界の物質を鏡映世界に転送してしまえるのです。この反物質を電荷して(※つまり電気分解)金属ではなくビームライン(※この場合はおそらく電磁気)で包み込んで「制御」してこのエネルギーを爆弾として利用し、第三次世界大戦で連合国は枢軸国に勝利したのです。しかし今、ハックに蓄積された反物質が飽和状態で、ジオはこれ以上は制御不能であることを人間に対して宣言し、反物質の保存にのみ機能を集中してしまっているのです。記者は、このまま反物質を蓄積し続けたら人類は滅亡するのか、と問うと、物理学者は黙り込んでしまいました。
ここで既にその答えを知っているスンファは映像を消してしまい、悲嘆にくれます。だが同時に疑問も浮かんできました。ジオの能力ならば過負荷防止システムの制御不能状態を感知しても人類の生死を無視して反物質の蓄積を「実験」し続ける試みを続け、人類にこの異常事態を隠し続けて人類滅亡を待つこともできた筈。なぜ、他のデータは正常値を表示し続け、反物質の蓄積量の異常だけを人類に公開したのか?。
※つまりスンファは、このジオの運行に、ジオ自身の「意思」を期待しているのです。
そこで、スンファは、閃きます。ジオの不可解な運行に何か意味があるのではないか。反物質データの蓄積のシステムを調べ直したスンファは、二つの世界の物質=反物質の等価交換の際のエネルギーが「時間の矢」の不可逆性に対して可逆性による混乱を引き起こす可能性を見出しました。これをスンファは、ジオが人類を滅亡から救うための運行をしているのではないか、と考え、今まで倦怠感にとらわれ続けていたスンファの頭脳は興奮し出したのです。

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2024年10月23日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読むその2 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20241022202801 業務連絡:次回は十一月六日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。当会の前回の翌日木曜日にハン・ガン氏ノーベル文学賞受賞。日本で同氏の作品をベストセラーにしたクオン出版社の金承福氏と翻訳の斎藤真理子氏の功績は大きい。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第2回目。
 スンファはジオに問いました「あなたはこの計画をどう思う」若干の遅延時間の後ジオは答えました「人間ではない自分に『あなた』という人称代名詞は不適切。自分には大前提に違反する可能性がある価値判断を論じることは許されていない」
スンファは、ジオに人間並みの思考や感情を示してくれることを期待していたのでした。スンファが考案した反物質爆弾で第三次世界大戦は連合国側の勝利に終わり、世界は、人口の三割を失い、その被害者数は枢軸国側に偏りました。そして彼女は大尉から中佐に昇進し、大戦の功労者として認められ、認証システムの受け入れを打診されました。それは、連合国側の高位人物は電子式認証システムを仕込んだチョーカーを首に装着することです。このシステムを受けた者の生命が脅かされると、月のジオに電信され、地球に向けて反物質爆弾を投下する仕組みです。つまり連合国側の高位者が暗殺やクーデターで危うくなれば、地球そのものが滅亡する、故に彼らの地位は脅かされないのです。
しかし、それでも「共倒れ」を怖れない抵抗者が現れる可能性はあり得ますのでスンファは受諾しませんでした。
 場面は変わり、テレビで物理学者がジオとハックの核融合システムと第三次世界の反物質爆弾の解説をし、科学には素人の記者が聴き手となる番組をスンファが観ている場面となります。※つまり作者が読者に解説する叙述上の構成です。
ジオという優れた人工知能システムがハックという人類史上最大の核融合システムをメンテナンスすることを可能にし、その強大な出力のエネルギーは、量子力学的な核反応のみならず、我々の宇宙における物質と反物質の存在比率の偏りの謎を解決した。我々の宇宙とは、物質と反物質の構成比が真逆の世界=鏡映世界が存在することを証明し、さらに、その世界に干渉し、空間を限定してあちらの世界の物質をこちらの世界に移動させる。移動してきた鏡映世界の物質=我々の世界にとっての反物質であり、相互に対生成と対消滅を繰り返し、核爆弾とは比較にならない破壊を限定的な空間=枢軸国側に起こしたのです。これが後に「パーフェクトゼロ」と呼ばれるところとなったのです。
最後に物理学者は解説します。月にジオとハックを建設したのは規模の大きさ故でした、本来の目的は、世界最大規模の粒子加速器という研究施設でした。さらに月には政治的な障壁はなく中立的な環境の筈だったからでした。
しかしこれを観ていたスンファは、苦悩します。偶々連合国側にジオの使用優先権があったのです。中立的だなんてとんでもない。地域が国境から自由だろうと、科学は自由になれなかった場合だったのに。
※という訳で「とりあえず」反物質爆弾の仕組みが解説された処で今回はここまで、次回へと続きます。

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2024年10月 9日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読むその1 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20241008191401業務連絡:次回は十月二十三日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。一気に気温が下がり一日雨でした。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、이하진(イ・ハジン)「지오의 의지(ジオの意思)」を読みます、今作で私が想定するテーマは『ハードSFにおける戦争と平和』。その第1回目。
プロローグは、ウォン・チンヒョン大将とチャ・スンファ中佐の対話から始まります。ウォン大将はスンファに粒子物理学博士としての意見を求めます。スンファは「地球は『ジオ』によって消滅します。痕跡すら残りません」
 場面は変わってジオとは『GIOH』=「ヒッグス加速器の巨大インターフェースとオペレーションシステム」地球の衛星「月」の半分を覆う粒子加速器とそこにエネルギーを供給するための核融合施設を合わせた建造物もさしますが。施設の一切をコントロールする超人工知能を「ジオ」と名付けられています。
しかし、第三次世界大戦が勃発すると、将来を嘱望されていた若き粒子物理学者スンファも、連合国側科学者軍人の募集に志願しました。しかし、そこで求められたのはジオの能力を駆使して「鏡映世界」との「対称性」(※=『パリティ』とも言う)を破り「向こうの世界」の「物質」=こちらの世界では反物質=をこちらに移動させて、敵地限定で「対消滅」させる「反物質爆弾」の開発でした。
 さらに場面は現代に戻り、ソウルの「国立ソウル顕忠院」での戦没者軍人追悼式に参席するスンファ。彼女は「国民の英雄」として祭り上げられて注目の的です。だが、今や「ジオ」が地球を破滅に導こうとしている事実を知ったスンファは、自分の犯した罪の意識に苛まれ続けています。
今スンファが物思いに耽るのは「ジオは自意識が存在しなかったか?」という期待でした。かつてスンファはジオに問いました「あなたはこの計画をどう思う」若干の遅延時間の後ジオは答えました「人間ではない自分に『あなた』という人称代名詞は不適切。自分には大前提に違反する可能性がある価値判断を論じることは許されていない」
※というところで本日はこれまで、まだ「反物質爆弾」の原理も、今「ジオ」がどうなっていて地球を消滅させようとしているのか等、一切説明されていません。本編はこのジオをめぐる量子物理学的解説とスンファの韜晦の情緒的な描写がせめぎ合うような文章が続きますので、なかなか難物です。

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2024年9月25日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読むその4 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20240923134801  業務連絡:次回は十月九日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。ようやく涼しくなりました。次は台風の心配か。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます、その第4回目。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でデモ騒ぎを起こした女性、自分が勤めるCERNのホイッパー・キャリー博士とそっくりな人を探る「キル・サンウ」は急遽空路でアイルランドのダブリンに向かい、ロレインに対面します。しかし、ホイッパーのことを話し始めた途端、ロレインの態度は拒絶的になりました。
それでもロレインは自分の理論については話してくれます。しかしサンウがあなたの理論の数値をCERNのアレックが証明したと話してもあまりうれしそうではありません。既に自分の「飾った宇宙」の中に生きていれば、リアルな宇宙よりもそちらが大切だ。科学者はそういうものだと語るとロレインは、そういう「自分の飾った宇宙」を脅かす存在がいたらそいつには何をするかわからない、だからこれ以上関わってはいけないと警告してサンウを追い立てました。
しかし、サンウが外へ出ると、既にそこにはホイッパー・キャリー博士が待っていました。食事にさそったホイッパーにサンウがついていくと、レストランでホイッパーは真相を語りだします。キャリーとは、ホイッパー、メルセンヌ、そして「両者が重複したホイッパー/メルセンヌ」が存在している。ホイッパーもメルセンヌもアインシュタインの信奉者、つまり決定論者です。ホイッパーはこれを真実として人がこれを知り受け止めなければならない、と考えてノーベル賞授賞式で騒動を起こした。これに対してメルセンヌは、決定論は「個人が何の罪を犯そうと、それはあらかじめ決定されていたことだから罪悪感を持つ必要がない」と人は考えてしまうから、これを知られてはならない。そのためには量子力学の不確実性が認識される方がいい、と考えている、と。
 そして「キャリー」は問うのです。今、ジュネーブではアレックと、ホイッパーとメルセンヌのいずれかが食事をしている。私がホイッパーかメルセンヌか分かるか?、ホイッパーなら大した問題ではない、だがメルセンヌなら、秘密に気付いた相手を殺す、と。
どちらのキャリーか分かった途端に、アレックかサンウのどちらかが殺される。サンウはこれは量子レベルの話ではない、人間の世界でそんなことが起きる筈がない、と思いつつも恐怖で一度は目を閉じます。しかし、目を開けた時に気付いてしまいました。利き腕から目の前のキャリーがメルセンヌであることを。彼女の持つ食事用のナイフが妙に鋭いことを。
※量子レベルの理論を、人間個体レベルのスケールにダイナミックに「大風呂敷」を広げると、こういう話になる、という一例でした。
では、次回からは、また新しいテキストで。

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2024年9月11日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読むその3 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20240911171801 業務連絡:次回は九月二十五日(水)午後一時半からです。まだまだ暑いです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます、その第3回目。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でデモ騒ぎを起こした女性、自分が勤めるCERNのホイッパー・キャリー博士とそっくりな人を探る「キル・サンウ」に同僚のアレックは一枚のポストイットに書かれたメモをサンウに渡します。そこには彼女の名前は「メルセンヌ・キャリー」アイルランド人とありました。ホイッパー博士と同じ姓だと分かった以上、二人はどんな事情があるにせよ、姉妹に違いない、と確信したサンウですが、ホイッパーに問い詰めても、否定され続けます。その一方でホイッパーは自分の研究については熱心に話します。自分の研究は量子力学をコンピューターシステムの暗号化に応用することだ、そこに「素数」計算が関係してくるのだ、と。
さらに彼女は語りだす。我々の生きる宇宙に不可欠なものは、無限の連続は存在しないことなのだ、と言い、古代ギリシャのツェノンのパラドックス「アキレスは永遠に亀に追いつけない」を引用し、この世界に「無限」は存在しない、ミクロ構造を突き詰めれば最小限の単位「プランク」定数が存在する。結論としてこの世界は有限なのだ。
一方アレックは、謎の周波数について調査を続け、サンウが見たメルセンヌ・キャリーのプラカードのもう一つの数値が謎の周波数であることを見つけ出し、「ノイズではない」ある物理的現象である、それが何かを実証するのだと意気込んでサンウに語りました。
ここで作者の解説が入ります。数学に「メルセンヌ素数」というものがあり、これが物理学とは文字通り桁違いな数値を扱うのだと。
そして、突然ホイッパー博士は姿を消しました。手がかりを無くしたかに見えたサンウは、ホイッパーがアイルランド語で「完全」を指す言葉であり、「メルセンヌ素数」は数学の「完全数」と対で出現すると知ると、ますます二人の関係を確信し、さらに、二人にこの名を付けた母親「ロレイン・キャリー」がアイルランドのベルリン大学トリニティカレッジの現職教授であり、彼女の三十年前の博士論文が「モワレ現象(※干渉縞)」に関するものであることを突きとめました。モワレ現象とは極めて短い周波数の異なる音が重なると大きな音に聴こえる、しかし短過ぎて人間には連続した音に聴こえることです。
サンウは、急遽空路で当地に向かい、ロレインに対面します。しかし、ホイッパーのことを話し始めた途端、ロレインの態度は拒絶的になりました。というところで次回へと続きます。

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2024年8月28日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読むその2 #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20240828174101 業務連絡:次回は九月十一日(水)午後一時半からです。先週は甲子園で京都国際高校が話題を集め。韓国映画「ソウルの春」が封切り。深夜にはパリパラリンピックが始まります。
では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます、その第2回目。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でデモ騒ぎを起こした女性が、自分が勤めるCERNのホイッパー・キャリー博士とそっくりだったことに気づいた「キル・サンウ」類まれな、見真似と微細な数値も見定める記憶力を有している彼は、騒ぎを起こした女性が掲げていたプラカードに記された「神はサイコロ遊びをしない」という言葉と、謎の2つの数値を記憶します。
後日職場の友人アレックが、粒子加速器の測定値にノイズが混じっている、とキル・サンウにボヤきます。彼が提示したグラフと数値データを見たサンウは、直ぐに、妙な数値の周波数を見極めました。しかも、その数値は、あのプラカードに記されていた2つの数値のうちの一つでした。授賞式の騒ぎとプラカードのことをサンウから聞いたアレックは、何も知らないサンウにアインシュタインと量子力学の「量子もつれ」の問題について解説します。
ここから本作前半のハイライト、7節に渡って「神はサイコロ遊びをしない」を巡る量子力学の量子もつれの解説が本編を離れて作者から読者へ直接、解説が始まります。※私は、本文を訳すより、日本語の科学解説を読むのに時間を要しました。ジョン・スチュワート・ベルの「ベルの不等式」、ニールス・ボーア、アスペ、クラウザー、ツァイリンガー、の量子力学者らの名前が出て、解説が終わり本編に戻ります。
謎の周波数について調査したアレックは、その結果をサンウに話し出します。ノイズの発生したのはCERNだけではない、アメリカのLIGO、プエルトリコのアレシボの電波望遠鏡、日本のニュートリノ検出器カミオカンデ、さらに火星探査機パーサヴィアランスでも同じ周波数のノイズが測定されたというのでした。アレックの関心はもはやそちらの現象で、サンウの関心はあくまで女性の方です。しかし最後にアレックは一枚のポストイットに書かれたメモをサンウに渡します。というところで次回へと続きます。

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2024年8月14日 (水)

「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より #남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読む #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20240814175801 業務連絡:次回は八月二十八日(水)午後一時半からです。危険な暑さは続きますが、都心では日中ににわか雨が降ったようです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
 昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその五回目。クライマックスです。
AI議員アンドロイドと対面したヘミンは、ようやく、自分はただ、あなたが書いた本の続きを読みたいだけです。と本を取り出して目的を打ち明けました。アンドロイドとはいえ、驚いた?AI議員は、今の議員個体に代替する前に書いたもので、続きは存在しないと話します。
落胆したヘミンですが、それでも、次にどうするはずだったのか話してくださいと頼みます。
するとAI議員は季節を失った人々が季節を取り戻していくかを語るのでした。話が終わった処に人間の暴徒達は押し掛け、AI議員は破壊されてしまいます。ヘミンは、警備アンドロイドの瓦礫と負傷した人々の間を一人歩いて空港に戻り、帰航します。
そして安楽死センターとAIを破壊する電磁気パルスは地球全土で発動し、人類は週末を迎えました。

そして、次のテキストは、今年7月に刊行された新作ハードSFアンソロジー「사랑 과 혁명 그리고 퀘스트(愛と革命とクエスト)」より、남세오(ナム・セオ)「벨의 고리(ベルの尾)」を読みます。
2022年12月ストックホルム市庁で開かれたノーベル物理学賞授賞式でちょっとしたハプニングが起きました。その年は量子力学の実験による証明をした3人の物理学者に授与されたのですが、会場の参席者の中からピケ(※日本のピケを張る=バリケードをつくる、という意味とは異なりスローガンを書いたプラカードを指すらしい)を掲げた女性がいて、直ぐに警備に拘束されたのですがそのピケに書かれていたのはドイツ語の「神はサイコロ遊びをしない」アインシュタインが量子力学を拒絶した時の有名な台詞と、その下に謎の数字が二種類書かれていたのです。
この模様を放送していたモニターを何気なく眺めていた、CERN(欧州原子核研究機構)の各種計測装置のメンテナンス業務従事者に過ぎない、しかし、卓越した記憶力と「見真似」の能力を持つ「キル・サンウ」は、その数字と文言ではなくて、拘束された女性が、当研究所の研究者ホイッパー・キャリー博士とそっくりだったことに驚いたのでした。
後日、何気ない風を装って、キャリー博士の研究室を訪ねたサンウは、スウェーデンに行ったか、授賞式の騒動を知らないか尋ねてみるのですが、何も関係ない、知らない様子でした。他人の空似だったか、とそれっきりで終わる筈でしたが。後日、研究者の友人、アレック・ホフマンが粒子加速器の計測値データに奇妙なノイズが混じっている、とぼやく相手をした時のことです。
というところで次回へと続きます。ここからいよいよ量子力学の理論を巡る、奇妙な物語が始まります。

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2024年7月31日 (水)

「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より #유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその4(20240731) #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20240731171501 業務連絡:次回は八月十四日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
 昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその四回目。
人類の終末という事態の渦中で、ヘミンは、これが最後、と思って読んだ小説は、結末を読めない。こんな皮肉な事態の中で、さてヘミンはどう行動するか?
ヘミンにわかるのは、この本の著者が創作アンドロイドであり、その個体認識番号だけです。そこにバチカンのサン・ピエトロ大聖堂からAI議員が、2257年11月4日から窒素基盤安楽死センターを起動(※窒素というのは、人類も、地球の大気も構成する元素です)、続いて宇宙ステーションも稼働停止、墜落させて、電磁気パルスを発生させて、集積回路基盤生命体の活動を止める、と宣言しました。※電磁気パルスを電気通信ネットワークに流してショートさせる。つまり人間だけでなく、機械も活動を停止する、ということです)。
 だがヘミンが注視したのは、そのAI議員アンドロイドの個体認識番号は、この小説の作者のそれと同じだったのです。
この状況でヘミンは、この本だけを携えて、バチカン行きの旅客機に飛び乗りました。父母からの電話ではバチカンでは、人間が抵抗軍を作って、AI議会に暴動を起こしている、と聞きました。
バチカンに降り立ったヘミンが見たのは、人間達がサン・ピエトロ大聖堂とそれを守るアンドロイド達に暴動を仕掛けている光景でした。
逃げる隙も、言い訳する間もなく、ヘミンは人々に巻き込まれ、押され引かれて、遂には行軍の先頭となり、最後の一人となって、大聖堂の中まで入ってしまいました。そこの祭壇に一人待っていたAI議員アンドロイドは、まさしく、ヘミンが探した小説の著者の個体認識番号の持ち主でした。落ち着いた態度で彼は、ヘミンに、話でも攻撃でも何でもお受けしますと話しかけます。言い訳を始めるヘミン、というところで次回へと続きます。
※今回で一気に最後まで読了するつもりでしたが、今朝のNHK朝ドラ「虎に翼」に興奮した私が、その話を夢中でしていたので時間が無くなりました。

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2024年7月18日 (木)

「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より #유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその3(20240717) #韓国の現代SF小説 #韓国 #SF

Sf_20240718082601 業務連絡:次回は七月三十一日(水)午後一時半からです。では、いつもの口上から、おそらく(笑)史上初にして唯一、韓国・朝鮮語自主学習教室数多あれど、韓国の現代SF小説をテキストにした月曜会2。
 昨年出た「人類の終末」テーマのSFアンソロジー「인류의 종말은 투표로 결정되었습니다(人類の終末は投票で決定されました」より、유권조(ユ・コォンジョ)「침착한 종말(落ち着いた終末)」を読むその三回目。
建築設計デザイナーのヘミンが目覚めると朝のニュースで、世界AI議員議会は、11月4日を起点として「人類の終末手続き」を開始すると決定した、と発表した、と伝えるのです。突然の事態に、ただ当惑して、市庁舎の建築部の事務所を訪れたヘミン、と言う件からです。
事務室でAIアンドロイドの担当者は、しかし、そこでもまた詳しい事態は知らされていないという事で、何もわかりませんでした。失意のヘミンは、市庁を出ますが、そこでも、いつもの日常と変わりない光景が続き、ヘミンは、暇な一日を持て余しながら過ごします。
あくる日、ヘミンは、出勤しますが、上司によるとやはり詳細な情報は来ていない、現行業務を遂行する要請しかありませんでした。
 勤務時間終了後、警備アンドロイドが自殺未遂を図ったフレディの席を片付けるために集めた荷物を見かけたヘミンは、そこに一冊の本を見つけます。それは「今時」では珍しい、革張り装幀の「紙の本」でした。
 ヘミンはその本を持ち帰ります。その後の、一日中、ヘミンは本を読み続けました。百年前の流行小説でした。
季節が「冬」しかない世界で、「神の声」が聞こえる「振り」をして神官になった少女は、夏、秋のある世界へ向かう途中、船が難破して「季節のない」世界に漂着します。その世界の人々は季節のない世界への恨みを「神官」である少女に向け、彼女を害そうとするので、少女は逃亡、洞窟中に逃げ込みます。そこで少女は謎の声を聞きます。
 というところで、本の最後の章は終わり、その続きがありません。ヘミンは呆然とするのです。
※マクロな世界では人類の終末という事態の渦中で、ヘミンは、これが最後、と思って読んだ小説は、結末を読めない。こんな皮肉な事態の中で、さてヘミンはどう行動するか?というところで次回へと続きます。

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